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勝てば正義

 家族以外の異性と同室で寝るのが初めてで、寝付けなくなる…なんてことはなく、俺はすぐに爆睡して、スッキリと気持ちよく起きる事ができた。

 早朝0530時夢華に連れてこられたのは、冒険者ギルドという組織の建物だった。

 冒険者ギルドとは、魔物の討伐、危険地帯の薬草回収、商人や貴族の護衛等の依頼を冒険者(猟師、便利屋、冒険家等を混ぜた職業)へ斡旋する中間業社だそうだ。

 ギルドに所属しておけば、最低限の社会保障が受けられる上に仕事には困らないらしく、夢華の進めで俺もここに所属する事にした。

 今日はその手続きをしにやって来たのだ。

 ギルドは田舎の市役所ほどの広さがあり、その中には、クエストを発注、仲間を募集等の様々な専用窓口が設置されていた。

 俺達はその中でも一番人気の少ない受付へ向う。

 冒険者志望専用窓口である。


「夢華様!お待ちしておりました!彼例の新人冒険者技能試験の推薦者ですか?」

「そうだよ」


 受付嬢は、俺の足元から頭部までを流し見ると「なるほど元軍人さんですね!」と前職を当てて来た。


「よく分かりましたね」

「仕事の癖は立ち姿にでます。特に軍人さんは分かりやすいですよ!」と受付嬢はニコリと笑った。


「荒くれ者が多い職場ですからね〜お二人のような軍出身者は大歓迎です!ではこちらを____」


 受付嬢が差し出したのは一枚の書類だった。

 見た事のない文字が並んでいるのに不思議と読めてしまう。そう言えばこの世界に来てから言語の壁にぶつかった事がない。

 黒服の男から脳みそでも弄られたのだろうか?そう考えると少し気味が悪い。

 書類を受け取り目を通す。

 名前、年齢、生年月日、前職と当たり障りのない記入欄が続いていた。とりあえず分かるとこまで書いて、見慣れない部分を質問する。


「この役職と言うのはなんですか?」

「そちらは、主にメインとなる武器や役割を示すものです」

「夢華は?」

「ガンナーになってる」

「じゃあ俺もだな」


 空欄をすべ埋めて提出した。

 受付嬢は、間違いがないかを一通り確認すると新たな書類を取り出す。

「こちらが試験内容になります。制限期間は一週間。幸運を祈ってます!」

 こうして、俺は冒険者への第一歩を踏み出したのである。

 

 *

 

 冒険者試験内容は、ゴブリンの10匹の討伐。

 架空の生物の情報に乏しい俺はまず図書館へ向かった。魔物の図鑑を手に取り、ゴブリンのページを開く。

 この世界のゴブリンは平均身長が120センチと小柄で、長い耳、でかい鼻を持っている。

 特徴的なのはその肌で、自然に溶け込むために進化したのか緑色だそうだ。知能が高く、群れを組織化して同族と連携しながら狩りを行うらしい。

 中には人間の武器を奪い使用する個体まで居るそうだ。実に厄介な魔物だ。こんな奴を10匹も殺さなきゃ冒険者になれないとはなかなかハードな職種なんだなと思う。

 だが、別に問題はなかった。なぜなら所詮ゴブリンも生物だからだ。

 脳や心臓を撃ち抜かれれば死ぬ。

 大量に血を流しても死ぬ。

 呼吸できなきゃ死ぬ。

 だったら、簡単に殺せるだろう。

 

 *

 

 装備を点検し、ゴブリンの目撃情報をあつめて、馬車に乗り込んだ。向かい側には夢華が座っている。

 夢華はあくまでも安全係であり、直接協力してくれることはない。

いざとなったら助けてくれるらしいが、それは試験の失敗を意味する。なので基本一人で準備から戦闘まで全て行わなければならない。

 しばらく馬車に揺られて、ゴブリンの巣穴があると言う山に到着した。

 もう一度、装備を点検して戦闘を開始する。

 まず偵察からだ。

 現地の植物を身につけて、顔にドーランを塗り、身体を偽装してから、最低限の荷物を持って巣穴へ向かった。

 巣穴付近にゴブリンの姿がなかったため近づいて、中を覗き込んだが、暗くて全く見えない。

 その広さも、中にいるゴブリンの数も全くの不明。中に入るのは、どう考えても自殺行為だ。

 しかし、それならそれで問題はない。

 他のプランを実行するまでだ。

 ひとまず仮拠点まで戻り、作戦に必要な物を厳選する事にした。


「どうするの?」


 背後からした声に身を震わせて驚いた。

 あまりにも静かで、一切の気配を感じなかったせいで、夢華の存在を完全に忘れていた。


「脅かすなよ…」

「質問に答えてよ。一応私も知っとかないといざって時動けないからさ」

「米軍が洞窟に篭った日本軍に対して行った戦術で殺る」

「よくわかんないけどエグそうだね」

 

 *

 

 仮拠点に残置していた装備を身につけて、フル装備状態になった。これで多少の無茶ができる。

 続いて背嚢から資材を取り出した。

 油、釣り糸、火薬、その他諸々だ。

 何をやろうとしているのかを察した夢華は「いいね。」と褒めてくれた。


「さて、始めるか」


 巣穴まで戻り、有毒物質を含む木の枝や葉を大量に押し込んで、油を流し込んだ。

 そして火を放ち、巣穴唯一の出口を塞ぐ。

 しばらく待っていると巣穴の中から大量のゴブリンが飛び出てきた。

 幸いな事に巣穴はそれほど広くなかったようで、奥の方にまで有毒の煙が入り込んだようだ。

 ゴブリン達は苦しそうに泡を吹き、咳き込んでいる。

 巣穴の外へ引きずり出す事に成功したところで、作戦を次の段階へ移す。

 悶え苦しむゴブリンの集団に銃を連射した。

 射撃はあまり得意ではないため、何発か外してしまったが、目的の数は殺傷する事ができた。

 目的の数は仕留めた。

 後は証拠品を回収すれば終わりなのだが、この数のゴブリン相手に逃げ切るのは容易ではない。

 当然だが、銃声を聞きつけたゴブリン達がこちらへ一斉に突撃してきた。

 だが、問題はない。想定通りだ。

 手元の釣り糸を引いて、あらかじめ仕掛けておいた「罠」を作動させる。

 ゴブリン達の足元が一斉に爆発して土煙が辺りを覆った。

 そこへさらに銃を乱射する。

 これで生き残る個体がいれば相当な幸運の持ち主だろう。

 土煙が退いた後に見えたのは、手足が吹き飛び、風穴だらけになった赤黒い死体の山だった。

 まさに地獄絵図だ。

 興奮気味に夢華が笑っている。

 それに釣られて俺も笑った。

 

「よし!依頼達成だな!」

「やったね!今晩はゴブリンの丸焼きだ!」

「えぇ…」

 

 こうして、俺は冒険者として初めての仕事を達成した。

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