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14.ぱっと見小さな依頼人

 ドラゴンを倒して、一週間。

 国から謝礼として、多額の報酬を受け取り、生活に余裕ができた。

 これからはまともな飯が食える…はずなのに俺達は毎日ドラゴンのステーキを食べ続けていた。

 わざわざ好き好んで食べるものでもないのに、夢華が「勿体無いから」とギルドと交渉して可能な限りの肉を持ち帰ってきたのである。

 おかげで毎日、固くて獣臭い肉を食べる羽目になった。

 エプロン姿でキッチンに立つ夢華の手元には、野菜や調味料に並んで当然のようにドラゴン肉が置かれている。

 何度見てもおかしな光景だ。

 後何度この光景を見れば良いのだろうか?そろそろ別の肉が食べたい。それが俺の本音だった。

 

「なぁ夢華。後どれくらいある?」

「まだまだ腐るほどあるよ!」

「そろそろ腐りはじめてるだろ?比喩じゃなく、ガチな意味でよ」

 

 この世界ではまだ、冷蔵庫は発明されていない。食べ物を冷やして保存する事はできないのだ。今まではそれが不便で仕方なかったが、今は幸運に思えた。

 流石の夢華も腐った肉までは食わないはずだ。

 島田にとっては朗報。夢華にとっては悲報であるはずなのに夢華は余裕の表情だった。

 なぜなら彼女は肉加工のスペシャリストだからだ。

「大丈夫!干し肉にしたからまだいけるよ!」

「あぁ…そうか…」

 

 *

 

 ドラゴンを討伐して、変わったのは食生活だけではなかった。

「たった三人でドラゴンを討伐した」その偉業が国中に広まり、知名度が上がってしまったのである。

 周りから常に、賞賛と憧れと疑いの視線が向いていて落ち着かない。

 そんな中、俺達は依頼達成の打ち上げをすべく集合していた。

 金はあるのに長く続いた貧乏生活のせいで、高い店に抵抗感があって入れず、結局近所の居酒屋で安酒を飲んでいる。

 不味くはないが、旨くもない。そんなつまみを口へ運びながら仕事の愚痴を言いあっていると、貧民が集う居酒屋に似つかわしくない老人が尋ねて来た。


「失礼します。長袖パーティーご一行様で間違い無いでしょうか?」

 

 老人は、居酒屋には明らかに場違いな、絵に描いたような紳士だ。

 タキシードを着こなし、白髪のオールバックがよく似合う。

 端正で清潔感のある外見で、その立ち振る舞いも美しく無駄がない。

 護身用だろうか?その腰にレイピアを携えている。

 

「そうですけど?」

 

 困惑しながらも答えると老人の影から少女が現れた。

 

「ほぉ…なるほどお前達が変人と名高い長袖か!なかなかオーラがあるではないか!」

 

 一見小汚い古着を着た平民に見えなくもないが、よく見てみると髪や肌や爪先までよく手入れされていて、育ちの良さが見える。

 みる人が見ればわかる変装した貴族のお嬢さんだ。

 上級教育の賜物なのか、それともただの世間知らずなのか、冒険者の中でもずば抜けて不審者である長袖相手に臆すそぶりは微塵もない。

 

「我が名は『ハルロ・デイリコ・ホリ・フランジエゴ____

 

 30秒後

 

 _____ラフランス・ディエゴ』だ!我が国の防衛産業に携わっている貴族である!」

 

 貴族であるのは何となく予想はついていたが、防衛産業に携わっているとなるとかなり上位の貴族であろう。

 そんな人間がなぜ俺達に話しかけて来たのか疑問に思ったが、それ以前に大事な部分を聞き逃していた。


「えーと…そのー…名前をもう一度お願いします」

「はっはっは!長くて覚えづらいだろう?私のことは『イザベラ』と呼ぶがいい!」

「ではイザベラ様は我々に何の要件がお有りで?」

「単刀直入にいうぞ!お前達を矛として雇いたい」

「矛?」

「そうだ!敵を貫き、叩き潰す矛だ!」

「具体的に説明してくれないか?」

「私は今、何者かに命を狙われている!今のところ私の「盾」が守ってくれているが、受けに回っていても埒があかなくてな!こちらから仕掛けようと思っているんだ!」

「それで『矛』か…なるほど理解しました。話し合うから五分ください」

「承知した!」


 パーティーメンバーの三人で顔を見合わせる。


「どうする?」

「金には余裕があるし、無理して受ける必要はない。でも、貴族に雇われる事で、安定した報酬が手に入るのは、かなり魅力的だよ」


 夢華の目の中に¥が浮かんでいる。

 対してセリアは、不安そうに小声で反論した。


「上位貴族を狙うような犯罪組織を相手するんですよ?相当なリスクじゃないですか?」


「そうだな。騎士団じゃ手に負えないから俺達を雇おうとしてるとも言える。最悪、捨て駒にされるかもな」


 断る方向に話が傾いたところでチラッとイザベラを見るとニコリと笑みで返された。

 守りたいこの笑顔。

 かつて島田は、未来ある子供達を守るためにと自衛官になった。

 どんなに泥に塗れようが、傷つこうが子供達のためと思えば苦に感じることはない。

 そんな島田にとって、子供の笑顔はまさに弱点であった。

 

「断りずらいな…ちくしょう…」

 

 雪華は賛成。セリアは反対。後は俺がどうするかで決まる。

 腕を組み、眉間に皺を寄せて悩んでいる島田の耳元でシオンが囁いた。

 

「白服の駒について知りたくはないか?」

 

 その瞬間、島田の目つきが変わった。

 飢えた獣の鋭い眼光。そこには確かな殺意が込められていた。

 

「どこまで知ってる?」

 

 一瞬だった。

 0.2〜3秒にも満たない刹那の間にそれぞれの得物が交差していた。

 執事のレイピアが島田の鼻先に向けられ、島田の拳銃が執事の頭部に向けられている。

 あわあわと青ざめるセリア。 

 そんなの気にせず酒をグビグビ飲む夢華。

 異様な空気がその場に漂っていた。

 

「貴様…お嬢様に殺気を向けたな?」

「だったらなんだ?この場で殺し合うか?」

 

 一触即発のその状況を見かねた最年少が呆れたように命令を出した。

 

「武器を下ろしなさい」

 

「悪い悪い」と素直に従って銃を下ろした島田に対して、執事はその命令に背いてレイピアを構え続けた。

 

「しかしお嬢様!」

「下せと言っている」

 

 小さな少女のものとは思えない、冷たく、鋭い視線を向けられて、執事は渋々剣を下ろした。

 

「うちの執事が失礼しました。ここ数日、何度も襲撃されてますからね。彼も敏感になっているんです。ゆるしてあげてください」

 

 イザベラは、その外見からは想像できない修羅場を掻い潜って来たのだと島田は理解した。

 詳しくはわからない。ただ、イザベラは幼くして多くのものを背負わされて来たのだろう。

 だからこそ、その言動は大人びている。

 改めてこちらに向けられているこの笑顔も生き延びるために身につけた造り笑顔なのだろう。

 信頼にたる人物なのかはわからない。

 ただ一つ間違いない事実がある。

 それは、危険を顧みず直接、俺達を勧誘しに来た事だ。

 たった一人の護衛に命を預けてここまで来たその度胸と責任感は信用に値する。

 

「改めて頼む。私の矛になってくれないか?」

 

 イザベラについて行けば、薔薇の道を進むことになるだろう。その先には破滅が待っているかもしれない。

 それでも、進む事にした。

 その理由は、同情心でも使命感でもない。

 ただ、面白くなると思ったのだ。

 

「いいですよ。我々『長袖』は、あなたの矛として戦いましょう」




読んでいただきありがとうございました。

本作は、日曜日の1000時の週一投稿で続けていこうと思います。

定期的に修正を加える予定ですが、大まかな内容は変更しません。

これからも彼らの旅は続くので、引き続き読んでいただけると嬉しいです。

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