願い事はなくなった〜彼氏を妹に取られてしまうと以前から交流があった空にいる船の船長に会いに行って慰めてもらったらいつのまにかお付き合いすることになっていた〜
周りには散らかった衣類、ソファの上には抱き合う男女。男は蒼白、女は普通。それぞれの顔を例えるならぴったりだ。
「リンカ、あんたまた……!」
「っ、ち、これは違うんだっ」
どう見てもそういう行為をしていたのが明らかに見て取れる光景に。ミファリスの彼氏。否、元彼氏は慌てて目の前に来たが、触らないでと叫んだ。
「別れよう、トレモロくん……どんな理由があっても聞きたくない」
わなわなと震える身体を抑え、半裸ギリギリの男に言葉を叩きつけると彼は脱兎の如く、部屋から去る。
「リンカ、もう一体何度目?……私の彼氏に手を出さないでって言った筈だよね?」
「あの人私がちょっと誘えばチョロかったよ……ふふ!」
リンカは妹なのだが、よく彼氏をタラシ込んでは誘惑し落とすのが悪い癖。そのせいで、ミファリスは散々傷付いてきたのに、全く懲りずに繰り返す。
苛々として、叱りつけるのも馬鹿らしくなり、自室へ憤りを溜め込みながら向かう。ベッドに入り目を閉じると、むわんとした熱気が身体を包む。
そうして、目を開けると男の顔があってまたか、と言いたげに歪む。
「ろ、ソードリアさあああんん……!」
わああん、と泣きつくと彼は湯船に寄り掛かりぐしゃぐしゃと撫でる。
水に濡れているけれど、今はそれが救いだった。
ミファリスが、ソードリアの船に来るようになった理由は未だに不明だが、眠る時に船の風呂場に出現してしまう事は、分かった。
勿論、最初はソードリアに不審者扱いされ尋問されたりしたが、不規則に現れるようになって、半年が経過した時には結構馴染んでいて。
ソードリアの警戒も殆どなくなって、一年後にはもう本人も諦めていてミファリスは自由にこの船を歩き回っても疑われない存在になり。歓迎にも似た表情に迎え入れられた。
ミファリスも最初はここがどこだとか、何でこんなところに来てしまっているのだとか、混乱していたが、繰り返していく度に寝るとこの船に現れるという事を理解した。
(妹のせいでむしゃくしゃして、布団に入るとすぐにこの船に来られるようになったのは、凄くついてる)
ここに居れば暫くは妹に会わなくても良い。ソードリアには毎回悩みや愚痴を聞いてもらっている。悪いと常に思いながらも彼の優しさや慰めに甘えてしまう。
「ソードリアさん、今日も付き合ってくれてありがとう」
「次は泣かないで現れろよ」
クスクスと綺麗に笑うソードリアに、見惚れる。ソードリアはとても格好いいと思ったのは初めて見たときからで、こんなにも麗しい人が存在するのかと眩しく思った。
顔だけではなく性格も器も、凄く寛大だ。ぼうっとしているとそっと頬にソードリアの手が触れてハッとする。
「まだ何か悩んでんのか?」
「ううんっ、悩みはないですっ。それにこれ以上ソードリアさんに愚痴るわけにはいかないですし」
慌てて繕うとソードリアはすぐに頬を緩めて触れていたミファリスの頬をスルリと撫でた。ドキドキとしてしまう仕草に思わず彼を見詰める。
「おれは何とも思ってねぇ奴の悩みなんて一々聞かない」
「え、ソードリアさん?」
耳を疑う言葉に問い返そうとすると上からソードリアの顔が落ちてきて唇が触れ合った。一瞬のこと。唖然としていると、低いノスタルジーを感じる音が落ちる。
「嫌だったか」
ハッとなる。
「いや、では、なかったみたいです。驚いて、その。まぁ、よ、かったですよ」
「くくく、そりゃあいい。やってよかった」
嬉しそうなその顔に、みるみると顔が赤くなる。嘘みたいだ。自分も彼に対して淡い思いを持っていた。
元彼に関してはコソコソ妹と会っていたのは前から把握していたので、とっくに心は離れていたから問題はない。
「その、嬉しいというか」
「……攫っていいか?」
そのセリフに苦笑する。攫って欲しいのは山々なのだが。周りの男たちを次々に虜にしていく、恐ろしいほどの才能を持つ妹がこの世界にいなくて本当によかった。
いたら、確実にソードリアをターゲットにしていただろうな。
「攫って欲しいのですが、物理的に向こうへ帰ってしまいますし」
悲しいけれど、起こる出来事は止められない。色々試しはしたけどね。
朝、彼の隣で目覚めることを夢想するけれど、一人だけの一人の部屋。隣には最悪な身内。
うまくなにかしようとしても、いつも足をかけようとする。地獄はあちらなのだ。俯いていると、デートに行こうかと誘われた。
「デート?」
「デート行ったの、最近いつだ?」
「うーん、三か月前くらい?あれをデートとは言えませんけど」
あの時すでに、妹は近寄っていたのだろう。そんな男は気まずげに距離を空けていて、わかりやすいなこいつと思ったものだ。やらかしが、透けて見えた。
「じゃあ、行こうか」
「でも、ここって空なんですよね?」
窓から見えるのは海ではなく空。この船は飛行艇なのだ。
「もうすぐ街に着く」
「そうなんですか?地味に降りたことないから、楽しみです」
ワクワクする。
「ああ。今回の場所は甘いものが多いらしいからな」
「え。本気で楽しみ過ぎます。えっと、なにか本を読んでもいいですか?」
「は?」
「ん?」
あっさりした態度に、なぜかソードリアが目を開く。なんだろう。
「恋人になってすぐに本を読む?」
「えっ」
「は?」
今度はなにか気に入らないのかずいずい、と迫ってくる。なんか、怖いので下がった。
「なんだその、え、とは」
「いや、恋人って?」
「デートするんだから恋人行為そのものだろ。そっちこそなにを」
「なんか、すいません。いや、お付き合いは、おいおいなのかなって?」
首をくるりと傾げる。
「お前とおれの状況を試みておいおいって、何十年かかると思っているんだ?」
「うっ」
指摘された。いつ、来れなくなるかわからない状態なので、彼の言う通り。
「えっと、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる。それもなにか違うだろと顔を上げさせられた。ん?
何が違うのだろうと迷う。その後、デートであちこち連れ回されて、たくさん溢れるほどの買い物をさせられてしまうという。これは愛されているのではと一日もかからず、わからせられた。
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