8 悪役令嬢は推しに恋をしてしまった……けど
アランと関わらないようにしようと思っていたのに――
意識的に線を引いてきたはずなのに——
気づけばアランを呼び寄せ、婚約の話をしていた。
どうしてだろう。
たぶん、誰かに聞いてほしかったのかもしれない。
自分の気持ちを。自分の不安を。
婚約の打診のことを、なんとなく父や母に話すのは気が引けた。でも、心のどこかで誰かに寄りかかりたかった。
そして、私が無意識に頼った相手は——
アランだった。
月明かりの下で、彼は黙って私の話を聞いてくれた。
余計な言葉を挟まず、ただ隣にいて、私の言葉を受け止めてくれる。
それがどれほど心地よかったことか。
——ゲームの中のアランとは違う
私が知っているアランは、もっと冷徹で、主を守るためなら手段を選ばない男。
そして好きな人のためにその主を最後には裏切る。
だけどそれは、すでに心が悲鳴を上げているアランだったから。
シャルロットに執着され、やりたくもないヒロインいじめに加担させられ、限界を迎えていたアランだったから。
だけど今、私のそばにいるアランは違う。恐らく今の姿が本来のアランなんだと思う。
——とても優しい人
ただの護衛と令嬢として、適切な距離を保っているはずなのに、その優しさに甘えたくなった。
だって、大好きなキャラ……ううん、大好きな人だもの。
鍛錬する姿、屋敷の警備をする姿、ふとした瞬間に見せる柔らかい表情。
見れば見るほど、知れば知るほど、惹かれていく。
きっとこれはもう、推しに対する感情じゃない。
——私は、アランに恋をしてしまったのだ
でも、それはダメ。
私の願いは、推しを……アランを幸せにすること。彼が自由に生きられる未来を守ること。
そのためには、私の気持ちなんて邪魔でしかない。
だから、この気持ちは秘密にしなきゃ。
心の奥に押し込めておかなきゃいけないんだ——