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第30話:氷ミミック、異常魔物の主を倒し、騎士たちから感謝される

「喰尽スライム……スライムにもAランクの魔物がいるのか!」

「ぶにぶにしてて怖いよ。コーリちゃんの氷スライムはあんなに可愛かったのに」

「こいつはスライムの中で最強種族だ。初期形態はせいぜい30cmほどの全長だが、他の生物を喰らってスキルやステータスを奪う。ここまでの大きさは、私も騎士になって長いが初めて見た。何十体……いや、百は超えるほどの魔物や人間を喰らったに違いない」


 俺とリゼリアの言葉に、モンセラートは厳しい顔つきで応える。

 喰尽スライムはその名の通り、どんな物でも大食する魔物とのこと。

 魔物から始まり、数が足りなくなれば野生の草木や果物を喰らい、やがて人間の村々を襲う。

 討伐されるまでずっと食事と増殖を繰り返す習性があり、このスライムに滅ぼされた村や街は一つや二つじゃないとも。

 喰尽スライムの身体からは小さな分身が生み出され、その分身からはさらに別の分身が生まれ、どんどん数を増やしている。


「コーリ、リゼリア、あれは喰尽スライムの分身――分体だ。……クソッ、増殖速度がかなり速い。これも異常魔物としての特性か?」


 俺は魔物なのに、ここに来るまでモンセラートや騎士たちにはずいぶんと良くしてもらった。

 今こそ一番危険な敵を倒し、恩を返すときだ。


「俺とリゼリアが本体を攻撃する! モンセラートたちは分体を頼む!」

「承知した! いくらAランク冒険者と云えども気をつけろ! 分体も本体と同じ能力を有する! ……皆の者、聞いた通りだ! 本体はコーリとリゼリアに任せて、私たちは生まれ出る無数の分体を攻撃だ!」

「「了解!」」

「コーリちゃんは私が運ぶね!」


 リゼリアが俺を抱えてくれ、喰尽スライムに向かって走る。

 例の如く、まずは鑑定スキルでステータスを調査だ……《鑑定》!




――――――

 名前:サンプル53

 種族:喰尽スライム(変異種)

 性別:雌雄同体

 レベル:42/70

 ランク:A

 体力:488/503

 魔力:377/489

 攻撃力:280

 防御力:400

 魔攻力:482

 魔防力:490

 素早さ:282


《種族スキル(種族に特有なもの)》

・喰尽スライム語(喰尽スライムの言葉がわかる)

・喰尽(他者を吸収し、ステータスを奪い取る)

・軟体Lv.5(柔らかい身体で物理攻撃を吸収することができる)

・形態変化(自由に形態を変化できる)

・分体Lv.7(身体から分身体を生み出す)

・溶解液Lv.8(物質を溶解させる液体を放出する)


《ユニークスキル(個体に特有なもの)》

・凶暴化【大】(知能が落ちる代わりに、全てのステータスが1.3倍に上昇する)

・短命(常にHPが減り続ける)

・毒魔法Lv.4(毒魔法が使える)

・水魔法Lv.3(水魔法が使える)

・土魔法Lv.1(土魔法が使える)

・毒牙Lv.3(噛みつくことで毒を注入する)

・掘削Lv.3(硬い地盤も潜ることができる)

・駆け足(素早く走ることができる)

・濃霧(濃い霧を生み出すことができる)


《シークレットスキル》

・適応(スキルのデメリットを無効化する)

・魔法吸収Lv.4(Lv.4以下の魔法による攻撃を吸収する)


〔称号〕

・極めて優秀な実験個体(全ての能力値が1.5倍になる)

・エイルヴァーン大湿原の主(エイルヴァーン大湿原にいる間は、体力と魔力の回復速度が1.3倍になる)

――――――



 めっちゃ強いじゃねえか。

 アストラ=メーアで起きたスタンピードのボス、赤サイクロプスのステータスを大きく上回る。

 スライムと云えども、Aランクともなればまるで別物ということか。

 体力は大台の500に達するし、他の能力も軒並み400台。

 スキルも多彩ですごい。

 ……《軟体》ずるいのだが?

 俺のときはなかったじゃん。

 スライムの形態では習得も成長もできないであろう能力も確認できるので、おそらく《喰尽》スキルで魔物や人を喰らって奪い取ったのだと推測される。

 シークレットスキルの《魔法吸収》は、自分の成長によっては詰んでしまうだろう。

 水蛇を超える称号――〔極めて優秀な実験個体〕から、背景には人間の存在がチラついた。 これほど強力な魔物を生み出せるとしたら、大変に驚異的な組織だ。

 喰尽スライムはおどろおどろしい見た目も相まって、今までの魔物とはまた違った雰囲気を持つ。

 俺を抱き締めるリゼリアの力が徐々に強くなった。


「コーリちゃん、この魔物近くで見るともっと気持ち悪いよ。触っただけで変な病気になりそうだね」

「リゼリア、気をつけろ。こいつはLv.4以下の魔法を吸収するスキルを持っている。物理攻撃も《軟体》というスキルでダメージを吸収するらしい。水魔法もLv.3だ!」

「ゲッ、こいつ水魔法使えるの!? 魔法も物理攻撃も効かないなんて、ずるいっ! でも、私の火魔法で倒しちゃうんだから! とっておきのLv.5の魔法を使うよ……《紅蓮鳥の輪舞》!」

「おおっ、すごい熱気だ!」


 リゼリアが右手を上げると、全長7mほどの巨大な火の鳥が出現した。

 間髪入れず喰尽スライムに突進し、炎の渦に閉じ込める。

 

『グギィィィィィッ!』


 真っ赤な火柱の中で、喰尽スライムの苦しむ様子が見える。

 Lv.5の魔法だから、スキルでも吸収できないようだ。

 かなり高いステータスの敵なのに圧倒している。


「すごいぞ、リゼリア! さすが、火魔法の使い手だ!」

「えっへん、すごいでしょ? でも、この魔法は強いんだけど魔力の消費量が多いし、体がすぐに熱くなっちゃうの。オーバーヒートする前にコーリちゃんで冷却~……冷たくて気持ちいい~!」


 たしかに、リゼリアの身体は高熱が出ているかのように熱くなっていて、抱かれている俺のボディはぐんぐん溶けていく。

 ……うん、冷えたら少し離れてね、死んでしまうから。


「水魔法で打ち消されないよう魔力をしっかり込めなきゃ」

「だったら、俺の《回復氷》を食べてくれ。体力以外に魔力も回復できるから」

「ありがとー! コーリちゃんの氷飴大好き! ……う~ん、生き返る~!」


 リゼリアはガリガリと俺の氷飴を囓る。

 あとは燃え尽きるまでこのまま待つだけだね、と話したとき。

 突然、喰尽スライムの叫び声が轟いた。

 

『ギ……ギギギギイイイイイイイ!』


 その全身から大量の水が溢れ出て、火柱を相殺した。

 火を消すときのジュウウッ!という音が響き、熱い水蒸気が発生する。

 表面の大部分が焦げた喰尽スライムが現れ、リゼリアは切羽詰まった声を上げた。


「コーリちゃん、どうしよ! 《紅蓮鳥の輪舞》が打ち消されちゃった! 私の魔法の方がレベル高いのになんで!」

「きっと、相性の問題だ。レベルの差を魔法の相性で補ったんだろう……リゼリア、危ない! 《氷壁》!」


 リゼリアの背中に氷の壁を展開して、毒魔法の攻撃から守る。


「コーリちゃん、どうしたの? って、せっかく出してくれた綺麗な氷の壁が汚れてる……」

「気をつけろ、俺たちは喰尽スライムの分体に囲まれている」 

「えっ、分体? そんなのどこにも……どわあああああっ! なんかたくさんいるー!」


 俺たちの周囲には、分体がわらわらと溢れていた。

 どれも20cmほどの大きさだが、ざっと見ただけで十体はおり、リゼリアは驚きの声を上げる。


「ど、どこからこんなに出てきたの!? さっきまで一つもいなかったじゃん!」

「おそらく、火柱に包まれているときに身体の底から分体を生み出したんだ。分体も《掘削》スキルを持っているから、地面の中を移動できたんだよ。ほら、地面にたくさんの穴が空いているだろ?」

「たしかに……。コーリちゃんって、いつもすごい冷静だよね。私も見習わなきゃ……って、うぎゃああああっ、分体が何か飛ばしてきたー!」


 分体は距離を保ったまま毒液を発射する。

 毒魔法の一種だろう。

 それぞれの分体は小さいものの、小賢しいことに微妙な角度をつけて放っているので雨のように降ってくる。

 本体は初期位置でジッと動かないので、体力と魔力の回復に務めていると思われた。

 その証拠に、表面の焦げが少しずつ消えている。

 称号、〔エイルヴァーン大湿原の主〕により自動回復の速度が上昇しているのだ。

 俺は《氷壁》を全面に展開して分体の毒液を防御しつつ、リゼリアが火魔法で本体を再度狙う。


「これ以上は回復させないよ! 喰らえー、《紅蓮鳥の輪舞》!」


 再び巨大な火の鳥が出現し、喰尽スライムを襲う。

 今度も直撃するかと思いきや、喰尽スライムの周りの地面から土と水の壁が現れた。


『ギギギギギギーッ!』


 火の鳥は土と水の壁ごと壊して火柱となるが、先ほどより火の勢いも熱気も弱い。

 威力を殺されたのだ。

《紅蓮鳥の輪舞》自体の魔力消費量は変わっていないので、リゼリアの体温は急激に高くなる。


「コーリちゃん、お願い。また私を冷やして。こうなったら連続攻撃を……えっ!? どどど、どうしよう、コーリちゃんの身体が小っちゃくなっちゃった!」


 そう、リゼリアの体温を冷やしたり《回復氷》をたくさん生成したりしたので、俺のボディは今や半分ほどに小さくなっていた。

 一方、喰尽スライムの魔力はそれほど減っていない。

 土魔法はLv.1だし自動回復もあるからだろう。

 このまま火魔法の攻撃ではジリ貧の可能性がある。

 だから……。


「リゼリア、ありがとう。ここからは俺が戦うよ」

「そっか、コーリちゃんのめちゃつよ魔法なら倒せるよね!」

「いや、俺の《氷魔法》はまだLv.4だ。正面から戦っては吸収されてしまう。だけど大丈夫。俺に作戦がある……《氷冷大気》!」

「なにこれ涼し~い!」


 俺は周囲に魔力を放出し、空気を急激に冷やす。

 これはLv.3の氷魔法――《氷冷大気》。

 ただ単に、気温を氷点下以下に冷やすだけの魔法だ。

 攻撃にも防御にも使えないが、この場合は最適解と考えられる。

 ぐんぐん気温を提げると、まず異変は小さな分体に発生。

 続けて、本体も少しずつ異変に襲われ始めた。


『ギィッ!? ギギギッ……!』

「分体と本体が凍ってきたよ、コーリちゃん!」


 思った通り、喰尽スライムたちの身体が凍り始めた。

 俺はある程度の時間を氷スライム――要するにスライムとして生きてきて、その生態についていくつか学んだことがある。

 身体のほとんどは水分で構成される。

 それはつまり……。


「他の生き物より凍りやすいということだ」

『ギィッ……ギギギギ……ギッ……ギ……』


 喰尽スライムは本体も分体も芯まで氷漬けになり、動きを完全に止める。

 人間の心臓に当たる核が中心部分にあるので、そこまで冷やせばさすがに死んでしまう。

 戦いは俺たちの勝利で終わり、リゼリアは興奮した様子で俺を抱き締める。


「コーリちゃん、すごいよ! 喰尽スライムがカチコチになっちゃった~! でも、Lv.3の氷魔法だったのになんで効いたのかな。吸収されちゃうんじゃないの?」

「魔法を作用させたのは喰尽スライムじゃなくて、周りの空気だったからだよ。冷えた空気による体温低下は、魔法による攻撃ではないから吸収できないのさ。戦いの勝敗を決めるのは、スキルの強さやステータスの数字だけじゃないってことだな」

「カッコいい~!!」


 リゼリアと勝利のハイタッチを交わしたところで、モンセラートや騎士たちが駆け寄ってきた。

 本体が死んだことで、分体も崩れたそうだ。

 俺が氷漬けにした分体は凍っているので、状態は保たれていると考えられる。

 真っ先に、モンセラートが興奮冷めやらぬ様子で俺を労ってくれた。


「コーリ、よくやった! 喰尽スライムは物理でも魔法でも倒せない難敵だが、空気の冷却で凍らせるとは見事だ! これで大湿原は平和に大きく近づくことができる!」


 他の騎士たちも次から次へと俺を讃える。

 今回も目が血走ってて怖いのは内緒。


「主をも倒してしまうなんて、さすがAランク冒険者ですね! 俺たちじゃ詰んでました!」 

「コーリ様の戦いを横目で見ていたんですが、分体の攻撃もちゃんと防御してて隙がありませんでした!」

「冷静な判断に基づく戦い方を参考にさせていただきます!」


 騎士たちは戦いながら、横目で俺の戦闘をいつも観察してくれている。

 やはり、訓練されているから立ち回りに余裕があるのだろうか。

 わいわいと勝利の余韻を楽しんでいると、頭の中にピロンッと"あのアナウンス"が響いた。

〔進化が可能になりました〕


 ……進化きちゃぁ。

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