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9.新たな脅威と会議室

一体いるだけで、国一つ滅びかねない要注意生物。

それが災害級指定生物である。

 我が国にも、災害級による被害が出ていた。

 五十年ぶりに現れた災害級指定生物「ドラゴン」が城壁前に住み着き、壁街へ出た商人や冒険者を襲い始めたのである。

 すでに多数の犠牲者と経済的損失が出ていた。

 これに対し国は、緊急事態宣言を発令。

 騎士団と冒険者ギルドへ事態を収束する様に要請した。

 冒険者ギルドと騎士団は、共同で「ドラゴン対策本部」を設立。

 現在、対策本部となったギルドの会議室に各組織の責任者、一定の基準を満たした冒険者、騎士団の精鋭部隊による会議が開かれていた。

 円卓を囲む名だたる面々の中に「長袖」の三人の姿もあった。

 しかし、そのうち二人の様子はどこかおかしく、悪い意味で浮いた存在になっていた。

 パーティリーダーである島田は、充血した目をガン開きにして「寝ちゃダメだ寝ちゃダメた」と呟き続け、その横に座る夢華はなぜかよだれを垂らして腹の虫を鳴かせている。まともなのは、ヒーラーのセリアだけだった。

 唯一まともなセリアは、二人を揺さぶって起こしつつ、会議の内容に聞き耳を立てていた。

 ドラゴンをどう倒すかの意見が、次々と挙げられては、ベテラン勢により却下される流れが続いていた。


「毒矢はどうです?どんなに頑丈でも内側からの破壊には耐性がないんじゃないですか?」


「ドラゴンの分厚い鱗にどうやって矢を通す気だ?それにあれだけ巨大だと毒も大量に打ち込む必要がある。そんな猶予が我々にあるとでも?」


 論破された騎士は肩をすくめて押し黙った。

 続いて冒険者が手を挙げた。


「じゃあ、寝ている間にありったけの爆薬を仕掛けるのはどうだ?」


「ドラゴンは鼻と耳がきく。それは寝ている間も変わらない。ドラゴンを殺せるほどの爆薬を、足音一つたてずに設置できるわけがないだろ?」


 今度は冒険者が押しだまる。

 一連のやり取りを見ていた騎士や冒険者は誰も発言しなくなってしまった。

 何を言っても論破される。恥をかくくらいなら何もしない方がいい。

 そんな空気が流がれ出したせいで会議室は静まり返ってしまった。

 そんな沈黙を破ったのは長髪で、ガラの悪い冒険者だった。


「ドラゴンなんざ俺の槍で一撃だ。テメェらはいい感じに誘導すれば良い!」


 自信満々に発言したその冒険者の名は「アイゼン・エリック・クロー」

 二つ名『一撃の雷鳴』を持つ冒険者だった。

 以前、我が国に襲来した災害級指定生物「巨人」をたった一人で討伐したのを初め、多くの偉業を成し遂げている実力者である。

 その実績からギルドだけでなく、騎士団や貴族の間でも高く評価されている人物だ。


「そなたの槍がドラゴンに通用する。その確証はあるのか?」

「あるぜ!以前、俺はドラゴンを撃退したことがある。そん時、血を流させたんだぜ?ギルド長のあんたなら知ってるはずだろ?」


 ドラゴンと戦い、その血を持ち帰ったのはアイゼンが作った伝説の一つである。

 討伐までには至らなかったにしろ、ドラゴンと互角に戦ったのは事実だ。


「ならばそなたの槍に賭けよう。我々はその援護を行う」

「意義なし」


 アイゼンの意見には騎士団団長も、ギルド長も異議を唱えなかった。

 なぜなら、アイゼン以外にドラゴンへの対抗手段を持つ者がいなかったからである。

 会議をなんとか乗り切れたと胸を撫で下ろしたセリアだったが、最後の最後に問題が発生してしまった。


「会議を終わる前に一つ聞きたいことがある。」


 ギルド長の視線がこちらへ向いたのである。


「『長袖パーティ』はドラゴンに対し、どの様な対策をお考えかな?」


 想定外の不意打ちにセリアは答えられなかった。

 尻尾を振れば煉瓦の壁を破壊し、爪を振り下ろせば大木を切り裂き、口から放つ炎の玉は鋼鉄を溶かす。そんな化け物の倒し方なんて私なんかが知るわけがない。

「しらねェよ」と答えたいがそういうわけにはいかず、助け舟を求めて二人に視線をやる。

 それを感じ取った夢華が「私に任せろ」と口元の唾液を拭い自信満々で発言した。


「ドラゴンの肉は美味いの?もらっていい?」


 ダメだこの人、腹が減りすぎて食べることしか考えていない。

 案の定、会議室にいる全員から冷ややかな視線を向けられた。


「こりゃ傑作だ!長袖様はもう勝った気でいやがる!」


 一際目立ってアイゼンが笑う。

 夢華は「質問に答えろよ無能共が」と逆ギレしてぼやいた。

 次に口を開いたのは、満身創痍の島田だった。


「さっきまで話してた内容でいいと思いますよ。少なくとも俺達は、ドラゴンをぶち殺す術なんて持っちゃいません。期待しないでください」


 島田らしいありのままの答えだ。

 確かに私達はドラゴンに有効な武器も戦略も持ち合わせていない。下手に口を出さない方がお互いのためだろう。

 しかし、それを弱腰なだけだと捉えたアイゼンがさらに笑い声を大きくした。


「じゃあお前らは後方支援でもやってろよ!」

「いいのか?」

「は?」


 本来馬鹿にされたら怒るものだろう。

 しかし、島田は違った。むしろ逆に喜んだのである。

「やった!やったぞ!」とガッツポーズをする島田に流石のアイゼンも困惑し始めた。


「そんなにいやだったのかよ…」

「そりゃそうだろ!誰しも無駄死にはしたくないものだろ!ドラゴンの討伐?勇敢で結構な事だ!頑張れ!俺らはそんなリスク背負いたくない!」


 ドラゴンが現れる前、私達は城壁付近で大量発生した魔物を不眠不休で狩りまくっていた。

 その際、魔物達が何かに怯えている姿を確認できた。

 おそらくあれは、ドラゴンから逃げ延びた個体だったのだろう。

 だからこそ島田は、ドラゴンの事をかなり警戒していた。

 私達が、ここ一か月で討伐した魔物の数は53体。

 これは平均の三倍になる数だ。

 それだけの魔物に影響を与えるほど、ドラゴンは脅威的な怪物なのだ。

 戦わずに済むなら、それに越したことはない。

 当然の判断だが、この会議室においてはかなり場違いだった。


「じゃあ俺らはやることあるから抜けさせてもらいますね!」

「ちょ!島田さん!」


 島田は立ち上がり、会釈するとさっさと会議室から出ていった。

 夢華も「やっと終わった」とそれに続いて退室していく。


「すみません!私から言っておきますので!」


 いなくなった二人の代わりに深々と頭を下げる。

 罵詈雑言を吐かれると思って覚悟していたが、会議室の面々は皆、呆気に取られていて誰も口を開かなかった。


「えーと…私も失礼しますね!」


 あまりの気まずさに耐えられず、私も足早に会議室から退室した。

 ギルドの外へ出ると、そこにはタバコを蒸す二人の姿があった。


「どうする?多分アイツら負けるよ」

「え?」


 なんの話をしているのかと思えば、ドラゴン討伐作戦のダメ出しだった。

 態度はともかく、ちゃんと話は聞いていたらしい。

 あれだけの人員が集まればなんとかなりそうな気もするが、二人の意見は違うようだ。

 呆れたように笑いながら、煙の混じったため息をつく二人。夢も希望もない死んだ魚のような目で、島田は言った。


「そうだなぁ…できればやりたくなかったが…一つだけ手がある」

「と言うと?」

「黒服の男と交渉する」


 タバコの火を消して、『長袖』は独断行動を開始した。

 

読んでいただきありがとうございました。

本作は、日曜日の1000時の週一投稿で続けていこうと思います。

定期的に修正を加える予定ですが、大まかな内容は変更しません。

これからも彼らの旅は続くので、引き続き読んでいただけると嬉しいです。

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