表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/22

第3話:氷、ドラゴン王女を救う

 ドラゴン娘の少女がいるなんて、さすが剣と魔法のファンタジーな世界だ。

 苦しそうに倒れているが呼吸は確認できる。

 うっ……とか呻く声も聞こえるし、どうやら生きてはいるようだ。

 ゴブリンが消し炭になっている様子から、さっきの火柱も少女が発動したのだろう。

 体調がめっちゃ悪そうだし、周りの木々は燃えているし、このままじゃ焼け死んでしまうかもしれない。


 助けに行こうと思ったとき、風に吹かれてすごい熱気が俺を包んだ。

 それだけで表面が薄らと溶けるのを感じる。

 少女の周りの木々は所々燃えているし、下に降りたら溶けちゃうかも……。

 予想以上の難関を目の当たりにして、心臓が締め付けられる気分となる。

 一方で、俺の決心は固まっていた。


 俺はさっき、氷たちと話せてとても気持ちが安らいだ。

 今の少女も心細いのではなかろうか。

 そう思うと、やはり助けないという選択肢はなかった。

 それに、助けたら有益な情報が手に入る可能性も無きにしも非ず!


 意を決して、俺は崖を転がり落ちた。

 上にいたときより何段階も熱さが増すぅぅぅ。

 すごい熱気だ。

 ゴブリンは無視して、迅速に少女の下へ向かう。

 熱病にかかっているかのように頬は赤く、身体全体が燃えているように熱い。

 とりあえず《鑑定》スキルを使ってみるが、ステータスなどは出てこなかった。

 やはり、まだレベルが足りないからだろう。


 まずは少女の熱を冷まさなければ。

 俺は氷だから、できることは一つしかない。

 額に乗っかった瞬間、ものすごい勢いで身体が溶け始めた。

 怖ええええっ!

 目を覚ますよう、懸命に少女に呼びかける!


「おいっ、大丈夫かっ! 目を覚ませっ! このままじゃ焼け死んでしまうぞっ!」


 何度か声をかけていると、少女の目――黄色の瞳が薄らと開いた。

 そのまま、ぼんやりとした表情で呟く。


「えっ……だ、誰……? すごく冷たくて気持ちいい……」


 少女の言葉はしっかり聞き取れ、意味もわかった。

 これも《人間模倣》スキルの効力だと思われる。


「俺は氷だ。意味がわからないと思うが、本当に氷なんだ。このままじゃ焼け死ぬと思って、とりあえず額に乗っかった」

「コ、コーリ? 誰か私の頭にいるの?」


 不意に、少女はゆっくりと起き上がった。

 お、落ちるっ……!っと思ったとき、俺を手で受け止めてくれた。

 額ほどじゃないが、手の体温もやたらと高い。

 少女はすっかり小さくなった俺を見ると、黄色の瞳がキラキラと輝いた。


「冷たくてすんごく綺麗! 宝石みたい! あなたが私を助けてくれたのね、ありがとう! おかげで熱が下がったよ! あなたが冷やしてくれなかったらきっと死んでた!」

「そうか、それならよかった」


 苦しそうな様子から一転して、少女は明るい声と表情で話す。

 宝石みたいとか言っていたし、氷を見たことがないのかな。

 頬の赤みも消えているし、すっかり元気になったらしい。

 よかった、と思ったところで、少女は笑顔で自己紹介した。


「私はリゼリア・フレイムハート、今年で14歳! 見ての通り、龍人族だよ! よろしくね、コーリちゃん!」


 リゼリアと名乗った少女は、俺の身体をツンツンとつつきながら言う。

 ふぅん、ドラゴンの人間――小説や漫画では亜人だっけ? は龍人族というのか。

 年は前世の俺よりだいぶ年下だった。

 どうやら、俺は氷=コーリとなったらしい。

 そのまんまだが、むしろ新しい氷生にはピッタリとも言える。

  

「よろしく、リゼリア。……それと、できればそろそろ降ろしてもらえるとありがたいのだが。ずっと触っていると溶けちゃうから」

「あっ、ごめん! コーリちゃん冷たくて気持ちいいから触っちゃってた!」


 リゼリアは慌てて俺を地面に置いてくれた。

 氷をずっと持ってると痛くなると思うけど平気らしい。

 龍人族は人間より体温が高いのだろうか。


「とりあえず、一旦ここから離れよう。木が燃えてて熱いし溶けちゃうかも」

「大丈夫、火は消せるよ。……《封熱》!」


 リゼリアの身体が赤く光ったかと思うと、周囲の火が彼女に吸収された!

 瞬く間に周囲が涼しくなる。

 おおっ、魔法だ!


「火を一瞬で吸収できるなんてすごいな、リゼリア。初めて他の人が使うところを見たよ。なんか感動する」

「ありがとー、コーリちゃん! 私の《封熱》は火を吸収できるの。でもね、火魔法を使うとその熱も身体に籠もっちゃって、すぐにオーバーヒートするのよ」

「なるほど……そのせいで倒れていたわけか」

「うん、そうなの。《封熱》があるから体温も人より高いんだよ。もう嫌んなっちゃう。あとね、私を助けてくれたコーリちゃんだから言うけど、このスキルのせいで私は龍人王国――フレイムハート王国を追放されちゃったの。王女なのに追い出すなんて酷いと思わない?」

「つ、追放!? それに王女だって!?」

 

 驚く俺に、リゼリアは事情を話してくれた。

 なんと彼女は龍人王国という龍人族の、第三王女とのこと!

 兄が四人、姉が二人いるそうなので、兄妹としては七番目の妹と言っていた。

 代々、フレイムハート王国の王族は強力な火魔法の使い手を輩出してきたが、リゼリアは自分だけに発現した《封熱》スキルのせいですぐにオーバーヒートしてしまう。

 結果、戦力にならない、ということで追放されてしまったらしい。

 ……という話を聞くと、自然と涙が零れ落ちてしまった。


「なんて……なんて辛い過去なんだ……」

「コーリちゃん、泣いてくれているの? 優しいわねぇ」

「こんな話、泣かずにはいられないだろぉ……」


 まさか、どこぞの小説や漫画でよく見た境遇にあったとは。

 年を取ると涙腺が緩くなってしまう。

 涙を流す俺に対し、リゼリアはニコニコと笑いながら話す。


「国にいると殺されちゃうかもしれないから、急いで人間さんの国に逃げてきたの。ここはたしか……ノヴァリス王国って言ったかな? 人間さんとはまだ会ったことがないけど……げほっ、げほっ!」

「お、おい、大丈夫か?」

「うん、ちょっと喉が渇いちゃって……。持ってる水も全部飲んじゃった……。ああ~、喉が張り付く感じがする~」


 リゼリアは、こほこほと咳込む。

 喉が渇いているのか……可哀想だ。

 そう思い、身体を差し出す。


「少しくらいなら囓ってもいいが……」

「ほんと!? ありがとう、コーリちゃん!」


 囓っていいと言ったら、リゼリアは間髪入れずガリガリと俺を噛み砕いた。


 ………………。


 痛えええええええっ!

 めっちゃ痛え!

 氷だから何も感じないかと思いきや、しっかり痛覚はありやがった。

 囓られるのすごく痛い。

 なんというかこう、ハンマーで剥き出しの骨を叩かれている感じ?

 とにかく大変に痛い。


「ちょ、ちょっと、タイム! 一旦止まってくれ!」

「ああっ、コーリちゃんが小っちゃくなっちゃった! なんで!?」

「……リゼリアが囓ったからだろうな」


 最初は直径30cmくらいあった透明ボディが、今や半分以下にまで小さくなってしまった。

 だんだんと命の危機が色濃くなる一方で、ステータスに大きな変化があった。


――――――

 名前:なし

 種族:氷

 性別:男

 レベル:2/5

 ランク:F

 体力:2/6

 魔力:4/4

 攻撃力:2

 防御力:6

 魔攻力:1

 魔防力:4

 素早さ:1


《種族スキル(種族に特有なもの)》

・氷語(氷と会話できる)

・給水Lv.1(水を吸収して体力を回復できる)


《ユニークスキル(個体に特有なもの)》

・人間模倣(人間の行動を模倣できる)

・鑑定Lv.1(魔物や物の鑑定ができる)


《シークレットスキル》

・氷族進化(氷属性の他種族に進化できる。囓られて人助けしたことで獲得)


〔称号〕

・転生者(種族スキルを継承できる)

――――――


 

 ななな、なんと!

《シークレットスキル》が獲得できた!

 しかも、欲しかった進化系のスキル!

《氷族進化》…………なんて美しくてワクワクする名前だ。

 進化形スキル獲得のためか、レベルのところにも分母が生まれていた。

 逆に言うと、リゼリアに会わなければ……そして彼女に囓られなければ、このスキルが獲得できることもなかったんだ。

 そう思うと、自然と感謝の言葉が出た。


「……ありがとう、リゼリアのおかげで新しいスキルをゲットできたみたいだ。レベルアップすると、別の種族に進化できるらしい」

「そうなの!? コーリちゃん、すごい!」

「いやいや、本当にリゼリアのおかげだから」

「コーリちゃんは身体が冷たくて羨ましいなぁ。私は《封熱》スキルのせいでいつも身体が熱くてね。どこか涼しいところで暮らしたいなって、ずっと思ってるの」

「へぇ、それはいい。俺も涼しいところで過ごしたいよ。なんかやたらと日差しも強いし気温も高いし」

「15年くらい前、世界中を巻き込んだとっても大きな戦争が起きたんだけど、そのせいで全世界の気温がすごく上がっちゃったの。だから、どこにいても暑いんだよ。涼しいのは、大陸の最北端にある大氷原だけ。氷属性の魔物も絶滅しちゃったくらいなんだから。コーリちゃんはすごいレアだね」

「な、ん……ですと……」


 リゼリアは衝撃的な話をする。

 ちょっと待って……この世界、気温高いの?

 地球温暖化的な?

 氷属性の魔物が絶滅するくらいってヤバすぎる。

 ……ねぇ、なんでそんなに氷を虐めるんだい?

 世界全体がハードモードなことにやるせない思いとなるものの、更なる目標が決まった。


「決めたよ、リゼリア。俺、大氷原を目指す!」

「おおっ、カッコいい、コーリちゃん!」


 気温が高いのならば北に行くしかないだろう。

 それに大氷原はまだしも、その近くにある北方の街や森でスローライフするのもいいじゃないか。

 新しい目標にワクワクしていると、リゼリアがおずおずと俺に頼んだ。


「コーリちゃん、私も一緒に行っていい? 一人じゃ心細いけど、コーリちゃんがいたら絶対にたどり着けるよ。涼しいところでコーリちゃんと暮らしたいな」


 リゼリアは緊張した面持ちで話す。

 了承されるか不安に思っているようだ。

 そんなの答えは一つしかない。


「ああ、一緒に行こう! 俺もリゼリアと旅したいよ!」

「いっえーい、そうこなくっちゃ! コーリちゃん、大好き!」

「こ、こらっ、離れなさいっ。溶けちゃうからっ」


 抱きつこうとするリゼリアから急いで逃げる。

 何はともあれ、暑がりドラゴン王女との異世界二人旅が幕を開けた。



 □□□



 そして、このときの俺たちはまだ知らなかった。

 目指す大氷原には豊富な地下資源が埋まっており、人間、亜人、巨大な軍事帝国に魔導聖国……はたまた魔族まで狙っている、世界で一番"激熱"な場所だということを……。

お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます


【読者の皆様へ、青空あかなからのお願いでございます】


少しでも面白いと思っていただけたら、ぜひ評価とブックマークをお願いします!

評価は下にある【☆☆☆☆☆】をタップorクリックするだけでできます。

★は最大で5つまで、10ポイントまで応援いただけます!

ブックマークもポチッと押せば超簡単にできます。


どうぞ応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ