第21話:氷クラゲ、サード進化する
ギルドに帰ると、真っ先に学生たちが労ってくれた。
なんと、彼らは極秘に小さな鳥型ゴーレムを放ち、俺たちとダリオスの後をひっそりと追跡していたらしい。
悪名高いダリオスのことだから、本当にクエスト勝負をするか不安だった。
もし仲間でも潜んでいて、襲われた場合にはすぐに援護に向かう手筈を整えていた……という話を聞き、そこまで考えてくれていたのかと素直に感激した。
鳥型ゴーレムの視野はギルドに設置された魔導具と連動しており、リアルタイムで事の経緯を学生たちと共有していたようだ。
それはつまり……。
「……ダリオスの戦闘シーンは見物だったなぁ! 魔物を風で持ち上げることしかできないって弱すぎるだろ。今まで何やってたんだよ!」
「逃げ足が一番速かったわよね。脇目も振らずって感じ。あんな情けない男を見たの、生まれて初めてだわ。あのまま、コボルドに殺されればよかったのに」
「片や、コーリさんは立派だ。あんなに巨大な水蛇を倒してみんなを守ったんだからな。少しはコーリさんを見習えって話だ」
嫌われ者のダリオスが惨めに逃げ帰ったことや、俺が変異種の水蛇を倒したことも学生たちは目の当たりにしたというわけだ。
みな、俺の戦いは素晴らしかったと、大事な先生を守ってくれてありがとうと、たくさん讃えてくれる。
水蛇の異常性についても共有し、ノヴァリス魔法大学が全面的に調査することが決まったところで、アニカが俺の触手を引っ張る。
「コーリっち。実は、あーしは"銀環商会"の商会長の娘なんよ。パパにコーリっちのこと伝えとくね」
「「"銀環商会"!?」」
俺とリゼリアではなく、周りのみんなが大変に驚く。
なんと、アニカは王国最大手である"銀環商会"という商会の跡取り娘だった。
国内のみならず外国とも商売をしており、王族とも取引があるとのこと。
今は身分を隠して修行中の身。
最も小さな商会支部の年間売り上げを超えなければ、後を継げないそうだ。
「さっきみんなが話してた"黒葬の翼"はあーしも知ってるし。てゆーかね、会ったことあんよ」
「なにっ、詳しく教えてくれるか?」
「旅の途中、偶然知り合ったパーティーが組織のメンツだったらしくてね。やたらと魔物を捕まえてた~。仲間にならん?って誘われたけど、束縛とかマジムリみ~って断った。ちょい気になって、仲間になったらどうなるん?って聞いたら、"盤上の手"になれる……って言ってたよ」
「"盤上の手"……?」
どういう意味だ。
アニカも深追いすると身の危険があったため、それ以上詳しくは聞けなかったとのこと。
彼女の話と洞窟の主の異常な様相。
"黒葬の翼"との関係が予期され、ギルドの中は不穏な空気に包まれる。
マリステラさんも険しい顔で切り出す。
「魔物の調査には、王国騎士団も入ってもらった方がいいね。ボクから進言しておこう」
彼女の話すように、王国の正式な部隊が調べた方がいいと思われる。
今後の方針が決まったところで、アニカが明るい表情でパンッと手を叩いた。
「コーリっち、大湿原に行きたいんでしょ? あーしらの馬車に乗っちゃいなって! ちょうど方向も同じだし、一緒に行こっ。食べ物とか物資もあげるから安心してよ」
「ほんとか!? 助かるよ、アニカ」
「ありがと、アニカ!」
大変嬉しい申し出に、俺もリゼリアも歓喜する。
大湿原まではそこそこ遠く、道中には小さな村や教会しかないので、この街で馬車や物資の調達が必要だと思っていた。
どちらも提供いただけるなんて路銀の節約にもなるし、旅がとても捗る。
マリステラさんは手続きを進め、明日にでも許可証を発行してくれるそうで話がまとまった。
さて、それではお楽しみの進化だ。
「じゃあ、俺たちは一度宿……といっても、大学に戻ります。進化先を考えたいので……」
「「進化先!?」」
ぽつりと呟いた瞬間、一同は大興奮する。
あろうことか、うっかり自分から話してしまった。
俺はレベルが上がるとなぜか進化できるらしいと端的に伝えると、特にマリステラさんが激しくテンションを上げる。
「君は別の種族に進化までできるのかい!? 普通、魔物が進化するなんてあり得ないよ! ぜひ、この場で見せてくれ! 願わくば……詳しく調べたいねぇ……」
のんびりしていると解剖されてしまうかもしれない。
進化先を提示!
途端に、時の流れが遅くなる。
リゼリアを見ると、いつものように大きく口を開けていた。
「コォォォォォォォォォォ……リィィィィィィィィィ……」
よし、大丈夫そうだ。
じっくりと進化先を検討しよう。
どれどれ……。
○氷メガビートル
・等級:ランクB+
・説明:氷属性の大きなカブトムシ魔物。美しい造型のため、子どもから大人まで人気。希少価値が高く、熱心な好事家が多い。敏捷性に優れる。
・種族スキル:①氷メガビートル語(氷メガビートル系の言葉がわかる)
②飛翔(素早く飛ぶことができる)
③角撃(角に魔力を込めることで、強力な打撃を喰らわせる)
○氷メガセンチピード
・等級:B-ランク
・説明:氷属性の大型なムカデ魔物。甲殻部分は硬いが、隙間に攻撃を受けるとダメージがが大きい。こちらはあまり人気がない。
・種族スキル:①氷メガセンチピード語(氷メガセンチピード系の言葉がわかる)
②毒牙Lv.3(噛みつくことで毒を注入する)
③多脚(壁や天井に張り付いて動ける)
○氷ミミック
・等級:ランクB
・説明:氷属性のミミック。氷でできた宝箱は存在しないので、すぐ氷ミミックだとバレる。防御系の能力が高い反面、敏捷性はほとんどない。
・種族スキル:①氷ミミック語(氷ミミックの言葉がわかる)
②収納(物を亜空間に収納できる。亜空間は上限はなく、時の流れも止まる)
③硬化Lv.2(一時的に、防御力と魔防力を1.3倍にする)
……ふむふむ。
一番ランクが上なのは氷メガビートルか。
敏捷性の高さは魅力的だが、それ以外が微妙なところではある。
《飛翔》は《浮遊》と被るし、獲得してもあまり意味はなさそう。
《角撃》はこの先、角がない形態に進化した場合も使えるのかな。
希少価値が高いなんて、命を狙われる危険が増えるだけで俺としてはいいことがない。
う~む、却下。
氷メガセンチピードはムカデ魔物……。
あまり人気がないなんて、わざわざ書かなくてもわかるよ。
とはいえ、《毒牙》がすでにLV.3とはすごい。
さぞかし強力な毒なのだろう。
《多脚》も便利といえば便利だが、せっかく異世界転生したのにムカデとして生きるなんて絶対にヤダ……。
というわけで、こちらも却下。
となれば、やはり、ここは氷ミミックだろう。
ここまで育てた敏捷性を犠牲にするのはとても残念だが、《収納》スキルはぜひとも入手しておきたい!
《硬化》スキルも生存を手助けしてくれるし、何より宝箱という見た目にも安心感がある。
では……進化先は氷ミミック!
そう強く念じると、全身が白い光に包まれ、俺は氷でできた大型の宝箱に姿を変えた。
――――――
名前:コーリ
種族:氷ミミック
性別:男
レベル:1/40
ランク:B
体力:102/102
魔力:114/114
攻撃力:120
防御力:205
魔攻力:167
魔防力:180
素早さ:30
《種族スキル(種族に特有なもの)》
・氷語(氷の言葉がわかる)
・氷スライム語(氷スライムの言葉がわかる)
・給水Lv.2(液体を吸収して体力を回復できる)
・氷魔法Lv.3(氷属性の魔法が使える)※LEVEL UP
・氷クラゲ語(氷クラゲの言葉がわかる)
・回復氷生成Lv.3(回復効果のある氷を生み出すことができる)※LEVEL UP
・浮遊(宙に浮かび、移動することができる)
・氷ミミック語(氷ミミックの言葉がわかる)※NEW!
・収納(物を亜空間に収納できる。亜空間は上限はなく、時の流れも止まる)※NEW!
・硬化Lv.2(一時的に、防御力と魔防力を1.3倍にする)
《ユニークスキル(個体に特有なもの)》
・人間模倣(人間の行動を模倣できる)
・鑑定(魔物や物の鑑定ができる)
《シークレットスキル》
・氷族進化(氷属性の他種族に進化できる)
・巨大化(身体を巨大にすることができる)
〔称号〕
・転生者(種族スキルを継承できる)
・守り神(自分を含めた味方の防御力・魔防力を1.5倍に上昇させる)
・将来有望な学徒(経験値が多く貰える。レベルアップや進化したとき、ステータスが上昇しやすい。アストラ=メーアにて、マリステラや学生の面々と仲良くなったので獲得)※NEW!
――――――
ミミック、めっちゃ強えじゃん……。
軒並み三桁だし、アニカ風に言うと防御力がパない。
防御力205て。
たいていの攻撃なら喰らっても効かない気がする。
戦闘の要の《氷魔法》がLV.3とはありがたい。
念じるだけで多種多様な魔法が思い浮かぶ。
同じくレベルアップしてくれた《回復氷生成》と併せて使いこなしていこう。
《収納》という二文字が眩しい。
念願の"自分の荷物は自分で持つこと"ができるよ……。
そして、新しい称号〔将来有望な学徒〕が増えていた!
経験値が貰えやすくなって、ステータスの値が上がりやすいなんて有益にも程がある。
種族の特徴もあるかもしれないが、全体的に急上昇できたのは主にこの称号おかげと思われる。
仲間として認めてくれたなんて光栄だ。
などと思っていたら、突然リゼリアが抱きついてきた。
「コーリちゃんがミミックになったー! かわいー!」
「こ、こらっ、顔をぶつけると危ないぞっ」
「へーき! 形が変わってもコーリちゃんはコーリちゃんだもん!」
硬い宝箱の形態にも拘わらず、俺のボディを夢中で頬ずりする。
角張った部分が彼女の目に刺さらないか心配になってしまう。
完全な箱形だと、甘んじて受け止めるしかないのも心苦しいところ。
……などと思っていたら、血走った目のマリステラさん及び、その助手二名――レイヴンとドロシーが迫ってきた。
「コココココ、コーリ君! これは魔物学の歴史を覆す一大センセーションだ! この素晴らしい光景を見られたこと、魔物学者として冥利に尽きる!」
「「コーリクン、アナタハスゴイ。シゴクカンゲキシマシタ。アナタノコトヲ、スミズミマデ、ケンキュウサセテクダサイ」」
三人ともはぁはぁと息が荒く、徹夜明けのように目が血走る。
これがデジャヴか……などと思っていたら、激しく興奮した様子のアニカとその仲間、学生たちがさらに俺を取り囲む。
「コーリっち、めっちゃイケてんじゃん! 氷クラゲは普通に天使だったけど、氷ミミックはガチかっこよくて語彙消えたわ~! マジ好き!」
「「コーリさんって進化できるんですね!」」
我先にと俺にくっついてこようとするみんなを、リゼリアが必死になって追い払う。
「ちょっと、みんな離れて! コーリちゃんは私のなんだから!」
「さあ、ボクらのコーリ君を讃えようではないか!」
マリステラさんの一言で、宴を兼ねた昼食会が始まった(まだ昼なので、お酒はなし)。
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