王城の裏山 ―秋―
庭園での膝枕から、数日後。
空気がさらに澄み、王城の裏山は本格的な秋の色を帯びていた。
王族しか入ることの許されていないその場所は、庭園とはまた違う風景を見せてくれた。
誰も踏んでいない、落ち葉を踏む音が心地よい。
王妃は小さなかごを手に、足取りも軽かった。
「陛下、見てください……栗です」
しゃがみ込み、落ちていた栗を拾い上げる王妃は楽しそうだった。
魔王は数歩後ろから、その背を静かに見守っている。
「こちらには、きのこも……こんなに」
王妃はかごに収めながら、嬉しそうに微笑む。
気がつけば、かごはすでに山盛りだった。
「王妃。入れすぎだ」
「大丈夫です。まだ――」
そう言って立ち上がったとき。
落ち葉に足を取られ、王妃の体がぐらりと傾く。
「――っ!」
次の瞬間、腰に回された強い腕。視界が一気に安定する。
「陛下……」
魔王は王妃を抱き寄せたまま、離さない。
「無理をするな」
「……あ、ありがとうございます……」
王妃は頬を染め、そっと身を離そうとするが、魔王の腕は緩まない。
「その必要はない」
低く言い切ると、魔王はそのまま王妃を抱き上げた。
「……っ!? へ、陛下!?」
かごが落ちないよう、王妃は慌てて抱え込む。
目線が一気に高くなり、心臓が跳ねた。
「歩くより、安全だ」
「そ、そういう問題では……」
抗議は小さく、風に溶ける。
魔王はそのまま、落ち葉を踏みしめながら歩き出した。
腕の中で、王妃は身を強張らせたまま――しかし抵抗はしない。
「……秋の裏山は、素敵ですね」
照れ隠しのようなその言葉に、魔王はわずかに口元を緩める。
「お前がいれば、どこでも同じだ」
王城へと戻る途中。
控えていた女官長は状況を一目見て、静かに目を閉じた。
「……本日も、平常運転でございますね」
裏山の麓で待機していた少数の近衛隊たちは、冷静を保ちつつ、心の中で思う。
(秋風が、甘い……)
こうして裏山の秋は。
静かに、しかし確実に周囲の耐性を削りながら――
深まっていった。




