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壊した先の唯一 ―前日譚・夜―

中立国の王女がやってきた、その夜。


宰相は執務室で一人、書類を前にしていた。

だが、文字は目に入らない。


――先刻。

制度を壊された。


反対だった。理で考えれば、明らかに危うい。

前例もない。守られるべき秩序だった。


しかし。


『――命はない』


その言葉が、今も耳に残っている。


脅しではない。激情でもない。

あれは――決定だった。


(陛下は)


宰相は眼鏡を外す。


(最初から、制度よりも――)


“王妃”を自ら選んだ。


守るために壊す。隠すために命じる。

それが、魔王という存在なのだ。


「……厄介な主君だ」


そう呟いて、宰相は小さく笑った。



同じ頃。


魔王は女官長の制止を振り切り、王妃に与えた私室に入った。


寝台の際に立ち、眠る王妃を見つめる。


疲れの色がわずかに見えるが、規則正しい寝息。

細く白い指が、寝具から覗いている。


(……知らなくていい)


制度も。

反対も。

血の匂いも。


(世継ぎの王子を生むまで名乗れぬなど、誰が決めた)

(――愚かな)

(余が決める)

(余が、この国の王だからだ)


眠る王妃に、聞こえないように呟いた。


「……全てを超越する存在だ」


(そして――たった一人の、妻だ)


声には出さない。

だが胸の内では、はっきりと誓う。


――確かに。


壊したのは、制度。失わせたのは、道理。

それでも、与えたものもある。


――最初から“選ばれる資格”など関係ない世界を。


魔王は王妃の額に、静かに唇を寄せた。

眠ったまま、王妃がわずかに身じろぎする。


それでいい――これ以上の、証は不要だ。

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