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王妃、料理をする

王城の厨房に、少しだけ緊張した空気が流れていた。


調理台の前に立つ王妃は袖を留め、真剣な面持ちで籠の中身を見つめている。


裏山で拾った栗と、数種類のきのこ。

秋の恵みそのものだ。


「……陛下に、召し上がっていただきたいのです」


その一言に料理長は一瞬だけ目を見開き、すぐに深く頷いた。


「もちろんです王妃陛下。全力でお手伝いします」


女官長はというと、すでに覚悟を決めた表情で袖をまくり。

女騎士は包丁の扱いを確認している。


王妃は、料理が不得意というわけではない。

ただ“得意”とも言えない。それは本人が一番よく分かっている。


「まずは……栗を、剥くのですね」


そう言って小さく息を吸い、包丁を手に取る。


数分後。


「王妃陛下、その角度ですと――」

「こ、今度こそ……」

「殻は力よりも、刃の入れ方でございます」


厨房はもはや、戦場に近い。


王妃は真剣そのものだが、栗はころころと逃げ、きのこは大きさが揃わず。

しかしその姿は愛らしく、誰も止めようとはしなかった。


「陛下が喜んでくだされば……それで」


ぽつりこぼれた言葉に、女官長は静かに視線を逸らし、料理長は咳払いを一つ。


時間をかけ、何度も確認しながら、ようやく一品が仕上がった。

栗ときのこの炊き込み料理。見た目は――十分、食事だ。


「……できました」


小さな達成感と大きな不安を胸に、王妃はそれを魔王の前へ運ぶ。


魔王は席に着き、静かに料理を見つめてから、ひと口。


王妃が、息を止めた。


数秒の沈黙の後、魔王は何も言わず、もう一口食べる。

そして、三口目。


「……よい」


その一言に、王妃の肩から力が抜けた。


「本当ですか……?」

「余のために作った。その事実が、何よりだ」


魔王はそう言って王妃の手を引き寄せ、指先に口づける。


「この味は、余にしか許されぬ」


王妃は一気に頬を赤らめ、言葉を失った。


その様子を遠くで見守っていた料理長たちは、静かに目を閉じる。


(――秋の味覚にまで、甘さが染みている)


こうして裏山の栗ときのこは。

魔王国史上、最も甘い料理として記憶されることとなった。

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