封にして、柱 ―創世の書―
王城の書庫は、いつもどこかひんやりとしていた。
王妃は一冊の厚い書を手にしている。
表紙には装飾もなく、ただ一行。
――『創世の書』
魔王国の成り立ちを記した、最古の記録だった。
頁をめくる指は、慎重だった。
言葉は淡々としているのに、書かれていることは重い。
魔王国は千年続く。
“魔”とは種族ではなく、称号。
そして魔王とは――
王であり、封であり、柱である。
王妃はそこで一度、読む手を止めた。
――封。
――柱。
誰かを讃える言葉ではない。
誰かに背負わせる言葉だ。
さらに読み進める。
地の底の奥深くに眠る、膨大な力。
その正体は誰も知らない。知ろうともしない。
それを抑えることができるのは、たった一人。
その者が揺らげば国も、世界も揺らぐ。
力を狙い、争乱が起きる。
王妃は、そっと本を閉じた。
――だから。
王城が、王城である理由。
魔王が、魔王である理由。
そしてあの人が時折。
何も言わずに、自分を抱き寄せる理由。
胸の奥で、静かに繋がっていく。
「……重い、ですね」
思わずこぼれた声。
だが、不思議と怖くはなかった。
書に書かれている魔王は――
玉座に在る存在で、
国を支える存在で、
力を制する存在だった。
けれど王妃の知っている魔王は――
夜に名を呼び、
朝に髪を整え、
熱く腕を回してくれる男だ。
王妃は、表紙を撫でた。
「私が学ぶのは……国のこと、だけではありませんね」
誰に言うでもなく、そう呟く。
この国は、魔王一人で支えられてきた。
ならば――
その隣に、立つことを選んだ自分は。
最初から、制度の外に置かれた自分は。
愛され、守られることを力にして。
何を知り、守らなければならないのか。
書庫の奥で風が、かすかに鳴った。
王城が――静かに息をしている。
王妃は立ち上がり、創世の書を胸に抱いた。
重みは確かだった。
それでも不思議と――
その重みは。
独りで背負うものではないと、もう知っていた。




