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第28話:氷ミミック、異常魔物の群れを撃退し、みんなと野営する

「……全員、プランBの陣形を取れ! 防御を最優先! カウンターを狙い、消耗と怪我のリスクを最大限に抑えろ!」

「「了解!」」


 モンセラートの厳しい声が響き、俺とリゼリア、そして騎士達はそれぞれの敵と対峙する。 大湿原を進んでしばらく。

 俺たち一行は地面から出現した異常魔物――Bランク魔物湿原ワームの群れに遭遇した。

 巨大なミミズのような図体で、頭部分はたくさんの牙が生えた口を成している。

 モンゴリアン・デスワームが大きくなった感じ。

 体色は濃い青緑色で、表面に浮かぶ紫色の斑点が異常魔物であることを不気味に示した。

 湿原ワームは全部で七体おり、俺たちを囲むように地面から顔を出している。

 気色悪い見た目も相まってか、リゼリアは心底嫌そうな声を上げる。


「コーリちゃん、この魔物ヤダ! 気持ち悪い!」

「ああ、まずは《鑑定》でステータスを調べてみるよ!」


 騎士はみな小さな集団を作って剣と盾を構えているためか、湿原ワームは警戒している。

 この隙に、俺は目の前にいる一番大きな個体に照準を合わせる……《鑑定》!



――――――

 名前:サンプル27

 種族:湿原ワーム(変異種)

 性別:雌雄同体

 レベル:38/40

 ランク:B

 体力:52/110

 魔力:67/80

 攻撃力:115

 防御力:120

 魔攻力:60

 魔防力:70

 素早さ:118


《種族スキル(種族に特有なもの)》

・湿原ワーム語(湿原ワームの言葉がわかる)

・毒牙Lv.4(噛みつくことで毒を注入する)

・毒魔法Lv.2(毒属性の魔法を使える)

・掘削Lv.3(硬い地盤も潜ることができる)


《ユニークスキル(個体に特有なもの)》

・凶暴化【小】(知能が落ちる代わりに、全てのステータスが1.1倍に上昇する)

・短命(常にHPが減り続ける)


《シークレットスキル》


〔称号〕

・失敗作(全ての能力値が0.8倍になる)

――――――

 


 "ベドー霧森"で戦った水蛇と同じ、変異種という名称がついていた。

 こいつもユニークスキルに《凶暴化》と《短命》がある。

 レベルはほぼカンストで、スキルは多彩で毒に注意が必要か。

 そして、称号は〔失敗作〕……。

 迅速に他の個体にも《鑑定》をかけ、要点だけモンセラートたちに伝える。


「情報助かる、コーリ! みなの者、毒に注意して攻撃しろ!」

「「はっ!」」


 騎士たちは勢いよく応え、俺とリゼリアも攻撃を開始する。


「コーリちゃんと同じくらい私も強くなるんだから……《火焔弾》!」


 リゼリアが伸ばした右の手の平から、大粒の魔力弾が放たれる。

 湿原ワームの頭を狙った、空に向かう射線だ。

 大湿原の草木は湿っているものの、彼女の火力はとても高い。

 貴重な自然保護区で火事が起きないように配慮して戦っているのだ。

《火焔弾》は直撃したかと思ったが、数発当たった瞬間に湿原ワームは地中に戻ってしまった。

 魔法の威力が高いことにすぐ気づいたらしい。

 高いステータスに違わぬ素早さだ。


「コーリちゃん、魔物が逃げちゃった、どうしよう!」

「大丈夫。《凶暴化》している以上、逃げることはないはずだ。リゼリア、俺に作戦がある。俺を抱えたまま、思いっきりジャンプしてくれ」

「わかった!」


 リゼリアは俺を抱いたまま、空高くジャンプする。

 これまでの旅の経験から、魔物は自分の得意なスキルや魔法、立ち回りで戦う傾向にあることがわかった。

 人間同士のバトルでも互いに自分の得意な武器や魔法で戦うことが多いので、別に不思議ではない。

 苦手な武器で戦場に行くヤツなんてどこにもいないだろう。

 湿原ワームの攻撃系スキルは《毒牙》と《毒魔法》。

 レベルが上のは《毒牙》なので、こちらの方が練度が高い……つまりよく使ってきた可能性が高い。

 さらにはLv.3の《掘削》スキルを兼ね揃えており、俺とリゼリアは逃げ場のない空中にいる。

 思った通り、湿原ワームは真下の地面から勢いよく現れた。


「残念ながら、その攻撃は予想していた……《大氷柱》!」

『グギャアアアアッ!』


 巨大な氷柱を生み出し、大きく開けた口に叩き込む。

 断末魔の叫びが響き渡ると、湿原ワームはぐたりと絶命した。

 周りの騎士たちの戦闘も終息しており、辺りには大湿原の静けさが徐々に舞い戻る。

 地面に降り立ったリゼリアは嬉しそうに俺を掲げた。


「「討伐完了!」」


 氷ミミックの身体ではハイタッチできないから、このような勝利宣言に落ち着いた。

 モンセラートは新手が来ないか警戒した後、俺の近くに駆け寄る。

 

「コーリ、見事な戦いだったな。氷魔法の練度はずいぶんと高いし、何より立ち回りが

素晴らしかった。一番大型の個体を倒してしまうとは……。やはり、私の目は間違っていなかったようだ。もちろん、リゼリアも強かった。二人がいなかったら、かなり苦戦していたと容易に想像される」

「ね! コーリちゃんはすごいでしょ? 強くて冷たくて綺麗な魔法なの!」

「騎士のみんなも緊密な連携がすごかったよ。日頃の訓練の密度を感じた……うわっ!」


 そこまで話したところで、騎士たちが高速で俺の周りに集まった。


「Aランク冒険者に褒めていただけるなんて、この上ない光栄です!」

「コーリ様こそすごかったですよ! 目の端で見ることしかできませんでしたがね! ああ、もっとよくあなたの戦いを見たかった!」

「氷魔法ってあんなに強いんですね! 強さだけじゃなくて美しさも兼ね揃えた素晴らしい魔法でした!」


 騎士たちはみな、興奮のためか目が血走っている。

 ちょっと怖いのは内緒。

 俺が褒められるたび、なぜかリゼリアが一番誇らしげになるのであった。

 戦闘は終わったが、まだ湿原ワームの死体の処理がある。

 調査のため、モンセラートは王国騎士団の本部に持ち帰りたいそうだ。

 俺は諸々の鑑定結果を彼女に伝える。

 

「一番大きな個体にはサンプル21、という名前がついていた。アストラ=メーアの"ベドー霧森"で戦った水蛇は42だ。これは俺の推測でしかないが、何かの実験……それも人工的な実験に使われた魔物かもしれない」

「ああ、私も同感だ。そんな人間がいるとは考えたくないが、視野に入れておく必要はある。他に"サンプル"という名前がついた個体はあったか?」

「いや、一体もないよ。だから、サンプル21の個体から繁殖したか、感染した可能性があるかも」

「ふむ、十分に考えられるな。騎士団の本部に持ち帰り、詳しい検査をしてもらおう。……お前たち、湿原ワームの死体を斬って保管してくれ。毒に気をつけろ」


 モンセラートは騎士たちに指示を出すが、彼らが死体を斬ることはしなくて大丈夫。


「それなら、俺のスキルで収納するよ。その方が安全だし……《収納》!」

 

《収納》スキルを発動し、湿原ワームの死体を全部仕舞う。

 亜空間は上限がないし時の流れも止まるので、分析に支障をきたすことはないだろう。

 全ての死体を仕舞い終わると、周りの騎士たちは歓声を上げた。

 モンセラートはひゅうっと口笛を吹きながら話す。


「そうか、ミミックのお前は《収納》スキルも使えるのだな。初めて見たが鮮やかな光景だった。本当に助かるよ、コーリ。異常魔物にはどんな危険性があるかわからんから、安全に運んでくれてありがたい」

「いやいや、別に大したことではないよ」


 俺たちは探索を開始し北に向かう。

 いつの間にか空はオレンジ色になっており、夜の訪れを知らせていた。


「コーリちゃん、夕焼けが綺麗だよ。お空が真っ赤」

「ほんとだ。空が高くて美しいな」


 周囲に高い建物がなく自然ばかりなこともあるためか、前世でたくさん見た夕焼けのどれよりも雄大な美しさを感じる。

 やがてモンセラートが集合をかけ、俺とリゼリアは他の騎士と一緒に集まった。


「……みんな、異常魔物の討伐ご苦労だった。コーリとリゼリアにも改めて感謝する。お前たちのおかげで、怪我もなく戦うことができた。さて、今日の掃討作戦はここまでとする。夕暮れだ。魔物が活発化する夜に備え、今から野営を設営する。通常の分担に沿って準備を進めろ」

「「はっ!」」


 騎士たちは力強く応え、地盤の状態を確かめたり、テントを張ったり、火を起こしたり……と手際よく作業を開始する。

 日頃の訓練が垣間見え、俺とリゼリアは思わず感嘆とした。


「モンセラート、俺たちも何か手伝うよ。見てるだけじゃ悪いし」

「うん、コーリちゃんの言うとおり。私も野宿の経験は何度かあるからお手伝いできるよ」

「うむ、ありがとう。だが、二人は何もしなくていい。こちらが同行を頼んだわけだし、日中の活躍を考えたら手伝いなどさせるわけにはいかない。代わりと言ってはなんだが、騎士団流の野営の注意点を教えておこう。今後、お前たちの旅に役立つかもしれない」

「「やったー!」」


 俺とリゼリアは両手を挙げて喜ぶ。

 実際、この申し出はとてもありがたい!

 俺たちの旅は野営が多いだろうから、本場の技術が学べるなんて貴重な機会だ。

 モンセラートは準備する騎士たちの近くに行きながら、詳しく解説してくれる。


「まず一番重要なのは野営地の選定だ。まだ明るいうちに周囲をよく調べ、ぬかるみや崖、近くに川があるといった夜間に危険な地形を避けた場所を選ぶ。テントは張るが、風雨を防げると尚よし。草木が踏みならされた道は獣道の可能性もあるので、離れた場所に設置するのが無難だ。万が一に備え、退路も確保しておきたい」

「「ふむふむ」」


 たしかに、今のテントは森の中に設営されているが、東側には何もない草原が広がっていおり、森から魔物の群れなどに襲撃された場合は草原に逃げることができ、逆の場合は森に隠れることができる。 

 続けて、モンセラートは手際よく枯れ枝を一カ所に集める。


「次に、明かりの準備をする。手持ちのランタンがあればそれを使う。なければ枯れ枝や枯れ葉を集める必要がある。これも暗くなってからでは難しい作業だ。焚き火は明かりと暖の両方を確保できる上、食事の準備にも使える。よって、火起こしは野営では必須の技術となる。火魔法が使えないのなら火打ち石がよい。ここにちょうどあるので実演してみよう」

「モンセラート、ちょっと待って! 私やってみたい!」


 とのことで、リゼリアは火打ち石を受け取る。

 カッカッと石同士をぶつけると、焚き付けの枯れ枝に火がついた。

 彼女はとても満足げな表情。

 うまくできてよかったね。

 モンセラートは簡易的な松明を作ると、食事を作っている場所に俺とリゼリアを連れて行った。


「同時に、食事の用意も平行する。我々の定番は煮込みスープだ。調理が簡単だし食材を無駄にすることもないからだ。携帯食は保存のため、乾燥された食材が多い。干し肉は火で炙ると食感が柔らかくなり、硬いビスケットはスープに浸して食べる。食せる魔物が手に入ったときは、メニューがその分豪華になる。事前に、棲息する魔物の知識を習得しておくといい」

「「ほぇ~」」

「野草や茸に関しては、知識に自信がなければ手を出すな。毒性があった場合、最悪死に至ることもある」

「「恐ろしや」」


 俺は《回復氷》のスキルも持ってはいるが、毒なんて食べないのが一番だろう。

 リゼリアにも苦しい思いはしてほしくない。

 モンセラートの説明は続く。


「現在の気候条件ではあまり気にしなくていいが、登山などでは防寒の備えも重要となってくる。気温が急激に下がる前に服装を整えるのが重要だ。あとは防虫対策にも気を配れ。虫の中にも強力な毒を持つ種族がいるし油断はできない」

「「なるほど」」

「最後、明日以降の行動計画を確認する。このような野営任務では、自然現象などの影響により事前の予定通りに進まない方が多い。逐一修正を行い、現時点でのベストな計画を練ることが肝要だ」


 それで説明は終わり、俺とリゼリアは感謝する。


「ありがとう、モンセラート。おかげで、野営の基礎をしっかり学べたよ」

「今までよりずっとしっかり準備できそう! 見よう見真似でやってたから、ちょっと不安だったの」

「そうか、二人の役に立てたのなら私もよかった。さて、そろそろ食事の用意が終わったようだ。我々も夕食といこう」

「「はーい!」」


 騎士たちも集まってきて、それぞれに食事が配給される。

 食事の匂いに釣られて魔物がやってくる場合もあるので、周囲には見張りの騎士が展開していた。

 今日のメニューは、干し肉と乾燥豆のスープに乾パン。

 燻製のチーズも少しついていて、野営でありながらなかなかに豪華なメニューだった。

 全員に行き渡ったところで、モンセラートが木の盃を掲げる。

 飲み物はまだ任務中だから湯冷ましだ。


「では、今日も無事に恵みを享受できることに感謝しよう。命の賜りに感謝を!」

「「命の賜りに感謝を!」」


 この世界……というかこの国における"いただきます"の挨拶を言うと、盃がぶつかり合って食事が始まる。

 たちまち、騎士たちの顔には微笑みが浮かんだ。

 昼間戦っているときとはまったく違う雰囲気だ。

 やはり、食事は人々の心を解すのだろう。

 俺とリゼリアもスープを食べる……。


「「おいし~い!」」


 干し肉はちょうどいい具合に柔らかくなっていて、滲み出た塩分がスープに適度な味をつける。

 豆は固めの食感が歯ごたえあって癖になる。

 乾パンは素朴な味が単体で食べても美味だし、スープと一緒に食べたらさらに美味。

 食事を楽しんでいたら、騎士たちが日中の戦いを褒めてくれた。


「それにしても、コーリ様はさすがの戦闘力でしたね! 湿原ワームは結構な強敵なのに一撃でした!」

「この旅で何回の氷魔法が見られるか、今からとても楽しみです!」

「ぜひ、騎士団への入団を検討してくださいよ! 即戦力は間違いありません!」

 

 明日もよろしくお願いしますと言われ、身が引き締まる。

 いつしか食事も終わり、焚き火の火が弱くなった。

 就寝の準備を手伝う中、ふと空を見ると藍色の世界に白い星々が宝石のように瞬いていた。 満天の星を見て、傍らのリゼリアの目も星と同じように煌めく。


「コーリちゃん、お星様が綺麗だねぇ。こんなにたくさん見たの、この国に来て初めてかも」

「ああ、ほんとに綺麗だな。俺だって、ここまで雄大な星空を見たのは初めてだよ」


 夜の見張りは騎士たちが交代で担当してくれるとのことで、俺とリゼリアはお言葉に甘えて寝させてもらう。

 一番広いテントで恐縮なのだが、モンセラートに是非ここで寝てくれと頼まれた。


「おやすみ、コーリちゃん。明日も頑張ろうね」

「うん、おやすみ」


 リゼリアに抱かれながら眠り、俺は夢の世界に落ちていく。

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