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逆上せるように

※ご注意回です(ご無体系)

王都の城下視察の日。

不思議と、朝から空気がざらついていた。


魔王はいつも通り、感情を抑えた顔で視察をこなしていた。

――途中までは。


夕方。

帰還した魔王は、出迎えた王妃の姿を見た瞬間。

張り詰めていた何かがひっそりと切れた。


「陛下、おかえりなさいませ」


やわらかな声。

胸元まで流れる、波打つ艶やかな髪。

視察の間、ずっと脳裏に焼きついて離れなかった姿。


魔王は返事もせずただ王妃の腰に手を回し、そのまま肩に担ぎ上げた。


「きゃ――っ、へ、陛下……!?」


抗う隙など与えなかった。


視察に同行していた近衛隊、そして王妃の傍に控えていた女官長や女騎士は息を呑んだが。

魔王の形相に、誰一人声をかけられなかった。


王妃は寝室の寝台に放り置かれ。

次の瞬間、魔王の影が覆いかぶさる。


その後は――

名前を呼ぶことさえできないほどの熱に、ただただ飲み込まれていった。



どれほど時間が経ったのか分からない。


王妃の肩は細く震えていた。

ドレスの襟元は大きくはだけ、裾も乱れている。


そして白い肌に――

花弁のような赤みが、静かに無数に散っていた。


魔王は、ぐったりと腕の中に沈む王妃をそっと抱え上げる。

その表情には後悔よりも、抑え難い独占欲の名残が濃かった。


湯殿へ向かい、温めた湯に王妃ごと浸かる。

王妃はぼんやりとまぶたを震わせ、やがてゆっくりと焦点を取り戻した。


「……陛下……?」


掠れた声。

魔王は呼吸を止める。


王妃はしばらく魔王の胸に額を預けたあと、ぽつりと呟いた。


「……大丈夫、ですか?」


魔王の瞳が大きく揺れた。

“自分の方を案じる王妃”という存在が、胸に刺さる。


「……すまぬ」


低く、押し殺した声でそれだけ。


王妃は小さく首を振り、湯の中でゆるく魔王の首へ腕を回した。


「いいえ……陛下のことは、よく分かっていますから……」


その声は弱くない。

慰めるでも、責めるでもなく――ただ“寄り添う”声音。


魔王の喉が震えた。


視察先で向けられた、とある貴族の言葉。

王妃の肖像を前に「あれほどの美が、王の所有とはなんと惜しい」と、わざと聞こえる声で語った。

――王妃が誰のものであるか、百も承知の上で。

敬意も畏れもなく“それでも欲しい”と示す色だけが、はっきりと在った。


それが――

魔王にはどうしようもなく、不快だった。


王妃は“それ”を見抜いている。

尋ねず、責めず、ただ受け止める。


魔王は目を伏せ、静かに言う。


「……お前には、やはり敵わないな」


王妃はほんの少し誇らしげに「はい」と答えた。

湯気の向こうで、魔王の肩から緊張が解けていく。


「……無理をさせた」


その言葉には“もう傷つけたくない”という深い情が混ざっていた。


王妃は魔王の胸に頬を寄せ、少し照れたように囁く。


「平気です。ただ……」


見上げる瞳が潤んでいる。

それがまた、魔王の理性を軽く引き攫う。


「髪を、乾かしていただけますか?」


その言葉に。

魔王は王妃の頬に指を添え、囁くように落とした。


「そんな“おねだり”なら――いくらでも聞いてやる」


そして濡れた唇に、そっと口づけを重ねた。


湯殿に、ふたりの吐息が混ざり合って。

嫉妬の熱も甘い余韻も、すべて溶けていくように満ちていった。

魔王さんの独占欲を、全身で受け止める王妃ちゃんでした。

ちなみに、どこぞの貴族は今頃葬られてますネ( ◜◡◝ )

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