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第35話:氷ゴーレム、国王暗殺未遂並びに王女誘拐の嫌疑をかけられる

 ジル所長の言葉は、俺に強い衝撃を与えた。

 国王陛下暗殺未遂に王女様の誘拐?

 いったいどういうことだ。

 リゼリアとモンセラートはもちろんのこと、住民たちも激しく混乱している。

 一方、周りを囲む騎士やジル所長に動揺などは見られない。

 本当に俺がやったと確信しているようだ。

 まさしく青天の霹靂だが、ここは冷静に対応する。


「ジル所長、俺はそんなことしていません。謁見が終わった後は、すぐにこの街に来ました。宮殿には近づいてもいないのですから、暗殺も誘拐も不可能です」

「そうだよ! どうやってするの! そもそも、コーリちゃんがそんなことするわけないじゃん! コーリちゃんのことを何だと思っているの!」


 リゼリアが怒りを滲ませた口調で叫ぶと、ジル所長はより一段と表情が険しくなった。


「コーリ、貴様の手筈は全てお見通しだ。貴様は《収納》スキルを持っていたな」

「ええ、持っていますが……」

「異常魔物を調査した結果、人間に対して強い毒性成分を持つことがわかった。貴様は収納した異常魔物の毒性成分を体内で抽出し、身体の一部に凝縮したのだ。"国王の間"に氷として意図的に残して立ち去った。だから、時間差で国王陛下は意識不明の重体に陥った。……この始末、どうしてくれようか」


 ジル所長は憎悪の籠もった瞳で俺を睨む。

 始末も何も俺はやっていないのに。

 なぜ、このような結論に至ったのか、不思議でしょうがないのが素直な気持ちだ。


「ですから、俺はそんなことしていません。毒性成分を凝縮する能力なんてないですし、国王陛下を殺そうとする動機もありません」

「魔物の言葉などとうてい信じられんな。口では何とでも言える」

「ところで、あの場にはスタニック閣下もいらっしゃいましたよね。あの方も意識不明になったんですか?」

「幸い、スタニック閣下はご健康だ。貴様の氷が溶ける前に退出されたからだと思われる」

「では、王女様の誘拐はどうやったんですか?」

「それを聞くために貴様を拘束するのだ。……お前たち、コーリを捕らえるんだ。気をつけろ、毒性成分を操るぞ」


 ジル所長が命じると、騎士たちが警戒しながら抜剣する。

 すかさず、リゼリアが俺を守るように立ちはだかった。


「コーリちゃんには指一本触れさせないよ! あなたの言っていること全然わからない! コーリちゃんは大湿原の悪い魔物をいっぱい倒してくれたのに、どうしてそんな疑いをかけられなきゃいけないの!? これ以上近づいたら攻撃するから!」

「リゼリア、あまり刺激しちゃダメだ。巻き添えを食らってしまうぞ」

 

 ジル所長や騎士たちは妄信的なほど、俺を悪に思っている。

 まだリゼリアに矛先は向いていないが、刺激すると彼女まで拘束の対象にされるだろう。

 対策を考える中、ずっと静観していたモンセラートが俺とリゼリアの前に歩み出た。


「ジル所長。あなたが先ほどから何を言っているのか、申し訳ないが私にも理解できない。あなたは何か勘違いをしているのではないか? まず、暗殺と誘拐は本当に起きたことなのか?」

「ふんっ、コーリの隣にいながら悪性に気づかないようでは、グレゴリオ公爵家も墜ちたものだな。国王陛下は重体、王女様は所在不明。つい先ほど発生した事案だ。王都における騎士団の緊急配備ももうじき完了する頃だろう」


 その言葉を証明するかのように、いつの間にか王都の街にはたくさんの騎士たちが集まった。

 ジル所長一行と同じく俺に厳しい視線を向ける一団や、住民たちと同じように混乱した様子の騎士など、大きく2つに分かれる印象だ。

 モンセラートはまったく動じず、淡々とした口調で話を続ける。


「この件について、宰相閣下のご意見は? あなたは騎士団を直接、しかもだいぶ大規模で動かしているようだが、最高責任者である宰相閣下の許可は得られたのか?」

「緊急事態につき、許可など事後報告で構わん。宰相閣下も承諾してくださるだろう。モンセラート嬢、もし邪魔をするようなら、貴殿もこの場で切り捨てねばなるまい。重罪人を庇ったのだから当然だ。まさか、公爵家が王族より高位だと勘違いはしていないな?」


 騎士たちはモンセラートの首に剣を突き付ける。

 このままでは、彼女にまで危害が加わってしまう。

 そう思った俺は、ここは素直に従うことにした。


「……わかりました。ジル所長、俺は投降します。だから、モンセラートやリゼリアを傷つけるようなことは止めてください」

「コーリちゃん、ダメだよ!」

「コーリ、やめろ! お前が捕まる必要はない!」


 必死になって叫ぶモンセラートとリゼリアに対し、ジル所長は不敵な笑みを浮かべる。


「ほぉ、物分かりが良いではないか。よし、コーリを捕まえろ。監獄に収容するのだ」


 騎士たちが俺の周りに集まると、妨害するようにリゼリアが両手を広げた。


「だったら、私も行くよ! コーリちゃんとずっと一緒にいるって決めたもん!」

「何を言っているんだ、リゼリア! 俺と一緒に収容される必要はないだろう!」


 予期せぬ言葉を慌てて止めると、彼女は笑顔で俺を見上げた。


「大丈夫。私はコーリちゃんに助けられたんだから、今度はコーリちゃんを助けたいの。2人でいれば絶対に何とかなるはずだよ」

「リゼリア……ありがとう……」


 2人で収監されることが決まり、俺とリゼリアは騎士に囲まれ連行される。

 歩き出す背中にモンセラートの叫び声が轟いた。


「待っていろ、2人とも! 少しの辛抱だ! 私が必ず誤解を解いてみせる! だから、決して希望を捨てるなー!」



 □□□



 俺とリゼリアは騎士団に連行されるとすぐ、宮殿の敷地の隅にある重厚な牢――特別牢獄棟の一室に収容された。

 小窓があるだけの殺風景な部屋だ。

 重い錠が下ろされ、檻の外ではジル所長が騎士たちとともに嬉しそうに笑う。


「貴様らは死刑だろうな。暗殺未遂に飽き足らず、王女様の誘拐まで実行したのだから当然だ。やはり、我が輩の勘は正しかった。人間に友好的な魔物など存在しないのだ」


 ジル所長と騎士たちは高笑いしながら立ち去る。

 たちまち監獄はしんとした静けさに包まれ、リゼリアが不安そうに俺の身体を抱き締めた。


「それにしても困ったね、これからどうしようか、コーリちゃん。私たち処刑されちゃうのかな?」


 いつもは高い彼女の体温が少しばかり低く感じられる。

 強気の姿勢でいたものの、心の底では不安だったのだろう。

 俺は安心させるようにリゼリアの頭を撫でた。


「大丈夫、俺に策がある。《分体生成》スキルを使って、宮殿を調査してみよう」

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