第13話:氷クラゲ、薬師たちを返り討ちにする
「お前たち、コーリを殺せ!」
イオニスが命じた瞬間、右から左から計五人の薬師たちが襲い掛かる。
まずは取り巻きからだ。
「リゼリア、連携して戦うぞ! いつもと同じ戦闘配分だ!」
「了解!」
間髪入れず、俺とリゼリアも攻撃を開始する。
戦闘配分とは、複数の敵と対峙したときどっちがどの敵を担当するかの配分だ。
基本的には自分の目の前。
余裕があったら助け合うが、自分の敵は自分で倒す。
一緒に巨大鼠の討伐をするうちに、自然とそのような連携が身についた。
俺の担当は三人の薬師だ。
「おらぁっ、死ね! 《疾風斬》!」
「魔物なら大人しく人間様に討伐されやがれ!」
「粉々に砕いてやるよ!」
村人を治療していたときとは、打って変わった凶暴な顔だ。
きっと、こちらが本性なのだろう。
一番奥の薬師が風の刃で攻撃し、手前二人が短剣と手斧で襲う分担だ。
《浮遊》スキルで宙に上がり、魔力を集める。
レベル2の《氷魔法》は、すでに俺の頭に描かれていた。
「《氷刃》!」
「「ぐああああっ!」」
氷で生み出した鋭い刃を何発も薬師たちに浴びせる。
腕や足、腹などを切り裂くと、薬師たちはぐたりと崩れ落ちた。
一方、リゼリアも優勢に戦いを進めていた。
尻尾でバランスを取りながら、炎を纏った強烈な蹴りを二発喰らわす。
「《焔蹴り》!」
「「がはっ……!」」
吹き飛ばされた二人の薬師は木に激突し、動かなくなった。
リゼリア側の敵もこれで全員撃破。
残すは……。
「お前だけだ、イオニス」
「チッ……。使えないヤツらめ。もういい、私が直接手を下してやる。砕け散れ、コーリ! 《岩時雨》!」
イオニスが上空に手をかざした瞬間、何個もの鋭い岩が降り注いだ。
「コーリちゃん、岩が降ってくるよ!」
「大丈夫……《氷壁》!」
頭上に氷の壁を生み出し防御する。
岩は突き抜けることなく、逆に全て砕け散ってしまった。
防がれるなんて思っていなかったのか、イオニスの顔に動揺が生まれる。
「魔物如きが私の《岩魔法》を防ぐだと……っ」
「今度はこっちの番だ! 《氷連弾》!」
何発もの氷弾を勢いよく放つと、イオニスは「《岩壁》!」と叫び正面に岩の壁を作り出す。
「馬鹿が、私の魔法の方が強いのだ! 格の違いを見せてやる……ぐあああっ!」
氷弾は岩壁を突き破り、イオニスの腹に直撃した。
他の薬師と同じようにドサッと崩れ落ち、微動だにしなくなる。
戦いは俺たちの勝利にて終結。
俺とリゼリアはハイタッチする。
「「完全勝利ー!」」
不意打ちだったが、互いに無傷でバトルを終えられることができてよかった。
俺とリゼリアは地面に横たわるイオニスたちを見る。
「さて、どういうわけか教えてもらわないとな」
「そうだよ。いきなり襲ってくるなんて許せないんだから」
イオニスたちに詳細を尋問しようとしたら、後ろから野太い女性の声が響いた。
「……コーリ、リゼリア! 戦闘の音が聞こえたけど大丈夫かい!?」
なんと、カリナさんと"紅牙団"の面々だった。
大きな戦闘音を聞き、心配して駆けつけてくれたとのことだ。
さっそくイオニスとの一件を話すと、カリナさんは硬い表情で切り出した。
「……そういうことだったのか。魔物に襲われたと思ってたけど、実際は人間……しかも、薬師たちだったとはね」
「俺の予想ですが、村の薬師たちもこいつらの仲間のはずです。"紅牙団"を引き留めたのは、戦力を分散させるためかもしれません」
「コーリの言う通りだろうね。あたしらが森に行くって言ったときは、なんだか様子がおかしかったし。……お前たち、すぐにネリファ村に戻って薬師たちを捕まえるんだ! あいつらは敵だったんだよ!」
カリナさんの号令に"紅牙団"のみんなは頷くと、急いで村の方向に走った。
十分も経たぬうちに、村の薬師たちが縄で縛られ連行されてきた。
"紅牙団"の他、ミラちゃん一家やゼルグルさんなどネリファ村の人たちも一緒だ。
俺とリゼリアが襲われたという話はすでに伝わっているようで、みんなは厳しい顔つきだった。
俺はイオニスに問う。
「どういうことか教えてもらおうか。なぜ俺たちを襲ったんだ?」
「馬鹿が、言えと言われ話すわけなかろう。貴様らに話すことは何もない」
吐き捨てるように言われた瞬間、リゼリアの全身に摩力が練り上げられた。
「じゃあ、拷問するしかないね。私に任せて、コーリちゃん。火炙りにする準備はできているから」
「ま、待ってくれ、リゼリア。俺にもっといい方法がある」
純真なリゼリアにそんなことをさせたくはない。
俺がイオニスの首にしゅるしゅると巻きつくと、当の本人は悲鳴に近い叫び声を上げた。
「何をする! やめろ、冷たいだろ!」
「知ってるか? 首には頸動脈という太い血管がある」
具体的な位置はよくわからないが、それっぽい場所を撫でる。
「は、はぁ!? だったら、なんだ!」
「冷えた血液はどこに流れると思う? ……そうだ、心臓だ。俺が巻き付いている限り、お前の血液は冷やされ続ける。……心臓に流れる血液を冷やしたらどうなるんだろうな。うまく動けなくなりそうだと思わないか? 徐々に心臓の機能が弱くなり、気がついたときには……死」
「っ!」
日頃からリゼリアの高い体温で鍛えられているから、多少人肌に温められた程度なら溶ける気配もない。
十秒も経たぬうちに、イオニスは青ざめた顔で白状した。
「俺たちは……"黒葬の翼"の一員だ!」
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