11.上位存在との交渉
真っ白な無限に広がる殺風景な空間に黒服の男が一人立っている。
そこには、戦死したあの時と同じ光景が広がっていた。
どうやら、一か八かの賭けに勝てたようだ。
「お前ら俺を馬鹿にしてるのか?」
黒服の男は初対面の時とは正反対で感情剥き出しにして怒っている様子だった。
男の威圧感は強く、これまでに感じたことのないほどに体が重く感じて、全身に鳥肌がたち吐き気がした。
明らかな上位存在を前に俺は怖気付いているようだ。
だが今更、後戻りはできない。
この瞬間、俺の運命は二択に絞られた。
目的が果たせるか、死ぬかの対照的で極端な二つの結末である。
「バカにはしてない。ただ、頼み事があるんだよ」
「俺はお前達に無限に湧き出る弾幕をくれてやった。これ以上何を望む気だ?」
「圧倒的な火力だ」
「白服の駒を殺すには十分な力を与えたはずだ。これ以上与える必要はない。わかったらとっとと目を覚ませ」
黒服の男は、呆れたようにため息をつくと早々に指を鳴らして俺を送り返そうとした。
ふざけるなまだ、話は終わっていない。
「今の力じゃたりねぇんだよ!このままじゃ白服の駒にたどり着く前に死んじまうぞ?それだとあんたも困るんじゃないか?」
挑発的にわざとらしく笑みを浮かべる。
ビビってちびりそうになっている俺の内心を知ってか知らずか、黒服の男は再びでかいため息をついた。
「……お前達を選んだのは俺のミスだ…仕方ない。あと一つだけ力を与えてやる。その代わり、二度とこんな真似はするな」
「了解!」
*
長い夢を見ていた気分だ。
体が重い。意識がはっきりとしない。ボヤけた視界にはこちらを覗き込む二つの人影が映り込んでいた。
「島田さん!大丈夫ですか?」
心配そうな声が鼓膜を揺らす。
「あはは!生き返ったな!ウケる!」
馬鹿にしたような笑い声が続いて聞こえてきた。
少しずつ視界が鮮明になるにつれて、記憶が蘇っていく。
重い腕を上げて、痛む首を触った。
そして見上げると天井からロープが吊り下がっていた。
そうだ。俺は黒服の男と会うために死にかけたのだ。正確には首を括ってギリギリまで窒息した。そして、見事、黒服の男と再会を果たしたのだ。
「で?結果は?」
「それより大丈夫なんですか?!心臓止まってたんですよ!」
成果を求める夢華とは対照的にセリアは今にも泣き出しそうなほど心配してくれていた。
「あはは!確かに危なかったな!」
「笑い事じゃないですよ!」
「大丈夫だよ!蘇生してくれてありがとう」
胸の辺りが殴られた後のように痛む。多分セリアと夢華が心肺蘇生法してくれたからだろう。おかげで助かった。
「結果については大成功だ。これでドラゴンをぶち殺せる」
*
待ちに待った増援『長袖』の二人が現着した。
ドラゴンの意識が、新たに現れた人間に向けられている隙に、レイナは口笛で愛馬を呼んで、急いでまたがり離脱する。
「後は任せましたよ!」
「了解!」
一体どこで手に入れたのか?彼らは、見たことのない兵器を携えていた。
島田はオリーブ色の大砲を担いでいて、夢華は自身の身長よりも明らかに長い大型のライフルを構えている。
「試し撃ちには豪華な的だ」
「そうだね。食べ応えもありそうだ」
先手を撃ったのは夢華のライフル銃だった。
長い銃身から放たれた20mmの弾丸がドラゴンの右目に命中。視野の半分を奪うことに成功した。
痛みに悶絶し、ドラゴンは悲鳴にも聞こえる咆哮を挙げながら、炎の玉を吐き出した。
二人のいる位置に炎の雨が降り注いだが、当たる事はなかった。
片目になったドラゴンは、距離や物の位置が正しく認識できなくなっている。そのおかげで、二人は移動することも無く、無傷でいられた。
「流星群みたいだ!すごい!危ねぇ!オロロロロ」
何が面白いのか、夢華は笑いながら、ゲロをぶちまけている。20mmを撃った反動が彼女の内臓を刺激してしまったのだろう。
笑う余裕を見せたため、島田は心配することなく次の手を撃つ。
「じゃあ次は俺の番だな」
続いて島田が大砲を構えた。
砲口にドラゴンを捕えて深呼吸。そして引き金に指をかけた。
「後方ヨシ!84撃つぞ!」
大きな発射音と共に、咆口から放たれた大きな弾は、ドラゴンへ向けて真っ直ぐ飛んでいく。そしてドラゴンに直撃する寸前で、バラバラに弾けた。多量の破片となった砲弾が雨のよう降り注ぐ。
島田が初弾に選んだのは「榴弾」。発射後、目標の手前で爆発し、弾殻を撒き散らすことで広範囲の人員の殺傷、施設の破壊を行う弾種である。
分厚い鱗にそのほとんどが弾かれてしまったが、島田の顔に焦りはなかった。
「目標、小破!羽の破壊に成功した!」
そもそも島田の狙いは飛行能力を奪う事だったのである。
羽の膜は風を捉えるために比較的柔くできている。 島田はそこを狙ったのだ。
羽の膜に大小多くの穴が空いているのを遠くからでも確認できた。あれでは巨体を浮かす事はできないだろう。
「これで狙いやすくなったな!」
あれだけ猛威を振るっていたドラゴンは、今では半殺し状態になっている。
羽には大量の穴が空き、片目を失い、背中に無数の切り傷、胸の古傷まで開いてしまっている。
それでもドラゴンは戦意を失ってはいなかった。
「ガァアアアアア!!」
「うわっ!うるさ!!」
ドラゴンは、何百メートルも先にいても聞こえる大きな咆哮を上げると勢いよく、二人めがけて走り出した。
「こっち来たよ。どうする?」
「殺す」
ドラゴンを見据えた二人は、狩りを楽しむ獣のような笑みを浮かべていた。
読んでいただきありがとうございました。
本作は、日曜日の1000時の週一投稿で続けていこうと思います。
定期的に修正を加える予定ですが、大まかな内容は変更しません。
これからも彼らの旅は続くので、引き続き読んでいただけると嬉しいです。




