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8.本当にやりたい事

止まった時計の歯車に彼等は油を塗りたくる。

そうして、動き出した時はもう止まらない。

 オークの死骸から耳を剥ぎ取り、袋にしまう。

 証拠品は回収出来た。後は帰るだけのはずなのだが、なぜか夢華は、オークの死体を吊し上げて、まるで家畜にする様に捌き始めた。


「は?え?」


 あっけに取られる私の横で苦笑いを浮かべる島田が、疑問の答えを教えてくれた。


「今日はとんかつだってよ」

「食べるんですか!?オークを?!」

「なんならゴブリンも食うぞ夢華は…」

「えぇ…」


 夢華は、ウキウキで血を抜き、内臓を取り出して、肉を切り分けていく。

 魔物の皮や骨を材料に様々な道具が作られることはあるが、魔物を食材にするなんて聞いたことがない。

 呆然と立ち尽くす私を他所に、島田は鍋に油を注ぎ始めた。

 この人達、本気でオークを美味しくいただくつもりだ。

 しかも、見間違えじゃねければ、三枚の皿が用意されている。私にも食べさせるつもりだ。


「お残し厳禁な」


 そう言った島田の目に輝きはなかった。

 

 *

 

 ぱっと見美味しそうなトンカツに死んだ目で齧り付く私と島田。

 元がオークだと知らなければ美味しい食事だ。

 それを作った当の本人は満面の笑みで頬張っている。正気の沙汰じゃない。

 なんとも言えない気持ち悪さを耐え抜きなんとかオークのトンカツを食べ終えた。

 もう、二度とこんなもの食べたくないが、この二人とパーティーを組むなら今後も食べさせられることだろう。

 …いや、違う。私は冒険者を引退するんだ。

 何調子に乗って続けようと思ってるんだ私は!今回はたまたま運がよかっただけで、実際は、私は何もしていない。

 ただついて回っただけじゃないか。

 自虐の念に駆られる私に再び勧誘の声がかかる。


「改めて、セリア!パーティーに入ってくれないか?」

「いえ私は…やっぱり冒険者は続けられないです」

 「なぜだ?」

「私、死神って呼ばれてるんですよ。なのになぜ仲間にしようとしてるんですか?」


 こんな言い伝えがある。


「死神と呼ばれるヒーラーを仲間にするとパーティーが全滅する」


 その意味は、「ヒーラーでありながら仲間を救えない無能は、いない方がいい」だ。

 私はまさにそれだった。

 冒険者デビューして、加入したパーティーは言い伝え通り、あっという間に全滅した。

 一回目は、運が悪かったと言いわけできたが、それが何度も続いて今では、国一番の死神と呼ばれている。

「長袖」の二人もそれは知っているはずだ。

 なのになぜ彼らは私を勧誘するのだろう?


「ヒーラーはそこにいるだけで意味があるんだよ。君がいてくれるから俺達は安心してと突撃できるんだ」

「でも…私と組んでたらいつか死にますよ」


「そりゃこんな仕事してりゃいつか死ぬだろ。それが早いか遅いかの違いだ。俺達だって心臓ぶち抜かれてまで生きれるとは思っちゃいないよ」

「そうじゃなくてですね!」

「わかるよ。言いたいのはそう言う事じゃい。『私といると早死にする』そう言いたいんだろ?」

「…はい」

「舐めんな」

「え?」


 いきなり島田の優しかった声色が怒りに満ちた色に変わった。戦闘時ですら変化のなかった島田の眉間に皺が寄っている。

 そんな鬼の形相でまっすぐ正面から睨まれたため、思わず視線を逸らすと「目を逸らすな!」と怒鳴られてしまった。

 あまりの迫力に怖気付き「は、はい!」と咄嗟に返事をする。


「俺達はまだ死ぬつもりはない!だから優秀なヒーラーが必要なんだよ!」

「優秀?私が?」


 優秀なら仲間を死なせていないはずだろ。

 もっと要領が良く立ち回って大勢を救えたはずだ。自分でもそう思っているし、他の冒険者達からもそう思われている。

 でも、島田達の見解は違った。


「言ってなかったが、君と会う前に他のパーティーからヒーラーを借りて、回復魔法をかけてもらったんだ。君と会った時と同じ様にな」


 背後の夢華が何かを思い出したように、吹き出して、そのまま腹を抱えて笑い始めた。


「どいつもこいつも、初動が遅かったり、そもそも傷口を防げなかったりで、使い物にならなかった。何回死にかけたかわかん。」


 島田の眉間から皺がなくなり、目つきが柔らかくなる。


「でも、君は違った。一瞬で判断を下して、適切に素早く傷口を塞いでくれたんだ。」

「そんな…私はただ…」


 内心では、あったばかりの島田の事なんてどうでも良く、ただ自分の前で死なれたくなかっただけなのだ。

 それでも彼らは私を受け入れようとしてくれている。


「冒険者、続けたいんだろ?」

「…はい」


 それは、本心からの返事だ。でも、それでも私は彼らと歩んでいく勇気がない。そんな私に夢華は笑いながら言った。


「セリアがいなきゃコイツ早死にするよ!」

「……お前もな」

「そうですね。確かにあなた方二人を放っておくのは色んな意味で心配になります」


 この二人を見ていると真面目にあれこれ考えている自分がバカに思えて来た。

 どうせいつか死ぬんだから、やりたい事をやる。それでいいのかもしれない。


「パーティーに加入させてください。期待に応えられるかは分かりませんが、最善を尽くします」

「ありがとう。よろしく頼む!」


熱い握手を交わして、私は『長袖パーティー』の仲間入りを果たした。

 そして「今度こそ誰も死なせない」と決意を胸に秘める。

 新たな一歩を踏み出した私だったが、一つだけ、無視できない疑問が浮かんだ。


「ところで、島田さん。さっき言ってた試しって、いったい何人のヒーラーに治療させたんですか?」

「あー…何人だっけ?」


 疑問符付きの視線に夢華が答えた。


「十人だよ。面白かったなぁ〜」


 夢華は、当時のことを思い出して、また笑い始めた。

 私はその答えに耳を疑った。

 この人達は、十人のヒーラーに頼み込んで、手首を切り裂き治療させたのだ。

 つまり、少なくとも10組のパーティーに二人の奇行が見られていることになる。

「十人?!そんな事するから変人扱いされるんですよ!」

 本当にこの二人を放置するわけにはいかない。いつかもっととんでもない事をやらかしてしまいそうだ。

 私がしっかりしないと…ため息をつき、覚悟を決めた。この二人の手綱は私が握ると。

 そうして私の冒険者ライフが再開された。


読んでいただきありがとうございました。

本作は、日曜日の1000時の週一投稿で続けていこうと思います。

定期的に修正を加える予定ですが、大まかな内容は変更しません。

これからも彼らの旅は続くので、引き続き読んでいただけると嬉しいです。

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