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透ける布の向こう側

寒い冬がようやく終わりを告げ、やわらかな春の光が満ち始めた王城。


西の砂国から訪れていた使者は、謁見の間で深く頭を垂れて言った。


「我が国より、王妃陛下への贈り物にございます」


控えていた女官長は箱を見た瞬間、何故だか嫌な予感がした。


使者が箱の蓋を開ける。


――軽い布。


重なっているはずなのに、透ける。

肌の色を、光を。明らかにそのまま拾う、布。


魔王はそれを、無言で一瞥するだけだった。


女官長の内心は穏やかではない。


(……かの国は、隠すという概念が、おそらく砂に埋まっている……)


王妃は一瞬だけ言葉を失い、それでも礼儀正しく微笑んだ。


「素敵なお衣装を、ありがとうございます」



贈られた箱を携えて私室に戻った王妃。

その後放った言葉に――女官長は、言葉を失った。


「……せっかくですから、試着してみてもいいですか?」


女官長と女官たちは王妃を宥めるでもなく、早々に諦めて慎重に異国の衣装を整える。


頭には、薄いベール。口元も隠されている。


全身は布で覆われているものの、光を集めるその軽さが逆に輪郭を強調する。

身体の曲線は見えるか見えないかの瀬戸際で、どう見ても――男心を誘うものであった。


裾に施された小さな金属の飾りたちが、王妃が動くたびにシャラ……と音を立てる。


王妃は鏡の前で、少し戸惑った。


「やはり透けている箇所が――多いでしょうか?」

「はい」


(いえ、かなりです……)と思いながら、女官長は即答した。


「ですが、正式な贈り物ですので……」


王妃は少し考え、頷いた。


「陛下に、確認していただきたいです」


もはやその言葉は、地獄そのものだった。



魔王は私室の扉が開いた瞬間、動きを止めた。


「……」


言葉が、出なかった。


透ける布の向こう――

王妃の“存在”だけが、はっきりと見える。


王妃は少し不安そうに、問いかける。


「陛下、こちらの衣装……」


シャラ……と音が鳴る。


魔王は無言のまま、ゆっくり近づいた。


一歩。また一歩。

そして内心。


(余は――今、非常に、理性を、消耗している)


「……あ、あの?」


魔王は外套を脱ぎ、そっと王妃の肩にかけた。


「これ以上――見せるな」

「……陛下?」


魔王は低く言う。


「昼間から――起き上がれなくなりたいか」

「え?」

「どうしても着たいなら――夜にしろ」


その一言に、王妃の頬が一気に赤くなる。

魔王は即座に踵を返して。


「夜なら、思う存分に見てやる」


まるで捨て台詞のようにして、私室から退出した。

王妃は全身が、砂漠の国にいるように熱くなった――



後日。

女官長は私用の日記に、淡々と書き残した。


《西の砂国のお衣装は、王妃陛下に非常によくお似合いであった。ただし以後同様の贈答品は、全て陛下の事前確認を必須とする》


そして、小さく追記する。


《――陛下の理性保全のため》

多分、夜にコスプレしてます'`,、('∀`) '`,、

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