確実に悲惨な死をする人と誰にも負けない守護霊
「うえぇ……」
女霊能者は言葉を漏らしてしまう。
この仕事をしていると過去、類を見ないような凄まじい霊を見ることもある。
しかし、本日自分の下にやって来た客についていた守護霊は今までも別格だった。
「なんだよ。何が見えたんだよ?」
所謂、チャラい感じの若い男性はニヤニヤしながら霊能者に顔を近づける。
その視線は時折、彼女の胸のふくらみを覗いていたが今はそんなことはどうでもいい。
(どう伝えたもんかな……)
女性は頭を悩ませる。
そもそも、彼女の仕事は客の後ろについている守護霊は何かを伝えるという細やかなものだ。
(だけど、流石にこれは……)
男性を無視して彼の背後にいる守護霊を窺う。
守護霊は冷たい目で女性を射貫くようにして見つめていた。
その視線を見て女性はびくりと震えた。
(ダメだ! 下手な事言えば確実に殺される!)
そんな確信があった。
いや、むしろ今の段階でも下手したら殺されかねない。
(これは早々にお帰りいただなければ……!)
彼女は震えながら咳を一つして言った。
「ええっとですねぇ。あなたを護っているのは今までに見たことがないくらいに強力な守護霊です」
「ほんとかぁ? 誰にでもそう言っているんじゃねえか?」
「いやいやいや。ほんとほんとです。こんなに強いの私見たことないですもん」
男性は明らかに話半分という状態で聞いていたが、事実として彼の後ろにいる守護霊は少なくとも女性が見てきた中では明らかに最強の守護霊だった。
「で、その守護霊ってのは俺を見てなんか言っていたりするの?」
「えっと、それは……ですね」
ちらりと守護霊を一瞥し女性は息を飲んで答えた。
「俺が守ってやるから安心しろ! 的なこと言っています……」
「なんじゃ、そりゃ」
男はそう爆笑するとそのまま女性の傍から立ち去った。
その後ろ姿を見つめながら、女性は大きくため息をつく。
「助かった」
女性はあの男に何一つ嘘はついていない。
守護霊は間違いなく今まで見た中では最強の存在であったし、実際にあの守護霊は男を何があっても守ってくれるだろう。
……しかし。
「何したら、あんなに守護霊に恨まれるんだろ」
女性はぽつりと呟く。
彼女の脳裏に浮かんだのは漫画やアニメで出てくるライバルキャラの言葉だった。
『勘違いするな! お前を助けたんじゃない! お前を殺すのはこの俺だ!!』
「あの手の台詞で本気の殺意持っているタイプの奴、初めて見たかも……」
女性はそう呟いてため息をつく。
あの男はきっと凄惨な死に方をすることだろう。
しかし、そこまでの事など彼女は知ったことではない。
彼女の仕事はあくまでも守護霊が何かを伝えるだけなのだから。