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極北からの芳醇酒②

翌朝。

寝室に差し込む淡い光で、王妃はゆっくり目を覚ました。

しかしすぐに頭痛を覚え、こめかみを押さえた。


「……陛下?」


傍らの魔王が穏やかな――

それでいてどこか満足そうな顔で、こちらを見ていた。


「目覚めたか」


王妃は首を傾げる。


「……あの、昨夜……」

「覚えておらぬか」


王妃は、必死に思い出そうとして――


「……何も……」


魔王は、ふっと笑った。


「そうか」


そうして顔を近づけ、低く囁く。


「では聞かせてやろう」

「……何を、ですか?」

「『うれしいの』と、言っていた」


王妃は、やはり理解はできなかったが。


「……可愛かった」

「……っ!」


その一言で察して、顔を真っ赤にした。


「何か……言ってしまったですね」


王妃は、寝具に顔を埋めた。


「……忘れてください……」


魔王はその姿を見て。


(忘れているなら)


何度でも、言おう――思い出させるために。


極北の酒は、確かに厄介だった。

――だが。


王妃をこれほどまでに甘くするなら。

処罰は、姉と女医だけで十分だろう。



その日の昼。王城の応接間。

空気が――やけに張りつめていた。


魔王の姉は、優雅な仕草で紅茶を飲んでいる。


「で?」


対面に座る女医は、穏やかな笑顔のまま。


「良いお酒でしたね」


――沈黙。

魔王は、立っていた。


「余は」


とてつもなく低い声。


「王妃に酒を飲ませるなと――命じたはずだ」


姉は、あっさりと言う。


「少しだけよ」

「飲んでどうなるか分からぬから、禁じた」


女医が肩をすくめる。


「しかし問題は……特に起きていないですし」


その瞬間。空気がさらに冷えた。


「……問題は」


魔王は、ゆっくり続ける。


「余が、理性を捨てたことだ」


姉は一瞬だけ目を丸くし――吹き出した。


「はははっ!あんたもちゃんと、男ねえ!」


魔王の眼光が鋭くなる。


「処罰を言い渡す」


女医は、条件反射で姿勢を正した。


「今後一切――王妃関連の“余計な配慮”を禁ずる」


女医は黙って頷いたが、姉は口を尖らせた。


「つまんなーい」

「……登城禁止になりたいか?」

「えー!それは嫌だから、仕方ないわねえ。ま、多分守らないけど」


そう言いながら片目を閉じ、魔王を指差す姉。

相変わらずのその様に、魔王は頭を抱えた。


――これでは全く、処罰になっていない。と。

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