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6.ゴリ押しの限界

 今、俺達は二つの問題に直面して居た。

 一つは、目立つ犯罪者は全てを狩尽くしてしまったのに「白服の駒」の情報が何一つ手に入らなかった事。

 以前遭遇した黒装束の男の目的が犯罪者の殺害なら、また犯罪者の近くに現れると思って居たが、あれ以来一度も鉢合わせていない。

 やっと見つけた手がかりだったが、謎の単語「白服の駒」が増えただけで、それ以上の収穫がないままこの件は終わってしまった。

 もう一つの問題はパーティメンバーの人数不足だ。

 正確にはヒーラーがいない事が問題になっている。 これは由々しき事態だ。

 俺達は、応急処置ができる程度の装備は常に持ち歩いている。しかし、所詮は応急処置用だ。死ぬまでの時間稼ぎに過ぎない。

 回復の専門家が同行して居なければ、助かるものも助からない。

 回復魔法が使えるヒーラーは、大変重宝されており、各パーティに必ず一人は入れられている。

 それだけ大切な役職なのだ。

 自分達でどうにか出来ないかと考えてみたが、すぐに諦めた。

 なぜなら、この世界の魔法は、遺伝子レベルの才能を持つ者が幼少期から訓練して、ようやく習得できるものであり、俺達がどんなに背伸びしても扱えるものではないからだ。

 ジョブチェンジの案も不可。つまり、大人気のヒーラーをなんとかして勝ち取る必要があるのだ。


「本当に必要?別に良くない?」

「いや!いるだろ!」


 なぜか乗り気じゃない夢華を引っ張りながら、冒険者ギルドへ向かう。

 ギルドに入るなり、多くの目線がこちらへ向いた。

「うわっ『長袖』だ」と同業者達が噂する。

 珍獣でも見ているような反応だ。

 目立つのも仕方がない。

 周りから見れば、年中厚着して肌を隠し、変わった武器を使用する不気味な不審者だ。

 その上、多くの犯罪者を短期間で病院送りにしまくった事もあり、さらに知名度が高くなってしまった。

 慣れない状況で落ち着かない。

 目立って満たされるものは承認欲求だけだ。

 今まで日陰ものとして生きて来た島田にとっては、気持ちの悪いものだった。


「私らアイドルみたいだね!」

「…そうだな」


 ギルド内に設置された掲示板を睨みつけた。

 掲示板には、さまざまな依頼書や求人のチラシが貼られている。

 大量に貼られたチラシの中からヒーラーを探し出す魂胆だったが、目に入る魔法使いの資料にはすべて、すでに契約済みの判子が押されていた。


「畜生!先を越されてる!」


 声を漏らすと夢華から「だろうね」と勝ち誇ったように笑われた。

 ヒーラー探しに夢華が乗り気じゃなかったのは、このオチが読めていたからのようだ。


「あのぉ…魔法使いをお探しですか?」


 弱々しく話しかけて来たのはパーティメンバー募集専用窓口担当の職員だった。


「はい!できれば回復魔法が使える人がいいんですけと…」


 ダメ元で聞いてみるとその答えは最高なものだった。


「それなら…一人心あたりがあります」

「本当ですか!ありがとうございます!」


 ここぞとばかりに夢華へドヤ顔を向ける。

 舌打ちが聞こえたが気にしない。勝者の余裕と言うやつだ。


「で?その魔法使いさんはどんな人なんですか?」

「えーとそれはですねぇ…」


 妙に歯切れ悪く職員は話し始めた。


「彼女は_____」

  

 *

 

 私は知っている。仲間の大切さを、温もりを、愛しさを、失った時の悲しみを_____

 夢に出てくる死んだ仲間達は皆、口を揃えてこう言った。


「何でお前だけ生きてるんだ?」


 私だって一人だけ残されたくはなかった。

 必死に仲間達を助けようとしたのに、私は誰一人として助けることができなかった。

 私は、魔法を習得するため日夜努力して来た。

 風邪をひきながらも鍛錬を重ねて、寝る間も惜しんで勉強した。

 その結果、狭き門と言われているヒーラーとしての冒険者資格試験に合格したのである。

 しかし、それだけ努力して勝ち取った資格を今、手放そうとしていた。

 世界は結果で出来ている。そこに努力した工程は反映されない。それが現実であり、世の設立だ。

 「誰も救えなかった」それが私の結果。

 これから先もその結果は変わらないだろう。

 周りもそう思っているらしく、冒険者の間で私は避けられ続け、新たなパーティに加入するなんてできやしなかった。

 その上、後方支援に特化した私は一人では、冒険者の仕事はこなせない。

 私にはもう、冒険者を引退するしか道は残されていなかった。

 これから先は娼婦にでもなって稼いでいくしかないだろう。

 こんな事なら魔法以外の勉強をしておけばよかった。

 引退届を片手に冒険者ギルドへ向かう。

 ここにくるのも今日で最後になだろう。

 そう思うと少し、寂しく感じた。

「もう少しだけ頑張ってみようかな…」そんな考えが一瞬頭をよぎる。

 いや!ダメだ!そうやって一ヶ月も先送りにした結果、貯金が底をつきかけているではないか!

 いい加減にこの優柔不断な性格もやめなければならない。

 首を左右にブンブン振り、邪念を払って引退専用窓口へ向けて一歩踏み出したその時、誰かに肩を掴まれ止められた。


「セリア・マルタン・ブルースさんで間違いないですか?」

「そう…ですけど?」


 私を引き止めたのは、季節外れの長袖長ズボンを着た、不審な二人組だった。

 噂に聞いたことがある。『長袖』と呼ばれている冒険者。

 彼らは短期間で、国中の懸賞金首を一掃した対人のプロフェッショナルだ。


「うちのパーティに入ってくれないか?」


 どうやら『長袖』は、私を勧誘しに来たようだ。

 しかし、私の意思は固い。冒険者は今日で終わり。 すでに決めた進路を今更変えるつもりはなかった。


「お断りします」

「まぁまぁ!そう言わずに!」


 周りからの視線が痛く感じた。

「長袖と死神が話してるぞ!」「パーティ組もうだってよ。お似合いだぜ」そんな噂と言うか、悪口が耳に入る。

 あまりにも居心地が悪い。この場から早く離れたい一心で頑なに断るも、長袖の男がしつこくねばってくる。


「こっちで話を聞いてくれないか?答えはその後でいいからさ!」


 腕を掴まれ、強引に酒場へ連れ込まれてしまった。そして一番奥の席に座らせられ、横と正面に『長袖』の二人がそれぞれ座る。

最悪だ。退路をたたれてしまった。絶望する私に『長袖』の男の方が自己紹介を始めた。


「悪いな時間取らせて!俺は島田 幸聖と言う者だ!よろしく!んでこっちが!」


 島田から視線を向けられた相方が答える。


「夢華 雪梅だ」

「…よろしくお願いします」


 静かで無口な夢華に対して、島田の方はやたらとぐいぐいくる。このままでは、押し切られてしまいそうだ。


「早速だけど!回復魔法ってやつの現物見た事なくてさ!ここで実践して見せてほしいんだよ!」

「え?」


 島田は、自らの手首をナイフで切り裂いた。

 深々と裂けた傷口から血が溢れ出して、テーブルの上を赤く染めた。


「はっ!?え!ちょっと何やってるんですか!」


 島田は痛がる様子を一切見せる事なく、ただ真顔で血が噴き出る傷口を突き出して来た。

 慌てて魔法陣を展開し、回復魔法で傷口を塞ぎにかかった。

 数十秒の努力の末に、なんとか傷口を塞ぐことに成功した。

 我ながらよくこんな意味不明な状況で適切に処置できたものだ。

 太い血管のある手首をこんな深々と切り裂さけば、あっという間に大量失血で死んでしまう。

 ヒーラーが目の前にいるからと言って、こんなことするなんて、自殺行為だ。

 「島田 幸聖」彼は狂っている。

 それは夢華も同じだった。

 彼女は、死ぬか生きるかの瀬戸際だった相棒の事を一切心配する様子は事なく、腕時計を見て「30秒だ!すごい!」と私を絶賛した。

 何この人達?普通じゃない。すごく怖い。


読んでいただきありがとうございました。

本作は、日曜日の1000時の週一投稿で続けていこうと思います。

定期的に修正を加える予定ですが、大まかな内容は変更しません。

これからも彼らの旅は続くので、引き続き読んでいただけると嬉しいです。

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