第7話:氷スライム、ファーストクエストをする
眩しい光が差し込んで目が覚めた。
窓の外にはザ・中世ヨーロッパな街並みが続き、青い空には太陽が二つ。
もしかして、氷転生は夢なんじゃなにのかと思ったが、夢じゃなかった!
リゼリアも目が覚めたようで、一緒に大きく伸びをする。
「コーリちゃん、おはよー」
「おはよう、リゼリア。よく眠れたか?」
「うん! コーリちゃんと一緒だったから!」
「こ、こらっ、そんなにくっつくと溶けちゃうって」
朝一番、リゼリアは俺を抱き締める。
結局、昨日もずっと抱かれたままだった……などと思っていたら、リゼリアがこてんと首を傾げた。
「あれ? コーリちゃん、小っちゃくなってない?」
「えっ?」
たしかに、彼女の言うとおり俺のスライムボディは三分の二ほどに小さくなっていた。
ちょっと抱かれただけで、もうそんなに溶けちゃったの?
……いや、違う!
体力だけでも確認しなければ……ステータスオープン!
――――――
体力:3/5
――――――
なんと、寝たのに少し減っていた。
どうして……そうか、寝ている間にボディが溶けたからだ。
だから、ハードモード過ぎるだろ……。
でも、疲れはきちんと取れているんだよな、不思議だ……あっ、気づいたことが一つ。
おそらく、氷スライム……というか、氷属性の魔物はボディの容量(体積か?)=体力という扱いなのだろう。
そういえば、氷や氷スライムでいたときも肉体的な疲労はそれほど感じなかったような気がする。
とはいえ、魔力などは《給水》で回復できないので休む必要は普通にあると……ふむふむ。 そんなことを考えているうちに、リゼリアが顔を洗ったりと朝の準備が終わった。
「コーリちゃん、準備できたよ」
「じゃあ、朝飯を食べに行くか」
「さんせーい! ご飯楽しみー!」
ギルドの大食堂に行き、冒険者たちと朝の挨拶を交わし、朝ご飯を食べる。
朝食は"紅牙団"名物のサンドイッチだった。
を食べ、水を《給水》して体力を回復し、俺とリゼリアはギルドの片隅に設置されたクエストボードの前に来た。
「よっし、記念すべき初クエストを選ぶとするか」
「いっぱいあるねぇ。どれを選ぼうか悩んじゃうよ」
ボードには、それこそ壁一面を埋めるほどのクエスト表が貼られている。
スライムやゴブリンといった雑魚魔物の討伐はもちろん、薬草や毒草の採取などの採取系クエストもあったり、はたまた近くの山に住まう高レベルなワイバーンの討伐まで掲示されている。
「コーリちゃん、どんなクエストがいいかなぁ? なるべく、初心者向けの内容がいいよね」
「そうだな、なるべく低ランクのものを探してみよう」
「了の解……ねぇ、コーリちゃん、これはどう?」
しばし探すと、リゼリアが一枚の紙を見つけてくれた。
〔巨大鼠の討伐〕
・形式:常時クエスト
・難易度:Eランク
・クエスト内容:"フィラドの森"に出現した、巨大鼠を討伐せよ。討伐数に応じて報酬は増加されたし。
これは常時クエストと呼ばれる、常に依頼がギルドから出されているタイプのクエストとのこと。
住民が個別に出す一般クエストや、早急な対応が求められる緊急クエストなどに比べれば報酬は低めの設定だが、初心者でもチャレンジしやすい内容が揃っているようだ。
"フィラドの森"はベル=グリナスの住民がよく食糧調達に向かう森の一つで、豊かな反面、魔物も多い。
住民が安全に作物などを採取できるよう、常に魔物の討伐依頼が出されている。
このような常時クエストは定期的な安定した収入にもできることから、見習いを脱した冒険者でもたまに受けるらしい。
今の俺たちの実力にピッタリだろう。
「リゼリア、これにしよう」
「いえいっ! 鼠退治の始まりね!」
受付にはちょうどカリナさんがいて、依頼票を持っていくと景気よく承認印を押してくれた。
「"フィラドの森"はギルドからも近いし、巨大鼠は戦いやすい魔物だからおすすめさね」
壁に架けられた地図を確認すると、フィラドの森は歩いて二十分ほどの地点にあるらしく、道もわかりやすい。
巨大鼠は全長60cmほどの大きな鼠であり(でかすぎんだろ……)、鋭い歯の攻撃に注意とのこと。
カリナさんに魔物図鑑も見せてもらったので、姿形も把握できた。
繁殖力は大変高いが戦闘力はそれほどでもなく、冒険者生活の基礎を学べる魔物という触れ込みだった。
「「じゃあ、行ってきまーす」」
「ちょいと待ってくれ、二人とも。お願いがあったのを忘れていたよ。ついでに薬草も採取してきてくれないかい? もちろん、報酬は支払うからね」
「ええ、もちろんいいですよ。どれくらい採ってくればいいでしょうか?」
「あるだけあればありがたいよ。実は、街の外で奇妙な病気が流行っていてねぇ。大量の薬草が必要なのさ」
「「奇妙な……病気?」」
俺とリゼリアは同時に疑問の声を出す。
異世界の病気って、それだけでめっちゃ怖いのですが。
カリナさんはすぐに詳細を教えてくれた。
「ベル=グリナスの東側にデイル川っていう大きな川があって、その川向こうにネリファ村と呼ばれる小さな村があるんだけどね。一ヶ月くらい前から村人の間に変な病気が流行りだしたんだよ。主な症状は高熱としつこい咳で、身体に紫色の斑模様が浮かぶのが特徴さね」
「「なんて恐ろしい……」」
熱と咳だけでもめっちゃきついのに、紫色の斑点模様ってなに。
絶対ヤバい病気じゃないですか。
……あっ、でも、ここは異世界だから……。
「病気も回復魔法で治ったりはしないんですか?」
俺が尋ねると、カリナさんは力なく首を横に振った。
「たしかに、その可能性はあるよ。だけど、《回復魔法》スキルの持ち主は大変に珍しいんだ。このギルドにも今はいないね。あちこちで引っ張りダコだから、条件のいい話が来たらすぐそっちに移動してしまうのさ」
「なるほど……そんな事情が……」
「カリナさんの言うとおりかも。私のいた王国……こほん。場所でも《回復魔法》スキル持ってる人はあんまりいなかったなぁ」
とは、リゼリアの談。
そういえば、ファンタジー系のアニメや漫画、小説などでも回復系の魔法使いはレアな扱いが多かった気がする。
きっと、この世界でもそうなんだ。
でも、とカリナさんは言葉を続けた。
「運の良いことに、病気が流行りだしてすぐ薬師のグループが来てくれてね。村人たちの治療に当たってくれているのさ。彼らは薬を作るプロだから、特効薬を作ってくれるだろうよ。あたしたちが集めた薬草は橋の真ん中に置いて、薬師たちが回収する……という流れで渡しているんだ。薬師グループはみんな《疾病耐性》のスキルがあるみたいで、病気にはならないんだってさ。羨ましい限りさね」
「そうなんですか、良かったです」
「薬師さんたち、ナイスタイミングだね。長年の経験で身につけた、病気を探る嗅覚とかあるのかな」
不幸中の幸いで、病気の流行はまだ村の中だけに留まっている。
ベル=グリナスに感染が広まったら大変なので、街全体の方針としては薬草の提供だけとのことだ。
「コーリとリゼリアも、ネリファ村の人たちを救う手助けをしてくれたら嬉しいね」
「もちろんですとも!」
「私とコーリちゃんに任せて! たっくさんの薬草を集めてくるから!」
カリナさんに誓い、俺とリゼリアはギルドを後にする。
目指すは"フィラドの森"。
巨大鼠の討伐と、病気の村人のために薬草を採取する。
いざ、冒険者の世界へ!
□□□
"紅牙団"のギルドから、歩いて二十分ほど。
俺とリゼリアは"フィラドの森"に着いた。
木々はたくさん生えているが、所々光が差し込んで明るい雰囲気。
思いっきり息を吸い込むと、大変に爽やかな気持ちとなった。
「「うぅ~ん、緑の良い香り~」」
野草や木の実が豊富に実る様子からも、たしかに食糧採取に向いていそうな森だとわかる。 食べ物がたくさんあれば、魔物が集まるのもまた必然だ。
リゼリアと探索の方針を相談する。
「巨大鼠は森の浅い位置に多いって、カリナさんが言っていたな」
「薬草は木の根元近くに生えやすいとも話していたね」
「じゃあ、巨大鼠を探しながら薬草を探そう。あまり深くは踏み込まないように注意だ」
「コーリちゃんの意見にさんせーい!」
周囲を警戒しながら森に入る。
薬草もまたカリナさんに図鑑を見せてもらったので、姿形はわかる。
木々の根元に生えていることが多いという話の通り、注意深く探したらすぐに何束か見つかった。
鮮やかな緑色をしたミントの葉っぱみたいな形で、一枚一枚の大きさはだいたい7cmくらい。
リゼリアはぱぁっ!と笑顔になった。
「コーリちゃん、あったよ! これで村人さんたちの薬ができるね! 採取しよう!」
「その前にちょっとだけ待ってくれ。調べてみたいことがあるんだ……《鑑定》!」
試しにスキルを使うと、たちまち頭の中に薬草の情報が流れ込んできた。
<薬草>
ランク:E
品質:良い
説明:小程度の回復効果がある草。品質によって回復効果に差がある。
すごい、《鑑定》スキルでこの薬草の詳しい情報がわかった!
品質自体の意味も調べられるのかな?
<品質>
意味:素材などにおいて、個体ごとの状態を示す言葉。とても悪い・悪い・普通・良い・とても良い、の五段階に区分される。
なるほど、前世の野菜とかと同じ感じか。
「リゼリア、鑑定してみたところこれは良い品質の薬草だ」
「品質までわかるの? コーリちゃん、すごーい! 私にはどれも同じに見えるよ」
薬草の品質には良い物の他、普通や悪いなどもある。
日当たりや雨の当たり具合で、育ちに差が出ているのだろう。
見た目だけじゃ違いを見抜けなかったりするから、《鑑定》スキルでわかるのは大変に助かる。
手分けして採取を開始するわけだが、ところがどっこい。
「……あっ! 俺はスライムじゃん。この身体では採取できない……」
「大丈夫、私が採取する。役割分担すればいいよ。コーリちゃんは探索担当ね。良い薬草を見つけたら教えて。それだけでもすごいんだから」
「ありがとう、リゼリア。ナイスアイデーアだ」
ということで、俺が《鑑定》スキルで良い品質の薬草を見極め、リゼリアが採取して鞄に仕舞う。
晴れた青い空の下、不思議な森でのんびりと薬草を採取する……。
なんか、これぞ異世界生活って感じ。
ワクワクと楽しむ俺に対し、リゼリアはどこか力がない。
「どうした、リゼリア? まさか、身体の具合でも悪いんじゃ……!」
「何だか、ギャラリーがいないと気合いが入んないねぇ……」
「そ、そうか。体調に問題ないなら何よりだ」
知り合って間もないが、どうやら彼女は人に見られるのが好きな性格らしいとわかってきた。
ちょっと危険な香りがするので、なるべく目を離さないようにしよう。
体感で十分ほども薬草を探していたとき、5mほど離れた草叢がガサッ!と激しく揺れ、大きなネズミ魔物――巨大鼠が姿を現した。
見える範囲では六匹おり、すかさず俺たちは戦闘態勢に入る。
「コーリちゃん、来たよっ! いきなり六匹もいる!」
「まずはステータスを確認しよう。……《鑑定》!」
――――――
名前:なし
種族:巨大鼠
性別:オス
レベル:4
ランク:E
体力:7/7
魔力:4/4
攻撃力:6
防御力:3
魔攻力:3
魔防力:1
素早さ:14
《種族スキル(種族に特有なもの)》
・媒介(病原菌や呪いなどを身に宿し、別の場所や生物に感染させる)
《ユニークスキル(個体に特有なもの)》
《シークレットスキル(ある条件を満たすと解放されるもの)》
〔称号〕
――――――
真ん中奥に構える巨大鼠が一番身体が大きく、ステータスも高かった。
おそらく、この小さな群れのリーダーと考えられる。
「リゼリア、ここでも役割分担だ。俺は右側を倒すから、リゼリアは左側を頼む」
「了解っ」
今の自分が使える氷魔法は、すでに頭の中に思い描かれている。
精神を集中し、空中に直径30cmほどの氷の塊を生み出す。
右手前の巨大鼠を狙って、「飛んでいけ!」と強く念じる。
「喰らえ! 《氷弾》!」
『ピギィィィッ!』
俺の生成した氷の塊は、巨大鼠の頭に直撃。
頭部に当てたためか、一撃で動かなくなった。
直後、最奥以外の個体が俺たちに向かって駆け出した。
森林ウルフほどではないが、そこそこに早い。
手はず通り、俺は右側のもう一体に更なる《氷弾》を当てて倒す。
知能が低いためか、進行方向を注意深く見て放てば十分にヒットさせることができた。
リゼリアもまた全身に魔力を巡らせる(だんだん、魔力のオーラみたいなのが感じ取れるようになってきた)。
「私も頑張るんだから! ……《火焔斬》!」
彼女の右腕が赤く光ったかと思うと手先を炎が纏い、燃えるソードが生えたように変貌した。
横一線に薙ぎ払い、巨大鼠たちを同時に真っ二つに斬る。
『『ピギャアアッ!』』
二匹の巨大鼠は断末魔の叫び声を挙げ絶命した。
残すはリーダーと思われる個体だけだ。
逃げられても面倒なので、俺は魔力を溜めながらぴょんぴょんと近づく。
「こいつは俺が倒す……《氷弾》!」
『ピギャッ!』
頭部を狙ってもう一撃。
全部倒した!
リゼリアの手にボディを当ててハイタッチする。
「「クエスト初勝利~!」」
森林ウルフよりランクは低かったが、勝利は素直に嬉しい。
初勝利を祝うと、リゼリアは熱そうな顔でパタパタと顔を仰いだ。
「ああもう、ちょっと火魔法を使っただけで身体が熱い~」
「俺を持って冷やせばいいよ」
「ありがとう、コーリちゃん!」
リゼリアが俺を抱いて体温を冷やす間、一旦ステータスを確認するか。
――――――
名前:コーリ
種族:氷スライム
性別:男
レベル:5/10
ランク:E
体力:4/5
魔力:3/7
攻撃力:4
防御力:4
魔攻力:5
魔防力:7
素早さ:4
《種族スキル(種族に特有なもの)》
・氷語(氷と会話できる)
・給水Lv.1(水を吸収して体力を回復できる)
・氷魔法Lv.1(氷属性の魔法が使える)
《ユニークスキル(個体に特有なもの)》
・人間模倣(人間の行動を模倣できる)
・鑑定Lv.1(魔物や物の鑑定ができる)
《シークレットスキル》
・氷族進化(氷属性の他種族に進化できる)
〔称号〕
・転生者(種族スキルを継承できる)
――――――
巨大鼠を三体倒した結果、レベルが少し上がった!
けど、進化まではもう少し時間がかかるっぽい。
まぁ、クエストをこなしながらのんびり目指そう。
次はどんな種族に進化できるんだろう、楽しみだな……などとステータスの確認をしていると、リゼリアの体温も元に戻ったらしい。
「こうやって身体を冷やしてくれれば、火魔法の連発もできるよ! コーリちゃんがいれば、私は無敵になれる!」
「それならよかった。ここ調子で頑張っていこう」
事前の評判通り、巨大鼠の討伐クエストは今のレベルにちょうどよく、俺たちはしばらく鼠退治をしまくるのであった。
お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます
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