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第36話:氷ゴーレム、宮殿を調査して王女様を見つける

「そっか! コーリちゃんは進化したから新しいスキルが使えるんだ! 分体って喰尽スライムのアレだよね? たしかに、小さい身体であちこち調べたら何かわかるかも」

「ああ、そういうことだ。さっそく始めよう……《分体生成》!」

 

 全身に魔力を込めると、俺の身体からたくさんの小さな氷の塊が生まれ出た。

 喰尽スライムがスキルを使った様子から、分体は本体の形態を模すものだと考えられる。

 いくら小さくても人型だけでは捜索範囲が狭まってしまうので、シークレットスキルの《造型師》を使っていろいろな種類の分体を作る。

 俺のミニサイズである小人型の他、小鳥型、子猫型、トカゲ型、蛇型、蜘蛛型……。

 大量に生み出された多種多様の分体は、次々と小窓から外に向かう。

 その光景を見てリゼリアは喜ぶ。


「小っちゃいコーリちゃんがいっぱいで可愛いー! 小鳥さんのコーリちゃん、私も欲しいな」

「この騒動が終わったらたくさん作ってあげような。まずは情報収集だ。監獄にいては外の情報が何も入ってこない。国王陛下が本当に体調不良なのかを確認し、オーロラ様の所在についても調査する」

「お願い、コーリちゃん。でも。身体が少し小さくなっちゃったよ。休まなくて大丈夫?」


 多数の分体を生み出したからか、俺の身体は八割ほどに縮んだ。


「いや、全然大丈夫。最悪、水があれば復活できるだろうし」

「いつも頼ってばかりでごめん、コーリちゃん。私の火魔法をぶつければこの檻は溶かせそうな気もするけど、今の状況では止めておいた方がいいよね」

「気にするな。コレも檻の破壊は止めた方がいいと思う。嫌疑をかけられている段階だし、何か物を壊したらそれこそ本当の罪になってしまう。調査が終わるまでの間、すぐ行動できるようにリゼリアは体力と魔力を回復しておいてくれ」

「了解っ」


 リゼリアの火力や俺の《攻防強化》スキルなどを以てすれば牢獄は突破できそうだが、それは本当に最後の手段になるだろう。

 俺は《分体生成》スキルを使ったのが初めてだが、どのような能力なのかだいたい検討がついていた。

 それぞれの分体の視野は本体の俺と共有されており、モニタールームで大量の画面を同時に見ている感じ。

 自分の分身がいっぱいいるなんて不思議な気分だ。

 分体の大部分を宮殿の敷地、さらには王都の街にまで広げつつ、何割かは宮殿に向かわせる。


 きっと、国王陛下は広い宮殿のどこかにいるはずだ。

 俺はまだ"国王の間"にしか行ったことがないから、建物の構造を完全に把握しているわけじゃない。

 早急に確認する必要があるし、目星を付けて捜索する必要があった。

 そこで、重篤な体調不良であれば人の出入りが激しいと思い、人が多い方に向かって移動した。


 思った通り、分体の1つ――トカゲ型が国王陛下の部屋を見つけた。

 医術師の格好をした人が入れ替わり立ち替わり、とにかく慌ただしく出入りしている。

 不吉な雰囲気に胸が騒ぎながら、俺も静かに中に入った。


 中央には天蓋付きの大きなベッドが置かれ、国王陛下が横たわる。

 顔や首筋には紫色の斑点模様が浮かび、額には玉のような大粒の汗が流れる。

 ……“紫呪病”だ。

 斑点模様は数が多く色の濃度も濃く、一目見ただけでネリファ村の人たちより何段階も重い症状だとわかる。

 周囲では何人もの医術師が薬を調合したり、切羽詰まった声と表情で病状について相談していた。


「……なんでどの薬も効果がないんだ! 最高級の秘薬ですらまったく効き目がないぞ! 即効性の作用があるはずなのに!」

「こんな病気見たことない……。いったい、国王陛下は何の病に冒されているんだ」

「もっと国中の医術師、薬師を呼べ! とにかく、あらゆる知見と薬を集めろ!」


 宮殿には国内最高峰の医術師や薬師が集まっているはずだが、まるで効果がないようだ。

 だが、俺の《回復氷》ならば癒やせるかもしれない。

 人がいなくなるのを待っていては容態が悪化してしまうので、俺はベッドの近くで声を張り上げた。

 

「国王陛下! コーリの分体です! 俺にあなたの病気を治させてくれませんか!?」


 叫んだ瞬間、部屋中の視線が俺に集まった。

 一瞬の沈黙の後、医術師と薬師たちがどよめく。


「こ……こいつ、今コーリと言ったぞ! 宰相閣下の話していた犯罪魔物だ!」

「暗殺未遂の犯人だ! 捕まえろ!」

「衛兵を呼べ! 衛兵ー!」


 たちまち、部屋中は大騒ぎになってしまった。

 クソッ、なんとかして《回復氷》を……! 

 狭い来る腕を躱す中、国王陛下が息も絶え絶えに呟いた。


「皆の者……落ち着け……。その者は……敵ではない……」


 絞り出すような言葉に、室内の喧噪は徐々に収まる。

 俺がベッド脇のサイドテーブルに登ると、国王陛下は苦しそうな顔で話した。


「コーリ殿……オーロラがいなくなってしまった……。我が輩はどうなってもいい……オーロラを……」

「国王陛下、落ち着いてください。オーロラ様の居場所は俺の分体が捜索中です。必ず見つけますので、まずはご自身の病気を治しましょう。俺は一度、似たような病気を治したことがあるんです。今から魔法で作る氷を食べてもらえますか?」

「……ああ、もちろんだ……。よろしく頼む……」

「ありがとうございます。では、《回復氷生成》!」


 回復氷を生み出し、国王陛下に食べてもらう。

 カリカリと食べるや否や、その身体から紫色の斑点模様がどんどん薄まっていった。

 5秒も経たずに完全に消滅。

 玉のような汗は引き、呼吸の深さも正常に戻る。

 驚きのためか医術師たちは言葉を失っており、室内は静寂で包まれた。

 国王陛下はゆっくり身体を起こすと、不思議そうな表情で胸を触る。


「む……胸の苦しみが消えてしまった。あれほど辛かった呼吸が嘘のように楽だし、頭もハッキリしている。治った……病気は治ったのだ! コーリ殿が我が輩の病気を治してくれたぞ! ありがとう、コーリ殿!」


 今にも死にそうな陰鬱な雰囲気は消え失せ、国王陛下の顔には明るさが満ちあふれる。

 そのまま、転がり落ちる勢いで俺の小さな両手を握り締めるが、医術師たちが慌てた様子でベッドに押し戻した。


「こ、国王陛下、念のため診察させてください!」


 医術師や薬師が念入りに診察をしたが、病気は完治したと判断された。

 たちまち、寝室には大歓声が響き渡る。


「国王陛下が快復なされた! 快復なされたぞー!」

「ああ、よかった! 本当によかった!」

「コーリ殿、私たちからもお礼を言わせてください! ありがとうございました! もう手の打ちようがなかったのです!」


 みなは喜び、歓喜の声を上げる。

 俺は牢獄の本体に一旦意識を戻し、リゼリアにも情報を共有した。


「リゼリア、国王陛下を見つけた。体調不良で寝ているというのは真実だったようだ。でも、俺の《回復氷》で治したから安心してくれ」

「え、ほんと!? やっぱり、コーリちゃんすごいよ!」

「国王陛下の病気はネリファ村で見た"紫呪病"かもしれない。しかも、何段階も重い症状だった。一歩遅かったら本当に死んでいただろう」

「"紫呪病"って、あの紫色の斑点が浮かぶ病気だよね。ネリファ村では悪い薬師が井戸に病気の素を入れて広めていたけど、今回も誰かが毒を盛ったのかな」

「……悲しいがその可能性は十分にある」


 そこまで話したところで、トカゲ型の分体に意識を戻す。

 俺とリゼリアは監獄に収容されていることを国王陛下に伝えると、すぐに解放するよう皆に命じてくれた。


「即刻、コーリ殿とリゼリア殿を監獄から出し、大至急オーロラを探せ! 宮殿はもちろん、王都の街、さらには近隣の街にまで捜索隊を出せ! 川沿いにも騎士を配置するのを忘れるな! スタニックはどこにいる!」

「宰相閣下は魔法研究所にて治療薬の開発を行うと仰っておりました。ジル所長はコーリ殿が誘拐したと主張されていますが……」

「コーリ殿がそのような愚行をするわけがなかろう! ジルの判断ミスだ! スタニックにも連絡を取れ! ジルの居場所も突き止めろ!」


 寝室が慌ただしくなったとき、宮殿中に散らばった分体の一団が王立魔法研究所に到着した。

 ここまで来ると宮殿の喧噪は聞こえず、どこか不気味な静けさが漂う。

 入り口の脇には2人組の研究員が立っており、周囲を険しく睨む。

 スタニック閣下が薬の開発中と言っていたし、誰も中に入れないつもりだろう。


 俺は分体たちを《造型師》スキルで平たい形に変え、見つからないようにドアの透き間から内部に侵入する。

 研究所という性質のためか通路の脇には木箱などが無造作に置かれ、全体的に灰色っぽくて殺風景な内装だった。

 建物内もまた不思議と閑散としており、職員の姿は見えない。


 ふと、奥のひときわ大きな扉から話し声が聞こえ、俺はそっと中に入った。

 騎士の小さな訓練場ほどの部屋が広がる。

 中央には大きな台が置かれ、その周りにはジル所長と多数の研究員や騎士たちが立つ。

 そして、台の上に静かに横たわるのは……オーロラ様だ。

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