紅葉よりも、染まる頬
秋が深まり、王城の庭園は赤や金の葉で満たされていた。
石畳も芝生もまるで絨毯を敷き詰めたかのように、鮮やかな色に染まっている。
「まあ……綺麗ですね」
王妃は小さく声を上げ、落ち葉を踏んで楽しげに歩いた。
しばらく楽しんだ後、用意した敷物が楓の木の下に広げられる。
王妃は腰を下ろし、かごに入れられた軽食を眺めて、くすりと笑った。
「庭園でこうして過ごすのも……いいですね」
魔王は頷くだけで、隣に腰を下ろす。
しばし風に揺れる枝と、はらはらと落ちてくる葉を眺めていたが――
次の瞬間。
何の前触れもなく、魔王は王妃の膝へと身を預けた。
「……っ!?」
王妃は息を呑み、思わず背筋を伸ばす。
「へ、陛下……!?」
「静かで……風が心地よい」
淡々とした声でそう言われ、王妃は顔を真っ赤にするしかなかった。
膝の上には、確かな重み。
黒髪が、王妃のドレスにさらりと触れる。
「……あ、あの……」
言葉を探す間にも、落ち葉が一枚二枚と舞い落ちる。
魔王は視線だけを上げ、王妃を見る。
「嫌か?」
「……い、嫌ではありませんが……」
王妃は必死に声を抑え、それでも異を決して――
魔王の肩に手を置いた。
触れた瞬間、指先に伝わる体温に、胸が跳ねる。
「……落ち葉が、綺麗ですね」
誤魔化すように言うと、魔王は目を閉じる。
「お前の声の方が、耳に残る」
「陛下……」
また一枚、葉が落ちる。
王妃の膝の上で、魔王は微動だにしない。
遠くで控える女官長と女官たちは、視線を合わせ深い溜め息をついた。
「……秋でも、胃薬は必要ですわね」
「ええ……年中無休で」
庭園には、紅葉と静かな風。
そして――
紅葉よりも染まる王妃の頬と、甘い時間が流れていた。




