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第11話:宴と薬師たち

 ネリファ村の村長宅は一階部分が宴会場のようになっており、宴はそこで開かれた。

 俺の身体は村人の病気を治した後にお水を貰ったので、《給水》スキルにて復活している状態だ。

 盃が行き渡ったのを確認すると、ゼルグルさんが乾杯の音頭を取る。


「では、コーリ様の功績を今日から後世に語り継いでいこうではないか! コーリ様に乾杯!」

「「コーリ様に乾杯!」」


 一斉に盃がぶつかり合い、室内いっぱいに軽やかな音が響いた。

 乾杯が終わるや否や、たくさんの村人や"紅牙団"のギルドメンバーが俺の周りに集まる。

 

「コーリ様! 記念にお身体を触らせていただいてもいいですか!? ……なんと! 神様の体温って冷たいんですね! てっきり、温かいものだと思ってました!」

「コーリ様はなんて素敵なお身体をされているんでしょう。煌めく透明感は涼やかで美しい……。ああ、ずっと見ていたいです」

「おい、コーリ! 聞いたぜ、進化したんだってな! ちょっと見ない間にカッコよくなりやがって!」


 みんな、笑顔で褒めたり感謝の言葉をかけてくれる。

 大量の料理が運び込まれ、目の前のテーブルが瞬く間にいっぱいになった。

 何を食べようか迷っていたら、俺の左側に座るミラちゃんが料理を取り分けてくれた。


「コーリさん、サラダをどうぞ。村でとれたしんせんなおやさいを使ってるんだよ」

「へぇ~、それは楽しみだ。どれ、さっそく……くぅぅ、うまいっ!」


 ミラちゃんがくれたのは、彩り豊かな緑と赤のサラダ。

 食材について聞くと、薫風レタスという香り豊かなレタスと、太陽林檎と呼ばれるとても甘い林檎を使っているとのこと。

 それをネリファ村特製の、酸味あるドレッシングでまとめるのが定番らしい。

 思い返すと前世ではあまり野菜が好きではなかったが、これはとても美味。

 堪能していたら、今度は白い湯気が昇る肉料理が右側から差し出された。


「コーリちゃんはお野菜よりお肉の方が好きだよね? はい、どうぞ。パワフルビーフのステーキですよ~」


 そう言って目の前に置かれたのは、分厚い牛肉のステーキだ。

 温かな湯気と一緒に香ばしい香りが湧き立ち、こんがりとついた格子模様の焼き目が食欲をそそる。

 腕(触手)ができたから自分で切ることができる!

 ナイフはすんなりと肉に入り、まったく抵抗もなく切れてしまった。

 一口食べた瞬間、あふれる肉汁とともに食材の旨みが全身を駆け巡る。

 

「……ぬぐぅぉぉぉっ、うまい!」


 これはとてもおいしい!

 "紅牙団"の料理もおいしかったけど、今まで食べた異世界飯で一番好きかも。

 旨さを堪能していたら、左側から魚のソテーが差し出された。


「コーリさん、お魚が出てきたよ。デイル川でとれるおいしいお魚だから食べて?」

「ちょっと、ミラちゃんばっかりずるいよ。私だってコーリちゃんとご飯食べたいのにぃ」


 ステーキを食べ終わる間もなく、両脇からたくさんの料理が出される。

 全部食べるのは大変だぞ、と思いながら食事を進めていたら、ゼルグルさんとミラちゃんのご両親が俺の近くに来た。


「コーリ様、改めてお礼を言わせてもらいたい。お主のおかげでネリファ村は救われたんじゃ。お主が……来なかったら……うっうっ……ワシらは……確実に死んでおった……。身を削って……ワシらを救う様は……まさしく、慈愛溢れる神様じゃったよ……うっうっ」


 ゼルグルさんは泣き上戸らしく、酒を飲みながら涙を流して俺に感謝する。

 一方、ミラちゃんのご両親――お父さんがパトリックで、お母さんはルーシャ。

 それぞれ24歳と22歳とのことなので、前世の俺より年下となる。

 若いのにちゃんと子どもを育てていて立派だ。


「このたびは僕たちの娘を救っていただき本当にありがとうございました。コーリ様に出会えなければ人生が終わっていました。コーリ様こそ僕たちの道標です。僕たちの未来を考えた結果、コーリ様に大事なお願いをしようと思いました」

「コーリ様の優しさと強さに、私たちは感銘を受けましたの。そんなコーリ様を見込んで、大事なお願いがあるのですわ」

「大事なお願い?」


 俺が尋ね返すと、パトリックとルーシャはやけに据わった目で宣言した。


「「将来、ミラと結婚してくださいませんか!?」」

「えっ! それはダメだよ!」


 間髪入れず、俺ではなくリゼリアが叫び、力強く俺を抱き締める。

 

「コーリちゃんは私のなんだから!」

「「そこを何とか……」」


 パトリックとルーシャはリゼリアに頼み、ミラちゃんもさりげなく俺の触手の先っぽを固く握る。

 そもそも、魔物と人間は結婚……できるのか?

 リゼリアとミラちゃんの視線がぶつかる度、火花が散る感じがするんだけど気のせいだと思いたい。

 二人の間に挟まれぼんやりしていると、カリナさんが笑いながら盃を呷った。


「コーリはモテモテじゃないかい。あたしの若いときと似てるよ。それにしても、あの頃は大変だったね。ギルドにいた二人のモテ男が同時に告白してきたんだ。三人でクエストデートに行くことになったんだけど、どっちもあたしを取り合うもんだから碌に進まなくて……」


 カリナさんはお酒を飲んでは自分語りを始める。

 "紅牙団"の人たちは慣れているのか、適当に相槌を打っては周りの人と歓談していた。

 そういえば、知らないうちにイオニスさんがいなくなっていた。

 宴に参加している薬師の数もちょっと減ってるような……。

 まぁ、イオニスさんたちはまだ仕事が残っているのだろう。

 そう思いながら、俺はおいしい食事に舌鼓を打つのであった。



 ◆◆◆(三人称視点)



 コーリが村長宅にてみなから祝され、食事を堪能していたとき。

 イオニスと二人の薬師は、ネリファ村の近くに広がる森にいた。

 自分たち以外の誰も周囲にいないことを確認すると、イオニスは懐から小さな円盤の魔導具を取り出した。

 丁寧に地面に置き、表面に刻まれた複雑な魔法陣に魔力を込める。

 数秒も経たぬうちに、人型とわかる程度の朧げな幻影が浮かび上がった。

 すかさず、イオニスと薬師たちは片膝をつき首を垂れる。


「ご多忙のところ失礼いたします、導師。緊急でお伝えしたいことがございます」

〔……まさか、失敗したわけではあるまいな?〕


 幻影の声は重く、冷たく、苦しく、聞いているだけで喉が締め付けられるようだ。

 喉が張り付く感覚を覚えながら、どうにかしてイオニスは声を出す。


「そ、それが、少々予定が狂いまして……。我々がネリファ村で開発していた新型の病――"紫呪病"を治す魔物が現れたのです……」


 そのまま、脂汗をかきながらコーリの一件を話す。

 "紫呪病"の開発自体は順調で、自分たち薬師が治せないというのは本当だった。

 それくらい強力な病気を開発したのだから。

 だが、コーリが現れてから全てが狂った。

《回復氷》と呼ばれる見たこともない回復スキルで治されてしまった。

 イオニスは震える声で事の顛末を伝える。


「……結果、村人たちは全快し、今は楽しく宴を開いております……」


 報告を受けた幻影は何も答えず、重苦しい沈黙がのしかかる。

 イオニスが重圧と圧力にもう耐えきれないと思ったとき。

 幻影に首を掴まれ、いとも簡単に持ち上げられた。

 不気味な冷たさと死の恐怖が首から全身に伝わり、血が凍るようだ。


〔要するに……失態というわけだな。私の"大いなる目的"に支障が出たらどうするつもりだ、イオニスよ。……死ぬか? 今ここで殺してもいいのだぞ〕

「あっ、いえ……! ……お、お許しを……ごふっ!」


 ギリギリと締め上げられ、骨が軋み始める。

 途方もない怒りが伝わり、震え上がることしかできなかった。


(私は……ここで死ぬ……のか。い、嫌だ……助けて、くれ……)


 徐々に視界が狭まり意識が消失する寸前、ふっと力が抜けて地面に落とされた。

 激しく咳き込むイオニスに、幻影は見下して告げる。


〔無能の貴様に一度だけチャンスを与えよう。私の"大いなる目的"を考えると、そのコーリとやらは障壁となる。殺せ。コーリの死体を用意すれば、今回の件は不問と致す〕

「は、はいっ、承知しましたっ。必ずや、コーリを殺してまいりますっ」

〔忘れるな。もし殺せなければ、代わりに貴様が死ぬことになる〕


 吐き捨てるように言うと、幻影はぶつりと消えてしまった。

 イオニスは尚も咳き込みながらも、薬師たちに指示を出す。

 

「コーリを……殺すぞ。あいつを殺して……失態を取り戻す……」

「し、しかし、イオニス様っ。村には"紅牙団"の冒険者たちもおります。どうしましょう」

「見たところ、C級だけでなくB級の連中も多かったです。あいつらはコーリを慕っているようですし、味方するに違いありません」


 焦る部下たちに、ようやく呼吸が整ったイオニスは作戦を命じる。


「襲撃は明朝に仕掛ける。おそらく、コーリと龍人族の娘は街に帰るはずだ。"紅牙団"の連中は何か理由をつけて村に留まらせる。森の中で孤立したところを襲うぞ。今晩中に情報を共有しろ。もちろん、バレないようにな」

「「しょ、承知っ」」


 三人は身なりを整えながら、何事もなかったように村長宅へと向かう。


(コーリ、必ずお前を殺す。導師からの心証を覆す、正真正銘最後のチャンスだ)


 イオニスは夜空に煌々と輝く月に、固く固く誓った。

お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます


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