弟の来訪
梅雨も終わりを迎えようとしている王城。
その日の正門は、やたらと騒がしくなった。
白馬。
風に揺れる外套。
中立国の民特有である――薄茶色の髪に緑の瞳。
そして、笑顔が眩しい青年。
応接間に通され、爽やかな声が響いた。
「姉上、お久しぶりです!」
王妃は、弟――中立国の王太子との再会を喜んだ。
「よかった――無事に来られたのね」
しかしその視線は姉ではなく――すっと横に滑った。
「……で、こちらが」
姉の横に立つ魔王を真っ直ぐに見て。
「義兄上ですね」
室内の空気が、わずかに凍った。
魔王は、低い声で問う。
「……誰に許しを得た」
「姉上の婚姻書類を拝見しましたが?」
そして矢継ぎ早に。
「法的にも問題ありませんよね?そもそも半年後の予定だった婚儀がいきなり終わっていて、父上も母上もそれは大慌てで僕を送ることにしたんですから!」
「……ま、待って……!」
王妃が止めに入るが、魔王は微動だにしなかった。
王太子は続ける。
「……でも、安心しました。婚儀を早めてくれるくらい、姉上のことを大事に想ってくれて」
王妃は一気に、頬が赤くなった。
「姉上も、良いお顔です。国にいるときは――責任ばかりでしたから。こーんな短期間で、ほぐれるなんて」
「王太子……」
「――でも、釘だけは刺しておきます」
魔王が一瞬だけ、眉を動かした。
「姉上が“戻りたい”とおっしゃったときは……国も、家族も、全力で迎えます」
「それはない」
魔王は即答し、王妃の肩をそっと抱いた。
「国になど……戻さん」
王太子はふう、と息を吐き。
「それを聞いてもっと安心しました、義兄上!今夜は語り合いましょう!」
「……邪魔をするな」
珍しく困った表情の魔王に、王妃は小さく笑ってしまう。
そしてこの弟の来訪で。
王妃は自分がこの国で、安らげていることに気づいた――




