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王妃、風邪を引く

魔王の姉と息子たちが帰還してから数日。

王城はいよいよ、年越しの支度に追われていた。


その朝――王妃は少しだけ額に熱を帯び。

時折、控えめな咳をこぼしていた。


「……微熱でいらっしゃいますが、食欲はあられます」


女官長の冷静な報告に、魔王は沈黙した。


次の瞬間。


「緊急事態だ」


低く揺るぎない声が、執務室に響いた。


「王妃の体調不良を確認した。本日より業務は最低限を除き停止とする。余は、王妃の傍を離れぬ」


宰相を始め、臣下たちは一斉に青ざめた。


「へ、陛下!?」

「陛下、それは――」

「年末の政務が――!」


しかしその声は、魔王の一睨みで凍りついた。


「異論は、受け付けぬ」


こうして王城は。

年末を目前に、ほぼ機能が失われた。



王妃が寝台の上で申し訳なさそうにしている。


「陛下、大丈夫です。少し咳が出るくらいで――」

「ならば尚更だ」


魔王はその場に外套を脱ぎ捨てると、踵を返した。


「厨房へ行く」

「……え?」


しばらくして戻ってきた魔王の手には。

湯気を立てる陶器の椀と、王妃が気に入って使っているカップ。


その背後には、顔色を失った料理長が立っている。

料理長は王妃に挨拶をしてから、すぐに下がった。


魔王は王妃の隣に座り、椀を持った。


「口を開けよ」

「……陛下?」

「養生だ」


王妃は恥ずかしくなりながらも従った。


一匙ずつ粥が運ばれる。続いて、温かい蜂蜜湯。

やがて――ほうっと息をついた。


「……美味しいです」


その一言で、魔王の表情が緩んだ。



夕方。

王妃の熱はすっかり下がり、咳も落ち着いた。


「ほら、元気になりました」


王妃が微笑む。

しかし魔王は頷きながらも、真顔で言った。


「だが喉を労わるために――蜂蜜湯は継続だ」

「咳も大丈夫ですが……」

「喉は――冬でなくても、夜に枯れる」


次の瞬間、すべてを察した。


「……っ!」


魔王の視線は、やけに熱を帯びている。


「……今度は、高熱が出そうです」


ぽつりと呟いた王妃に、魔王は満足げに微笑んだ。


「それはそれで、余が看る」

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