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第23話:氷ミミック、スタンピードを終息させ街の危機を救い、皆から感謝される

「……では、明日もあることだし、そろそろお開きにしようじゃないか。最後にコーリ君を讃えて宴は終了としよう」

「「我らがコーリに栄えあれ!」」


 マリステラさんの一声で、ギルドの中に俺を讃える言葉が響く。

 時刻はちょうど宵の口。

 太陽はすっかり落ちて、空の下の方に僅かに赤みを残すだけ。

 空のほとんどを占める深い青色とのコントラストがとても美しい。

 街には外灯が灯り、夜の訪れを静かに告げていた。

 みんなで片付けをする中、なぜか息の荒いマリステラさんが俺の隣に来る。


「コーリ君、君のおかげで非常に有意義な時間が過ごせた。本当にありがとう。ところで、もう一度だけでいいから研究させてくれないだろうか。ボクはそれなりに魔物学の歴が長いけど、進化する魔物なんて初めて見た。身体の隅々まで調べさせてもらわないと気が済まないんだ」

「だから、コーリちゃんは私のだよっ。許可なく研究なんてダメッ。許可してもダメッ。さっきたくさん調べたでしょっ」


 何か言う前に、リゼリアが俺を抱きかかえてマリステラさんから遠ざける。

 すると、今度は瞳を輝かせたアニカがいた。


「なぁ、コーリっち。今夜はウチの宿で泊まらん? 朝までガチトークして、コーリっちのこともっと知りたいんよ」

「ダメダメダメ~! コーリちゃんは毎日私と一緒に寝るの! 他の人と寝るなんてダメッ!」


 またもや何か言う前に、リゼリアが強い拒絶の意志を示したとき。

 不意に、外から騒ぎ声が聞こえてきた。

 窓を見ると……街中に大量の魔物が溢れ、人々が襲われている!


「大変だ、リゼリア! 魔物がいるぞ!」

「急いで窓開けるね!」


 俺とリゼリアが窓に駆け寄って勢いよく開け放つと、よりはっきりした叫び声や建物などが破壊される音が聞こえてきた。

 夜なのに昼間のように明るい光景が、異常事態であることを強調した。

 急いで飛び出して魔物を蹴散らし、ギルド前の住民たちを助ける。

 

「「こ、氷ミミック!? お願い、見逃して……!」」

「落ち着いてくれ! 俺は魔物だけど、みんなの味方だ!」

「コーリちゃんは良い魔物なの! だから、大丈夫!」

「「ありがとう! 恩に着るわ」」


 住民たちは魔物の俺を見て驚いていたが、すぐに逃げてくれた。

 気がつくとマリステラさんがいつの間にか隣にいて、呆然とした様子で呟く。


「これはまさか……【魔物封印の書】が解放された? 防御魔法を専門とする魔導師に結界を頼んだのに……!」

「どういうことですか、マリステラさん!?」


 慌てて尋ねると、彼女は端的に説明してくれた。

 ノヴァリス魔法大学には調査のため、街一つ潰した過去のスタンピードを封じた本が搬入された。

 封印はいつ解けてもおかしくなく、何者かが本を破壊した可能性が高いとのことだった。


「魔物は俺とリゼリアで倒すので、マリステラさんは避難誘導を頼みます!」

「承知した! 我らが学生も援護に当たらせる!」


 マリステラさんは大学から離れるよう住民に指示を出し、学生には誘導の援助や魔物の討伐を命じる。

 学生はすぐに攻撃を始めるが、周囲から聞こえるのは苦戦の声ばかりだった。


「お、おい、こいつら強いぞ! クエストで討伐する連中とは違う!」

「……ダメッ、数が多すぎます! 魔法発動の隙を狙ってくるわ!」

「クソッ、建物の被害も最小限に抑えろ! 住民も助けるんだ!」


 魔物の数が相当に多いためか、学生は苦しそうだ。

 それなら……!

 俺は新しい氷魔法を発動させる。


「《誘引氷》! これでこの街の魔物を全て俺に集める!」

「コーリちゃんが光ってる~!」

 

 リゼリアが叫ぶように、俺の全身が光り輝く。

 魔物を引き寄せる氷魔法だ。

 街に広まった魔物を集め、被害を抑える。

 効果はすぐに現れ、地上及び上空からたくさんの魔物が集まった。

 すかさず、ざっと鑑定をかける。

 堅牢な岩で構成された岩石ガーゴイルや、状態異常魔法を駆使するマジックゾンビ、猛烈な突進に優れたストライクボアなどなど……。

 BランクやCランクが主体で、とにかくすごい数だ。


「大変よ、コーリちゃん! 魔物がいっぱい来ちゃった!」

「大丈夫だ。敵が一カ所に集まっているのなら、広範囲攻撃で一気に殲滅できる! ……《氷雨の嵐》!」

『『グギャアアアッ!』』


 鋭く太い氷の杭を降らせ、上空の魔物も地上の魔物もまとめて攻撃する。

 こいつはLv.3の氷魔法。

 150超えの魔攻力もあってか、攻撃範囲の全ての魔物を串刺しにする。

 さらに新手の魔物が誘因されて来ると、リゼリアが駆け出した。


「毎回、コーリちゃんばっかり戦わせるわけにはいかないんだから! ……《炎の乱舞》!」


 リゼリアは炎の鞭を生み出し、アクロバティックな動きで魔物の群れを切り裂く。

 "龍人族"の身体能力も相まって、ダンスを見ているような非常に美しい攻撃だった。

 氷魔法と火魔法が炸裂し、わずか数分も経たぬうちに全ての魔物を倒してしまった。

 魔物が倒された光景を見て、マリステラさんとアニカが学生と一緒に駆け寄ってくる。


「こんな大量の魔物を倒すなんてすごすぎるよ、コーリ君! 街が壊滅してもおかしくなかった! 君はアストラ=メーアの救世主だ!」

「もはや、コーリっち、ガチ神やん! 尊すぎてマジ涙止まらんって~!」


 周りの学生や、逃げていた住民たちも一緒になって歓喜する。

 これでスタンピードは終息したかと思ったとき。

 街の一角から、サイクロプスっぽい大きな人型魔物が飛んできた。

 濃い赤色の身体は5mほどもあり、血走った一つ目で俺たちを睨みつける。


『グルァァァアアッ!』


 激しい咆哮が轟き、一転して街は混乱と緊張に包まれた。

 突然現れた赤いサイクロプスを見て、傍らのマリステラさんとアニカは悲鳴に近い声を上げる。


「コ、コーリ君、やばいよ! こいつは赤サイクロプスのアルゴノス! "名有り"の魔物だ! 【魔物封印の書】に封じられた魔物の中で、一番強く危険だといくつもの文献に記録がある! たった一体で大都市の守備隊を壊滅させたんだ!」

「逃げよ、コーリっち! オーラぱないって! マジのガチ魔物めっちゃヤバい!」


 "名有り"の魔物……?

 二人や学生たちの反応から、相当に強い魔物だと容易に推測される。

 だが、どんな敵だろうと関係ない。

 街や大切な人たちを守るため戦うだけだ……! と思ったとき。

 俺たち全員の視線が、赤サイクロプスの右手に注がれた。

 橙色の髪をした男が捕まっている。

 あいつは……。

 

「「ダリオス!?」」


 なんと、右手の中にいるのはダリオスだった。

 今にも握れ潰されそうで、ミシミシと骨が軋む音がここまで聞こえる。

 耐えかねたように、ダリオスは苦しげな声を上げた。


「おい、お前ら! 俺を助けろ! カザール伯爵家の跡取り息子だぞ! お前らなんかよりずっと価値のある人間だ……ぐっ…ああああっ!」


 横暴な人間ではあるが、見捨ててしまうのはさすがによくないだろう。

 ふと気づいたが、ダリオスの身体には紫色の禍々しい魔力が纏わりついている。

 赤サイクロプスの魔法かと思った瞬間、マリステラさんが険しい表情で叫んだ。


「あれはボクが【魔物封印の書】に施した"保険"だ! 万が一にでも何者かが書物を破壊した場合、その者を特定できるように! まさかとは思っていたが……ダリオス! やっぱり、君が書物を破壊したんだね!?」


 マリステラさんの指摘を受け、ダリオスの表情がサッと青ざめる。

 なるほど、そういうことだったのか。

 だったら、罪を償わせるためにも、なおさらダリオスは助けなければならない。

 俺は全身に魔力を巡らす。


「《氷刃撃》!」

『ギャアアアアッ!』


 氷の鋭い刃を飛ばし、赤サイクロプスの右手首を切断した。

 落下したダリオスは四つん這いになり、猛スピードで俺たちの方に逃げてくる。


「よくやった、コーリ野郎! さあ、あいつをぶっ倒せ! 今から俺の僕にしてやる……ぐああああっ!」

「「調子に乗るな、愚か者が!」」

 

 ダリオスは瞬く間に学生たちに魔法で拘束され、地面に叩きつけられた。

 赤サイクロプスは絶好の好機だというのに、なぜか攻撃する素振りもない。

 だが、すぐにその理由がわかった。


『グルァァァアッッ!』


 激しい雄叫びとともに、右手首の切断面から不気味な肉塊が生まれ出て、元通りの手にと姿を変える。

 歪な光景に、学生たちと同じようにリゼリアも驚きの声を上げた。


「コーリちゃん、大変! 腕が治っちゃった! せっかく斬ったのに! 今までの魔物にこんな強い奴いなかったよ!」

「大丈夫。たぶん、スキルの力だ。対策はある」


 斬られた腕が再生するなんて、さすがはスタンピードのボスってわけか……鑑定!



――――――

 名前:アルゴノス

 種族:赤サイクロプス

 性別:オス

 レベル:48/60

 ランク:A-

 体力:172/180

 魔力:42/90

 攻撃力:279

 防御力:255

 魔攻力:75

 魔防力:140

 素早さ:120


《種族スキル(種族に特有なもの)》

・赤サイクロプス語(赤サイクロプス系の言葉がわかる)

・怪力(攻撃力が20%上昇する)

・身体強化魔法(身体を強化する魔法が使える)


《ユニークスキル(個体に特有なもの)》

・筋肉の鎧(防御力が25%上昇する)

・武器生成Lv.1(魔力を様々な武器にできる)


《シークレットスキル》

・再生LV.2(魔力を大量に消費して、自分の身体を再生できる)


〔称号〕

・名有り(固有名称が付与される)

・破壊神(攻撃力が1.5倍になり、クリティカルヒット率が常に40%上昇する)

――――――



 ランクはA-ということもあるためか、先ほど倒した魔物たちより何段階もステータスが高い。

 おまけに、強力な称号とユニークスキル持ち。

 だが、相手が誰だろうと関係ない。


「大切な仲間とみんなは……俺が守る!」


《誘因氷》はまだ発動中だ。

 必ず俺に攻撃してくる。

 赤サイクロプスの右手から魔力が迸ると、徐々に巨大な棍棒へと姿を変えた。

 ユニークスキルの武器生成か。

 思った通り、俺に目がけて勢いよく叩きつけてくる。


『ガアアアアアッ!』

「《氷の防壁》!」


 目の前に分厚い氷の壁を作り出し、攻撃を防御。

 氷の硬さに負け、むしろ棍棒の方が粉々に砕けてしまった。

 ランクとしては俺の方が下だが、俺だって日々努力を重ねている。

 一瞬たじろいだ隙を見逃さず、俺は鋭い氷の刃を大量に放つ。


「《氷刃連撃》!」


 赤サイクロプスは両腕をクロスして防御の構えを取った。

 全身を斬られるたび、じわじわと再生する。

 両腕の隙間から見える目はにやりと笑い、まるで俺を馬鹿にしているようだ。


「お前の魔力量の少なさは把握している。ずっと再生し続けていていいのか?」


 いくらスキルが強くても、発動させるための魔力がなければどうにもならない。

 赤サイクロプスも魔力の減少スピードに気づいたようだが、もう遅いってヤツだ。

 留めの一撃に、巨大な氷の槌を生成する。


「この街の人たちには指一本触れさせない。お前が暴れられるのもここまでだ……《氷の鉄槌》!」

『ガァアアアアアッ……!』


 赤サイクロプスは力の限り叩き潰され、断末魔の叫びを上げて息絶えた。

 戦闘の余韻が消えていくとともに、街には徐々に静けさが戻る。

 諸々の氷魔法を解除したところで、笑顔のリゼリアが抱き着いてきた。


「やっぱり、コーリちゃんはすごいっ! あんなに強そうで再生しちゃう厄介な魔物でも簡単に倒しちゃった! コーリちゃんのおかげで街が守られたね!」

「いやいや、リゼリアもたくさん魔物を倒してくれたじゃないか。街が守られたのはみんなのおかげだよ」

「謙遜コーリちゃんも可愛いね。じゃあ、いつものやろ」


 宝箱の身体では難しかったが、俺とリゼリアは力強くハイタッチする。


「「討伐完了ー!」」


 クエストが無事にクリアできたときは、毎回こうやって互いに勝利を讃えてきたのだ。

 氷ミミックになっての初バトルで、ステータスがどのくらい上昇したか見てみよう。



――――――

 名前:コーリ

 種族:氷ミミック

 性別:男

 レベル:24/40

 ランク:B

 体力:230/230

 魔力:254/254

 攻撃力:212

 防御力:389

 魔攻力:256

 魔防力:277

 素早さ:50


《種族スキル(種族に特有なもの)》

・氷語(氷の言葉がわかる)

・氷スライム語(氷スライムの言葉がわかる)

・給水Lv.2(液体を吸収して体力を回復できる)

・氷魔法Lv.4(氷属性の魔法が使える)※LEVEL UP

・氷クラゲ語(氷クラゲの言葉がわかる)

・回復氷生成Lv.4(回復効果のある氷を生み出すことができる)※LEVEL UP

・浮遊(宙に浮かび、移動することができる)

・氷ミミック語(氷ミミックの言葉がわかる)

・収納(物を亜空間に収納できる。亜空間は上限はなく、時の流れも止まる)

・硬化Lv.3(一時的に、防御力と魔防力を1.4倍にする)※LEVEL UP


《ユニークスキル(個体に特有なもの)》

・人間模倣(人間の行動を模倣できる)

・鑑定(魔物や物の鑑定ができる)


《シークレットスキル》

・氷族進化(氷属性の他種族に進化できる)

・巨大化(身体を巨大にすることができる)


〔称号〕

・転生者(種族スキルを継承できる)

・守り神(自分を含めた味方の防御力・魔防力を1.5倍に上昇させる)

・将来有望な学徒(経験値が多く貰える。レベルアップや進化したとき、ステータスが上昇しやすい)

――――――


 めっちゃ上昇してた!

 体力と防御力、魔防力の数値が非常に心強い。

 氷魔法もレベルアップできたし、新しい魔法が使えるのが楽しみだ。

 リゼリアに続いてマリステラさんとアニカも俺に抱きつき、学生や住民たちも歓喜の声を上げる。


「コーリ君、よくやってくれた! "名有り"の魔物まで倒してしまうなんて、君の強さは本物だ! 街を助けてくれて本当にありがとう! 君は魔物学……いや、世界の歴史に名前が刻まれるよ! いや、ボクが刻んでいく!」

「コーリっち、マジでありがと! あーし、ガチ感謝しかないって! コーリっちのこと、一生推すから!」

「「君はアストラ=メーアの救世主だ! ……コーリ、コーリ、コーリ!」」


 街には俺の名が響き渡る。

 突然に発生したスタンピードだったが、街を……みんなを守ることができて本当によかった。

 みんなで勝利を祝っていると、不意に男の叫び声が轟いた。


「お、おい、コーリ! 俺を捕まえている奴らも倒せ! そしたら俺の手下にしてやるよ!」


 ダリオスだ。

 魔法縄できつく拘束されているも、相変わらず見下したような目を俺を見る。

 歓喜の雰囲気は一転して変わり、学生や住民も憎々しげにダリオスを睨み返す。

 刺すような冷たく厳しい空気に、当の本人はびくりと狼狽えた。


「な、なんだよ……。俺が悪いってのかよ……そうだ! 聞いてくれ! 俺は唆されたんだ! 二人の衛兵が俺を唆したんだよ! スタンピードが発生したのは俺のせいじゃねえ!」


 弁明なのか、ダリオスは自分の責任じゃないと主張する。

 この場にいるみなを代表するように、マリステラさんが厳しい表情で告げた。


「さて、ダリオス。君の処罰を考えなければならないな。危険な【魔物封印の書】を破壊し、スタンピードを起こし、アストラ=メーアを破滅の危機に導いた。寛大な処置は期待しないでほしい」


 強い怒りを滲ませるマリステラさんや街の住民たちの真ん中で、ダリオスは震え上がるだけだった。

お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます


【読者の皆様へ、青空あかなからのお願いでございます】


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