表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/33

第14話:氷クラゲ、みんなと別れを交わす

 イオニスの言葉を聞いた瞬間、"紅牙団"のメンバーや村人たちの間を驚きが包んだ。

 聞き馴染みのない組織と思しき名前だが、どうやら有名らしい。

 龍人族であるリゼリアも知らないとのことで、カリナさんが教えてくれた。


「こいつら"黒葬の翼"は違法ポーションの販売や奴隷売買、はたまた殺人なんかもする凶悪犯罪の組織だよ。ボスも本拠地も不明で、王国騎士団も壊滅には手を焼いているのさ。まさか、こんな近くにそんな危険な連中の構成員がいたなんて、想像もしなかったね」


 マフィアやギャング的な存在というわけか。

 この世界にもそういうアングラなヤツらがいるようだ。

 そこまで話したところで、イオニスが叫ぶ。


「おい、コーリ! 正直に言っただろ! 今すぐ離れろ!」

「いや、まだダメだ。ネリファ村で何をやっていたのか言え。何が目的だったんだ」


 さらに問い詰めると、イオニスは歯軋りした後、悔しそうな顔で白状した。


「俺たちは……組織に命じられて"紫呪病"という新型の病気を開発していたんだよ。薬草を依頼したのはカモフラージュのためだ。村人の体調不良は俺たちが引き起こした。村の井戸に病気の素を密かに入れ、"紫呪病"が広まってから薬師として来たんだ」


 そう切り出された瞬間、村人の他"紅牙団"のメンバーはイオニスたちを激しく糾弾した。


「薬師が病気にさせるってどういうことだよ! ふざけんじゃねえ!」

「あなたたちは助けにきたのではなく、むしろその逆だったんですね! こんなに酷い悪人は初めて見ましたよ!」

「コーリが来てくれなかったら全員死んでたぞ! お前らには人の心がないのか!」


 みな、強い怒りをぶつける。

 治療に来た薬師が実は病気の原因だったなんて、考えたくもない事実だ。

 先ほどのカリナさんの話から、こいつらは結構大きな規模の組織だとわかる。

 他にも同様の被害が出ている可能性が高い。

 みんなのためにも、もっと詳細な情報を集めたいところだ。


「イオニス、お前たちの組織について教えるんだ。メインの拠点はどこで、ボスは誰だ?」

「何も知らない」


 そう答えた瞬間、村人と"紅牙団"の怒りのオーラは強くなった。

 今にも殴りかかりそうな雰囲気に、イオニスはしどろもどろに答える。


「俺たちは末端の末端だ! 組織の本拠地はおろか、ボスの――俺たちは導師と呼んでいるが――顔も知らない! 本当に何も知らないんだ! 拷問されても知らないことには答えられないだろ!」


 必死の叫び声が森に響く。

 みんなで今後の対応を相談した結果、イオニスたちは一度ベル=グリナスに連行して、近くの街の王国騎士団の駐屯地に引き渡すことが決まった。

 尋問などは専門の組織に任せようということだ。

 準備を手伝っていると、ミラちゃんがお別れに来てくれた。


「コーリさん、わたし決めたよ。いつかすごくつよくなって、コーリさんを追いかける。だから、まいにちがんばる」

「はは、それは楽しみだな。でも、お父さんとお母さんの言うこともちゃんと聞くんだぞ」


 ミラちゃんと最後のお別れとして、小さく握手する。

 今度会うときは、今よりもっと成長したときかな。

 俺たちが歩き出すと、村人はいつまでも見送ってくれた。


「「コーリ様、本当にありがとうございました! お元気で! 村ではコーリ様の彫像を作ります!」」


 手を振り返し、俺たちはベル=グリナスに向かう。

 ミラちゃんたちが見えなくなると、隣を歩くリゼリアがぽつりと呟いた。


「別に追いかけて来なくてもいいのに……」

「どうした、リゼリア」

「何でもないよ。コーリちゃんとずっと一緒にいたい、って話」



 □□□



 街に戻ると、イオニスたちの悪行は瞬く間に街中に広がった。

 住民もネリファ村の状況は心配しており、その原因が薬師グループと知ったときはそれこそ鬼の形相で糾弾した。

 一方、俺は住民からも感謝の嵐を受けた。


「ヤバい病気を消してくれてありがとうよ、コーリ! これで俺たちも安心して暮らせるぜ!」

「あなたたちは冒険者生活も頑張ってたもんね。まだ若いのに立派だわ」


 ひとしきり感謝を述べられると、イオニスたちは"紅牙団"の屈強な冒険者たちが連行してくれた。

 これでもう大丈夫だろう。

 騒ぎが落ち着いたところで、俺はリゼリアとギルドに行き、ロビーで今後の予定を相談する。


「なんか、思ったより色々あったな。まさか、イオニスたちが悪いヤツらだったとは……。まぁ、まだ体力はたくさんあるし巨大鼠の討伐といくか。早く冒険者ランクを上げたいし」

「そうだね。また悪いヤツらに会うかもしれないから、少しでも強くなんなきゃ」


 などと話し、クエストボードに行こうとしたとき、カリナさんがカウンターで手招きしていた。


「コーリ、リゼリア。ちょっと冒険者カードを貸してくれるかい?」


 カリナさんにカードを渡すと、大きなスタンプをドンッと押された。

 魔力を注ぐよう促され、注いでみると……。


「「Bランクに昇格!?」」

「ああ、あんたらはもう十分に一人前の冒険者さ。未知の病気に挑む勇気と、実際に村人の命を救う能力の高さを考えたら当然さね。イオニスたちだって、楽な敵じゃなかったよ。戦闘これからの活躍、楽しみにしてるよ!」


 なんと、一気にFからBに昇格してしまった!

 すごい!

 カリナさんの話を聞き、瞬く間にギルド中の冒険者が集まる。


「四段昇格なんて聞いたことねえぞ! しかも、コーリとリゼリアは新人だろ!? マジ、ヤバすぎだなお前ら!」

「悔しいが、君たちなら当然だ。戦闘能力の高さだけじゃなく、あんなに大勢の人を救ったのだからね」

「冒険者として一番大事なことは、困難に立ち向かう勇気です。あなたたち二人はどちらもその心を持っています」


 みんな、わいわいと俺とリゼリアの昇格を、自分のことのように祝ってくれる。

 こんな優しい人たちに出会えて本当に幸せだ。

 でも、ここでの生活も今日までだと、隣のリゼリアと何も言わずとも意思疎通された。

 無事に予定の冒険者ランクを超えることができたし、俺たちには目指すべき遠い場所がある。 

 俺たちは姿勢を整え、みんなに感謝の言葉を述べる。


「"紅牙団"のみなさん、大変お世話になりました。冒険者ランクも上がりましたし、俺たちはそろそろ出発しようと思います」

「みんなのおかげですごい楽しい毎日だったよ。お別れは寂しいけど、もう行かなきゃ」


 出発すると聞くとみんな寂しそうにしたけど、次の瞬間には笑顔を浮かべてくれた。

 カリナさんは軽く目を拭った後、寂しげな笑顔で俺たちの手を握る。


「世話になったのはこっちの方さ。コーリにリゼリア、達者でね。"黒葬の翼"については、新しい情報が入ったら各街のギルドに伝達するよ。新しい街に行ったらついでに寄ってみな。それともう一つ。"黒葬の翼"の本拠地だけど、噂だとここより北のどこかにあるって話さ。あんたらなら大丈夫だと思うけど、十分に注意するんだよ」

「有益な情報をありがとうございます、カリナさん」

「新しい街に着いたら、まずはコーリちゃんとギルドに行ってみるね」


 荷物を整え、いよいよベル=グリナスを発つ瞬間が来てしまった。

 カリナさんや"紅牙団"のメンバーの他、たくさんの住民もわざわざ見送りに来てくれた。

 俺とリゼリアは手を振りながら街の門を出る。


「本当にお世話になりました! みなさんもお元気でー!」

「またねー! 今度来るときはお土産持ってくるからー!」

「「絶対、また会いに来なよー!」」

 

 晴れ渡った空が門出を祝してくれているようだ。

 歓声を背に、俺たちは次なる目的地――魔法都市アストラ=メーアに向かう。

お忙しい中読んでいただきありがとうございます!


少しでも「面白い!」「早く続きが読みたい!」と思っていただけたら、ぜひ評価とブックマークをお願いします!

評価は広告下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にタップorクリックしていただけると本当に嬉しいです!

『ブックマーク』もポチッと押すだけで超簡単にできます。


皆さまの『評価』や『ブックマーク』は執筆の大変大きな原動力になります!

何卒よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ