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第29話:氷ミミック、異常魔物の主と会敵する

「……じゃあ、こいつも収納しよう。《収納》!」


《収納》スキルを使い、異常魔物――沼蛙たちの死体を亜空間に仕舞う。

 全長60cmくらいの大きな蛙で、ランクはC。

 収納が終わると、リゼリアとモンセラートが褒めてくれた。


「コーリちゃん、大活躍だね。いつも一撃で倒しちゃうし、遠くにいる異常魔物だって、逃げる前に《誘因氷》で引き寄せてくれるし」

「近距離も遠距離も強いとは理想的な魔物……いや、騎士だな。王国騎士団はお前を歓迎する」


 2人と同じように、周りの騎士たちも俺を労ってくれる。

 これで倒した敵は6種類目、個体の数としては28体目だった。


 大湿原の旅を続けて、2日が過ぎた。

 相変わらず、異常魔物を索敵しながら北に向かう旅路を辿っている。

 どの個体も《凶暴化》と《短命》のユニークスキル、名前のサンプル○○、そして〔失敗作〕という称号を共通とする。


 ――誰かが魔物を使って、何かしらの実験をしている。


 湿原ワームと対峙したときに抱いた疑念は、もう確信に変わりつつあった。

 同時に、俺とリゼリアは"例の件"とも何かしらの関係があると考えている。

 身体に紫色の斑点が浮かび、村人たちが苦しんでいた事実……。

 俺とリゼリアは、前方を歩くモンセラートにネリファ村での出来事――"紫斑病"の流行について話すことにした。


「モンセラート、話しておきたいことがある。数週間ほど前、ベル=グリナスの街近くにあるネリファ村という村で、異常魔物と同じ紫色の斑点模様が浮かぶ病気が流行していたんだ」

「みんな熱があってゼイゼイしてた! すごく苦しくそうで、コーリちゃんが病気を治してくれなかったら死んじゃってたかも!」

「……ふむ、詳しく話してくれ」


 モンセラートは厳しい表情で答え、周りの騎士たちも真剣な顔となる。

 俺とリゼリアはさらに説明を続けた。


「病気を流行させたのは悪い薬師たちで、"黒葬の翼"という組織の一員だと話していた。病気の名前は"紫呪病"。組織に命じられ開発していたそうだ。彼らは下っ端で、組織の所在やボスに関する情報は持っていなかった」

「悪い薬師はコーリちゃんに倒された後、王国騎士団に引き渡されたはずだよ。なんかすごく悪い人たちなんだってね? モンセラートは何か聞いていない?」

「ああ、"黒葬の翼"は王国が定める特指定危険勢力のSランク団体だ。ネリファ村の事件については、今初めて知った。私たちは1ヶ月ほど前から大湿原の遠征任務に当たっているから、外の情報が入ってこないのだ。まさか、連中がそんな病気を起こす薬を開発しているとは……」


 モンセラートや騎士たちを包む空気は重い。

 中には善良な村人を苦しめた悪い薬師――イオニスたちに強い怒りを滲ませる者もいた。

 彼女たちに話を聞いたところ、やはり"黒葬の翼"は相当に規模の大きい組織のようだ。

 そこまで話したところで、俺は兼ねてから考えていた結論を伝える。


「悪い薬師たちは、病気の素を井戸に入れて"紫呪病"を起こした。異常魔物の症状も"紫呪病"だと考えると、"黒葬の翼"が大湿原に棲む魔物に投与しているのかもしれない。病気の開発や魔物への投与や管理は、ある程度の規模がないと難しいだろうし」

「ああ、私もコーリの意見を支持する。Sランクに指定されるほどの団体は、"黒葬の翼"しかない。他の組織では病気の開発すらできないだろう」


 モンセラートの話を聞き、俺は思考を重ねる。

 考えれば考えるほど、俺の仮説が裏付けされるようだった。


「……なるほど。だとしたら、もう一つ結論が導き出せる。一度情報を整理しよう。①"ベドー霧森"の洞窟で戦った水蛇の称号は〔優秀な実験個体〕、②この大湿原にいる異常魔物たちの称号は〔失敗作〕、③異常魔物となった魔物は通常の個体よりステータスが高い…。これらの情報から考えると、おそらく"黒葬の翼"は魔物の強化実験をしている。"紫呪病"の素を投与すると、人間は病気になって魔物はパワーアップするんだ」

「……十分に考えられるな」


 モンセラートは険しい顔で賛同し、騎士たちは今や緊張した様子でざわめいている。

 俺が最初に遭遇した異常魔物は、"ベドー霧森"にいた水蛇だ。

 このエイルヴァーン大湿原で他の異常魔物と遭遇しなければ、この結論には至らなかったかも……いや、待て。


「もしかして、"ベドー霧森"かアストラ=メーアには、水蛇を異常魔物にした人間――"黒葬の翼"の構成員がいたってことか?」

「たしかに! コーリちゃんの言うとおりかも! ……ん~? ということは、あの水蛇はずっと洞窟に棲んでいたのかな?」

「可能性としては、①何者かが洞窟で水蛇を異常魔物とした、②すでに異常魔物となった水蛇が洞窟に迷い込んだ……という2つがある。ただ、〔優秀な実験個体〕を組織が手放すとは思えないから、前者だと俺は思う」

「コーリちゃん、頭良いね~。やっぱり名探偵だよ」


 あくまで可能性ではあるが、無視はできない。

 アストラ=メーアのマリステラや住民に注意を促すため、大湿原を抜けたら手紙を送ろうと決まったとき。

 不意、に周囲を濃い霧が包み始めた。

 あっという間に辺り一面は白くなり視界が遮断されると、騎士たちの慌てた声が響き始めた。 


「うぐっ……! な、なんだ!? 足が……動かねえ! 痛っ!」

「た、隊長、気をつけてください! 何かいます!」


 声は前方を中心に、陣形の外縁から聞こえる。

 外側にいる兵士が襲撃を受けているのだ。

 モンセラートが剣を引き抜いて号令をかける。


「総員戦闘態勢! 魔物の襲撃と考えられる! 霧で視界不良だが、全天候型訓練を思い出せ!」

「霧は私に任せて! 火魔法で一気に蒸発させるから……《火の波動》!」


 リゼリアの身体から、火属性の魔力が波動となって放たれた。

 たちまち霧は晴れ、俺たちの状況が明らかとなる。

 騎士たちの足下には紫色の斑点模様が浮かぶ小さな緑スライムがしがみつき、足の鎧を溶かしていた。

 溶解による白い蒸気が漂う中、奥には緑色のとても大きな水たまりが見える。

 これも表面に紫色の斑点模様が浮かぶ。

 なんだ? と思う間もなく水たまりは盛り上がり、全長10mはある巨大なスライムに姿を変えた。

 たちまち、モンセラートの険しい声が周囲に響く。


「気をつけろ、みんな! こいつが異常魔物の主、Aランク魔物の喰尽スライムだ!」

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