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呼ばれる覚悟
夜の王城。
寝室の灯りは落とされ、外の音だけが静かに流れていた。
「……呼んでも、いいか」
問いは低く、慎重だった。
王妃は一瞬だけ瞬きをして、ゆっくり頷いた。
「はい」
間があった。
長く、慎重で、逃げ場のない沈黙。
――そして、名が落ちた。
それは大きな声ではなかった。
まるで祈りのように。存在を、確認するように。
王妃は、息を吸い損ねた。
「……」
「嫌なら、二度と言わぬ」
慌てた気配が伝わってくる。王妃は、そっと袖を掴んだ。
「……嫌では、ありません」
声が少し揺れた。
「ただ……胸が、いっぱいになっただけです」
その瞬間、抱き寄せられる。
「余は」
額に触れる温度。
「この名を、一生、守る」
王妃は目を閉じた。
――愛しい人に呼ばれる覚悟を。
その温度に宿しながら。
登場人物の名前は出てこないのに、謎に名前を呼ぶシーンです。




