小さな強者からの告白
年末を前に、魔王の姉が息子たちを伴って王城に姿を現した。
夫である公爵は領地に残り、母子のみの滞在である。
謁見の間にて。
久しぶりに王妃を目にした瞬間、魔王の姉の長男ははっと息を呑んだ。
「……王妃陛下」
丁寧に一礼し、視線を上げる。その頬が、わずかに赤い。
「お会いできて……嬉しいです」
王妃はやわらかく微笑んだ。
「私もです。お元気そうで、何よりですね」
そのやり取りの隣で。
魔王の姉の二男は、王妃のドレスの裾をぎゅっと掴んでいた。
「おうひさま」
無邪気な声。
「ゆき、あそんでもいい?」
王妃は屈み、目線を合わせる。
「はい。もちろんです」
その様子を魔王は――無言で、見ていた。
*
王妃は甥たちが王城に滞在している間、よくともに過ごした。
庭園で雪に触れ、廊下で追いかけっこをし、書庫では絵本を開いた。
長男は少し距離を保ちながらも、王妃の隣を離れなかった。
ある日の午後、庭園のベンチで休んでいたとき。
長男が、意を決したように口を開いた。
「王妃陛下……」
「はい?」
「……僕、王妃陛下が、とても好きです」
王妃は驚いたが、すぐに微笑んだ。
「まあ。ありがとうございます」
「それで……」
少年は耳まで赤くして続ける。
「王妃さま、とお呼びしても……よろしいですか?」
一瞬の沈黙。
王妃は困ったように、けれど優しく答えた。
「もちろんです。ただし公の場では“王妃陛下”ですよ?」
「はい!」
その瞬間。
王城の空気が、わずかに震えた。
通りかかった魔王が、その様子を見ていたのだ――
別室で、紅茶を飲んでいた魔王の姉は即座に気づき。
一人楽しそうに口角を上げる。
「あらあら」
*
夜の寝室。
魔王はまるで閉じ込めるようにして、王妃を腕の中に抱いていた。
「……随分と、懐かれているな」
声は低い。
「陛下の、甥子さまたちですよ?」
王妃は苦笑いする。
「分かっている」
さらに腕が強まる。
「だが、余は気に入らぬ」
「陛下……?」
「“好きです”などと」
額に触れる。
「余の妻に、言う言葉ではない」
「まあ――お聞きになられていたんですか?」
王妃は魔王を見つめて。
「……小さな子にまで、そのようなお気持ちに?」
「当たり前だ」
魔王は即答する。
「年齢も、血縁も、関係ない」
王妃の肩に顔を埋める。
「お前を見る目が、増えることは許さぬ」
王妃は微笑みながら、そっと背に腕を回した。
「……大切に、され過ぎている気がします」
魔王は顔を上げ、無言で王妃の唇を奪った。
*
翌朝。
朝食の席で、長男と二男は王妃の両脇に座ろうとした。
しかし気づけば、王妃は魔王の隣に引き寄せられている。
「……叔父上?」
長男が首を傾げる。魔王は、平然と言う。
「王妃は、余の隣だ」
二男が、きゃっと笑う。
「おじうえ、やきもち?」
魔王の姉も声を上げて笑った。
「相っ変わらずねえ」
王妃は真っ赤になりながらも。
そっと見えないところで、魔王の袖を掴んだ。
年の瀬の王城は――嫉妬で大忙しだった。




