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王妃と大釜

夏が過ぎた初秋。晴天の、とある領地。


一面に広がるのは見慣れぬ作物――コメ。

黄金く伸びる穂が、風に揺れている。


「……これが」


王妃は感嘆の息をついた。


「極東の神国から伝わったものだと聞いていましたが……」


領主が誇らしげに頷く。


「はい。手間はかかりますが腹持ちが良く、祝い事にも使えますよ」


魔王は、王妃の反応を見ていた。


(……目が輝いている)


その昼。


広場では大釜が据えられていた。

周囲には、たくさんの領民たちが囲んでいる。


「今日は、炊き込みごはんを皆で作ります!」


声を張り上げる料理役。

その声に、王妃は一歩前に出た。


「……あの」


領民たちが静まる。


「私も、お手伝いしてよろしいでしょうか?」


ざわり――しかし次の瞬間。


「是非!!」


即答し、歓声が上がった。

魔王は王妃に見つからないように苦笑しながら、外套を預けた。


「離れるな」


王妃は素直に頷く。


「はい」


大釜の中には、コメと山の幸。

香りが、ふわっ立ち上る。


王妃は長い木杓子を受け取った。


「……重いですね」


女騎士がすぐ横に立つ。


「支えます」


料理役が的確に指示を出す。


「焦げぬよう、ゆっくり混ぜてください!」


王妃は深呼吸し――かき混ぜた。

湯気の中。ぐるり、ぐるりと。


「……楽しいです」


素直な声。

魔王は少し離れた場所で、腕を組む。


(楽しそうだ)


だが。

杓子が、少し傾いた。


「あ――」


その瞬間。

女騎士よりも早く、魔王の手が王妃の腰を支えた。


「……危ない」


低い声。

王妃は、驚いて振り返る。


「ありがとうございます……」


近い――近すぎる。


領民たちは、一斉に目を逸らした。

王妃は顔を赤くしながら、再び混ぜる。


「……大釜を混ぜることが、夢だったのです」


魔王はにわかに、耳を疑った。


「夢?」

「はい」


小さく笑う。


「皆で作る料理は、特別ですから」


魔王は何も言わず、そのまま背後に立ち続けた。


そして、無事に完成した炊き込みごはん。


湯気の向こうでら拍手が起こる。

王妃は領民と並んで、椀を受け取る。


一口、頬張り。


「……美味しいです」


そう心から呟いた。

魔王も同じものを食べ、頷いた。


「よい」


王妃が嬉しそうに言う。


「一緒に作ったからですね」


魔王は、当然のように答えた。


「王妃が混ぜたからだ」


――視察の記録には、こう残っている。


《コメのある領地。 大釜一基、王妃陛下により完全制圧》


魔王は帰路でも、王妃の手を離さなかった。


大釜をかき混ぜた日。

王妃の満足度は、非常に高かった。


臣下たちは――例によって、少し疲れた。

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