第6話:夢と現実(Side:リゼリア①)
ふと気がついたら、リゼリアは硬い大理石の上に寝そべっていた。
真っ白で冷たい大理石の床。
自分の高い体温には気持ちいいはずなのに、不気味な冷たさに胸がざわついた。
周囲は薄暗く、世界から取り残された様な感覚を覚える。
一緒に抱いて寝たはずの"彼"もいない。
リゼリアは恐怖や不安に駆られ、大好きな"彼"の名を叫んだ。
「……コーリちゃん!? コーリちゃん、どこー!?」
必死に叫ぶが返事はない。
(大好きなコーリちゃんと離れ離れになるなんて絶対に嫌だ!)
いったい自分はどこに来てしまったのだと思ったとき、リゼリアは床の装飾――巨大な龍が赤い火を吹く姿――に気がついた。
この力強く美しい装飾には……見覚えがある。
(もしかして、ここは……宮殿?)
徐々に目が慣れると、周囲の壁や天井が見えてきた。
見れば見るほど、リゼリアの生まれ故郷――フレイムハート王国の宮殿だった。
しかも、最も格式の高い空間、"龍王の間"。
追放を命じられた場所に、なぜか彼女はいたのだ。
(いったい何が……起きたの?)
と、ぼんやりする中、正面の暗がりから何者かの気配を感じた。
すかさず戦闘態勢を取るが、その正体が明らかになったとき、リゼリアは思わず驚きの声を上げてしまった。
「お父様、お母様!? それに、お兄様とお姉様方まで……!?」
現れたのは、リゼリアの父と母、そして四人の兄と二人の姉だった。
自分を追い出した家族たち。
予期せぬ再会に混乱するリゼリアに対し、父と母は鬼のような顔で激しい罵倒をかます。
「我が輩たちがどれだけお前に期待していたかわかっているのか!? 大きな戦力になるとぬか喜びさせおって! 《封熱》スキルなんて劣悪なスキルを授かるとは、フレイムハート家の汚点でしかない! お前は一族の裏切り者だ!」
「あたくしたちはこれから重要な局面を迎えようとしているのよ! この役立たず! 龍人族の風上にもおけないわ!」
他の兄姉からも同じように酷い言葉を浴びせられると、リゼリアはこの状況をすとんと理解した。
(ああ、またこの夢だ……)
リゼリアは生まれつき火魔法の適正が高く、生まれたときからレベルが5もあった。
"フレイムハート王国の目的を達成できる"と寵愛を受けたものの、安寧の日々はいつまでも続かなかった。
十四歳を迎えてすぐ。
理由は不明だが、フレイムハート王国では害悪とされる《封熱》スキルが発現した。
火魔法を使うたび熱が籠もり、元々高い体温も相まってオーバーヒートしてしまう。
自由に火魔法が発動できなくなった結果、家族からの評価は逆転。
今までにこやかだった笑顔は憎しみ溢れる憎悪の顔に変わり、王女にも拘わらず瞬く間に追放処分を下された。
(この夢を見たときは目が覚めるまで罵倒され、暴力を振るわれるんだよね……。今日は何回殴られるのかな……)
夢の世界では、身体が動かなくなってしまう。
本人に自覚はなかったが、リゼリアの深層心理には《封熱》スキルを発現した負い目と家族に対する恐怖が根付いていたのだ。
正面に立つ父が、右腕を大きく振りかぶる。
(抵抗も対抗もできず、今日も殴られるだけ……)
いつものように諦めたとき。
「「……ぐああああっ!」」
突然、巨大な氷の塊が炸裂し、父母や兄姉たちは吹き飛ばされた。
どこから現れたのか、リゼリアを守るように一匹の氷スライムが立ちはだかる。
「コーリちゃん!」
半透明に青く輝く美しい身体を見た瞬間、リゼリアの心から恐怖や不安は綺麗さっぱりと消え去った。
コーリが、助けにきてくれた。
そのまま何発もの氷魔法を放ち、父や母、兄と姉の姿を完全に消してしまう。
辛い思い出が詰まった宮殿も消滅してしまい、代わりにコーリと初めて出会ったあの森に囲まれた。
「ありがとう、コーリちゃん!」
リゼリアはコーリを力いっぱい抱き締める。
氷でできた身体は、恐怖と不安、焦燥感に駆られた心をひんやりと癒やしてくれた。
(コーリちゃんに出会わなかったら、私の人生はどん底のどん底だった)
二度と離れ離れにならないよう、ぎゅっと力の限り抱く。
(もう、この辛い夢は今日でおしまいだ! もう、二度と見ることはないの! だって……コーリちゃんと会えたから!)
誰に言われずとも、そう強く確信できた。
コーリを抱くと身体は涼しくなったのに、心はぽかぽかととても温かくなった。
夢の世界でも、現実の世界でも……。
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