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それは雪さえも溶かす

この年、王城に積もった雪は深かった。

庭園は一面の銀世界。今年最初の雪である。


「……すごい……」


王妃は思わず声を上げた。


外套の裾を持ち上げ慎重に歩いていたはずが。

気づけば、足取りは軽くなっている。


「こんなに積もるのは、初めて見ます」


振り返った王妃の頬は、冷気と興奮でほんのり赤い。

魔王はその様子を、黙って見つめていた。


(……楽しそうだな)


それだけで、この厳しい冬を許せる気がした。


ほどなくして、女騎士と女官たちが合流する。


「せっかくですし、雪だるまを作りませんか?」


王妃の提案に誰も逆らえなかった結果。

庭園の一角に、常識を逸した大きさの雪だるまが生まれた。


「……大きすぎでは?」


女官長の声はすでに遠い。王妃は満足げに、手を叩いた。


「すごいですね!」


その直後。


――ぐらり


「え?」


雪だるまが傾いた。

次の瞬間、白い塊が崩れ落ちる。


「王妃陛下――!」


雪煙の中に、王妃の姿が消えた。

魔王は考えるより先に、動いていた。


「王妃!!!」


雪をかき分け、腕を伸ばす。


「……陛下……」


埋もれていた王妃は無事だった。

ただ、驚きで目を見開いている。


魔王はそのまま抱き上げた。


「怪我は」

「だ、大丈夫です……」


抱き寄せられた距離が、近すぎた。

雪の冷たさと対照的に、魔王の腕は熱を帯びている。


「……驚かせるな」


低く、けれど安堵した声。


王妃は申し訳なさそうに――

だが、どこか嬉しそうに微笑んだ。


「……助けてくださって、ありがとうございます」

「当然だ……」


その後。


二人は雪の上で並んで立っていた。

距離は、限りなく近い。


魔王の外套が自然と、王妃を包む。

沈黙――だが、その空気はとてつもなく甘い。


まるで、周囲の雪が溶けてしまいそうなほどに。


少し離れた場所で、女官長は天を仰いでいた。


(……冬も、胃薬が足りない)


女官たちは無言で頷く。

女騎士は、雪深い地面を見つめながら思った。


(……雪だるまは、もう作れない)


その日、庭園の雪は――

一部だけ、早く溶けたという。

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