銃は剣より?
イザベラの屋敷の敷地を跨ごうとした長袖一行の前に、女執事が立ちはだかった。
金色の綺麗な髪、長く尖った耳、整った顔つき。この特徴が当てはまる種族と言えば間違いなくエルフだろう。
この世のものとは思えない美人が端正で清潔感のあるタキシードを見事に着こなしている。ルッキズムにはたまらないビジュアルだ。
そんな美の象徴とも言える彼女が、敵意剥き出しで、こちらを睨みつけている。
嫌われるようなことは今のところしていないはずだ。第一この女執事とは初対面である。
となれば睨まれる理由は一つしかない。
「反対です!こんな何処の馬の骨かもわからない冒険者を雇うなんて正気とは思えません!」
散々な言われようだ。
まるで、売れないバンドマンを彼氏として、親に紹介しているような修羅場になってしまった。
他人事なら笑えるが、当事者となれば笑えない状況だ。
「彼等は腕利の冒険者だ。必ず役に立つ」
「何を根拠にそんな事を!」
女執事の言い分も理解できる。
今まで支えて来た主人がいきなり、顔を隠した謎の人間を側に置くと言えば反対するのも当然な事だ。
それでもイザベラは怯む事なく反論する。
「彼らには、信用に足り得る実績がある!」
「ほぉ…この黄色人種達に実績ですか?笑わせますね」
「…」
不味い。肌の色がバレてしまっている。
この国での黄色人種は、存在そのものがマイナスに捉えられてしまう。
悲しいがそれが現実だ。だからこそ、今まで肌を隠してきた。
しかし、女執事にはそれが通用していない。
いつかはバレるだろうとは思っていたが、こんな初っ端にバレてしまうなんて思いもしていなかった。
早速、解雇される流れができてしまったが、それでもイザベラは歴然とした態度で言い返した。
「彼らは、我が国の名だたる犯罪者を一掃し、ドラゴンを討伐して見せた。これ以上の実績をもつ者が他にいるか?」
「……でしたら私が直々にテストさせていただきます。代表者一名と私が決闘する。それで、私に勝てたら認めて差し上げますよ」
流れがさらに最悪な方へ変わってしまった。
*
言われるがまま連れて来られたのは、屋敷から少し離れたイザベラの領地だった。
島田達下民が一生かけても手に入らないだろう広い土地が、綺麗に整備されている。
維持費だけでもパーティ全員分の年収が軽く吹き飛んでしまうだろう。
そんな広大な領地のど真ん中にこれまた広い闘技場があった。
どうやらここで俺達をテストするらしい。
剣と闘争心を持って闘技場へ上がった女執事に対し、俺達は「めんどくさい」とボヤきながら誰が戦うか押し付けあっていた。
「夢華!お前いけよ!カンフーはお手のものだろ?ヌンチャクぶん回して『アタァ!!』てやればイチコロだ!」
「カンフーなんてやった事ないよ。それより島田行きなよ侍の国出身でしょ?」
「あいにく刀は持ったことすらないんだよ…セリアはどうだ?」
「いや!無理ですよ!私、回復魔法しか使えませんから!」
いつまで経っても話がつかない。
そんな長袖パーティに苛立った女執事は大きな咳払いをして、注目を集めると「島田 幸聖様お願いします」と言い放った。
「俺かよ…」
「ファイト!島田!」
「頑張ってください!」
渋々闘技場へ上がって女執事の前に立つ。
近くに立った事で身長差が明らかになり、島田の方が見下ろされる形になった。
「やはり黄色人種は小さいな。そんな体でお嬢様の盾になれるのか?」
「的がデカくて助かるよ。射撃が下手な俺でも簡単に当てられそうだ」
「それが言葉だけでないことを祈ろう」
5歩離れて振り返り、それぞれの得物を構えた。
今回は殺し合いじゃない。あくまでも模擬戦であるため、銃には実弾ではなく訓練用のゴム弾を込めてある。
当然だが実弾よりも威力は劣る。だとしても、戦力差は歴然であった。
決闘の開始の合図と同時に島田は発砲した。
先手必勝。
避けられるはずのない一撃。
その一発で島田は勝利を確信した。
しかし、その弾丸は目標に到達することなく綺麗に真っ二つになり、地面に転がった。
「マジかよ…」
この女執事は、剣で弾丸を切り落としたのである。
「銃ごときに遅れをとるとでもおもったか?」
*
『日本刀で弾丸は斬れるのか?』
それを実験した記録がある。
結果、弾丸は真っ二つに切れた。
対して日本刀の等身は無傷。
結果、日本刀に軍配が上がった。
しかし、それは銃と刀を計算し尽くされた配置に固定した際の結果である。
実戦でそれを行う事は、科学的には可能だとしても現実的ではない。
音速に達する弾丸に、人間の動体視力、反射神経、肉体が追いつく事は不可能。
だからこそ、銃は強力かつ手頃な武器として世界に普及したのである。
対して剣は、その取り回しの難しさや汎用性の低さから廃れていった。
前戦を退いた剣が、銃に劣っていたのは歴史が証明している。
それでも剣の方が優れている点が確かに存在する。
それは歴史の長さである。
親から子へ、師匠から弟子へ受け継がれて来たその何千年にも及ぶ歴史の中、剣は進化し続けて来た。
この異世界は、まさに剣の全盛期、その真っ只中の時代なのである。




