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加藤好洋ヒストリー  作者: 亀の子たわし
8/22

脳科学セミナーでのトラブル

加藤は、気功を学ぶセミナーを受講することになった。


道場では数人の先生たちが、生徒達に気功を伝えようとしているのだ。


全くの素人が、目に見えないエネルギーを扱う際に、重要なのは、まずは自分で体験してみることだろう。


まずは指導者がエネルギーを触れさせてあげることが大切なのだが、生まれ付いてそれが出来る人間だと言語化して他人に伝える事が難しいので、参加者の生徒達は感覚を掴めずに困惑してしまっているようだった。


教師がどれだけ丁寧に教えても、エネルギーを送っても、結局のところは生徒自身のセンスによるところが大きい。


しかし、加藤の場合、超能力を後天的に身に付けたからこそ、初心者にそれを教えるのが誰よりも上手かったのだ。


「例えばなんだけどさ、『ハンターハンター』とかだと、みんな念能力を使って病気や怪我を治すだろ? 俺はセラピーをする時、アニメの映像からイメージを持って来てるんだよね」


「えっ、加藤さんは、アニメからイメージしていたんですか?!」


「そうだよ『犬夜叉』とかも使えるし『NARUTO』でも『BLEACH』でも『幽遊白書』とかでも良いよ、アニメは視覚情報だから分かりやすいからね」


加藤はアニメや漫画を例えにするからこそイメージを上手く説明することが出来たし、高学歴達特有の堅苦しい説明ではなく、アニメキャラクターのマネをしたり、まるで友達のように接してくれる加藤に周囲は親しみを覚えているようだった。


また、頭痛に悩まされている生徒がいると、その場ですぐに治してしまったこともあった。


「兄貴、この前は本当にありがとうございました。頭痛がすっかりと良くなったんですよ!」


「おー、良かったね! あれから再発はしてないかな?」


「それが特に異常が無いんですよ。何年間も悩まされてたのが嘘みたいなんです! 本当に兄貴はすごいですよ!」


彼はどんなに有名な病院や医者でも治らなかった頭痛が、一瞬で治ったことを喜んでおり、それからは、加藤のことを「兄貴」と呼んで慕っていたし「いつか絶対に兄貴のコーチングを受けたい!」とも話しているようだった。


加藤は生徒という立場でありながら、この時点で他の指導者達よりも、気功を高レベルで習得しているために、教えを乞う人間達が現れており、ファンクラブを通り越して、スターのような状態にまでなったのだ。


周りの生徒達は、大抵は普通のサラリーマンだったのに対して、加藤は経営者であるために、学ぶことに対する姿勢やバイタリティーが桁違いだった。せっかくここに来たのだから「先生の最高傑作になりたい」という気持ちがあった。


そして待ち望んでいた会長からの直接指導中に言われたのは「今の君のやり方だと、エネルギーを使い果たして死んでしまうよ」ということだった。


加藤は我流でのカウンセリングやセラピーを続けていたのだが、この時点でかなりのエネルギーを浪費していたのだ。消耗した〈気〉は何らかの方法で補充しないと最後にはゼロになって死んでしまう。


彼らは『大周天』という、イメージの世界で宇宙からエネルギーを貰ってくることで補充していたのだ。それをしなかったために身体障害を負ってしまったり早死にしてしまう気功師は大勢いるらしい。このことを知っただけでも命拾いしたと言えた。


会長からは「君は世界に名を残す人だからね!」という言葉を掛けて貰ったのだ。加藤のことを期待してくれているようだった。


会長は、加藤が友達感覚で接してくれるために、とても気に入られており、秘書からは「あんなに嬉しそうにしているのを初めて見た」とまで言われていた。一級コーチとして認められると、宣伝頭のような役割を期待されて講演会までも任されるようになったのだ。


この時期、Googleで『苫〇〇式認定コーチ』と検索すると、真っ先に自分の名前が上がってくるように設定までしてもらったのだ。『苫〇〇式認定コーチ加藤好洋』としての公式サイトでは、会長とのツーショット写真を載せており。「彼の能書き換え能力は直接指導を行った私が保証します」と書き込まれていた。苫〇〇式認定コーチの資格を所持している者は数多くいたが、このような寵愛を受けたのは加藤だけだった。


この頃の加藤は、全国の少年院を回りコーチングを世に広めて行こうともしていたのだ。加藤の情熱を感じ取り、会長自らがFBIから少年犯罪者のデータを取り寄せようともしてくれていたのだ。


最初はどうなることかと不安だったが、「この人の元でなら、本当に世界を変えることが出来るかもしれない!」という期待を抱くようになっていた。しかし、ルー・〇イスのこともあり、会長達から特別扱いされている加藤に嫉妬していた者も現れたのだ……。



加藤と仲間達の講演会後の打ち上げは近くのファミリーレストランで行うことになった。


次の講演会に向けての反省会を行っていたのだが、ふとした思い付きでスマホで『〇〇〇式認定コーチ』公式サイトを見ていた際に加藤は困惑していた。コーチ達の集合写真は加藤が映っているところだけをトリミング加工されて居なかったことにされてしまっている。もちろん何かの手違いの可能性はあるが、コーチ名簿にまで名前が載っていないなんてあり得ない。


「あれ、おかしいな。俺もここで撮影したはずなんだけど、何かトラブルがあったのかな?」


加藤がスマホを見せながら喋ると、その場の誰もが動揺を隠しきれていなかった。


「……以前、加藤さんが講演会で特攻隊の映像を使っていたと思うんですけど、それが原因で『戦争に賛同している』と、誤解を招いてしまったようなんです。それと『■■■■■■』と言いふらしていたと……」


仲間の一人が白状してくる。


加藤は血の気が引くのを感じていた。『■■■■■■』というのは、会長には「()()()()()()()()()()()N()G()()()()」なのだ。


「俺が特攻隊の映像を使ったのは戦争の悲惨さを伝えるため。一部分だけ切り取って悪役扱いするのはマスコミがよく使う手だよ。『■■■■■■』だって、そんな意図で言ったんじゃない。寧ろ褒めるつもりで話したんだよ。他にはどんなことを言いふらしていたんだ?」


「……申し訳ないけど、ちょっと言いにくいことなんです」


「うーん、多分だけど、俺が『女性生徒に術を掛けて奴隷にしていた』とか、そういう類のものだろう? 嘘吐きが力のある者を失脚させるために使うよくある話だよ。裏で言いふらしているのは『D木』だよね?」


加藤の問いに全員が顔を俯かせていた。どうやら図星だったようだ。


「D木」はコーチではなく、一般社員という立ち位置なのだが、一級コーチであるはずの自分を無視したことがあり。それがキッカケで他の者達まで加藤を無視しようとするようになっていたのだ。


実のところ、加藤自身も「D木」から怒りと嫉妬を向けられているのは気が付いていた。加藤が講演会を開催すると満席になることが多いのだが、普通のコーチであれば、せいぜい一人か二人程度である。それも知り合いや友達が来てくれたとかでしかない。こんな()()までもが、アイツの劣等感を刺激してしまったのだろう。


「D木」は権威だけを求める典型的な守銭奴タイプであり、学歴も無いのに、結果を出し続ける加藤のことを疎ましく思っているようだった。目的のためなら手段を選ばないサイコパス的な傾向も伺えた。


「……あの連中が話していたのは、どれも加藤さんには聞かせられないような言葉ばかりだったんです……。申し訳無いんですけど、加藤さんが暴れ出してしまうだろうし……。事態を重く見たので、加藤さんを救うためにと倫理委員会を設立するつもりだったんですよ」


加藤に負けず劣らず、この5人も他者の情報を観ることは得意なのだ。加藤がどのような性質を持っており、どのような怒り方をするのかまで見抜いていたのだろう。秘密裏に解決しようとしていたのが痛いくらいに伝わってくる。


コーチングセッション料金の平均額は半年間で100〜200万円程であり、客が一人でもいれば、それだけでもしばらく生活することが出来るのだが、逆に言えば客が一人でもいなくなると、収入源が大きく減ってしまう。


加藤がコーチング料金を半年間で88万円と、一番安く設定しているのも連中からしてみれば気にくわなかったはずだ。薄々は自分の能力の低さに気が付いているはずだし、誰だって最安値で本物のセッションを受けたいに決まっている。


きっと、他のコーチ達にも「このままでは全ての客を加藤に奪われてしまう!」という恐怖心があったために、意識的にしろ無意識的にしろ、加藤バッシングに賛同してしまったのだろう。



それからも五人は何とか濡れ衣を晴らそうと尽力してくれたのだが、全て徒労に終わってしまっていたようだった。


特に、「加藤が女性生徒に術を用いて性加害をした」という悪評が広まると、周囲もそういう目で見て来る。


それだけでなく「加藤は別の脳科学者のところで学んでいる!」「スピリチュアルを語るなんてインチキだ!」「なんで会長の言う通りやらないんだ!」などの暴言が飛び回っていたのだ。


たしかに、自分は別の指導者である西〇〇郎氏から、異なる流派である『SBT』を学んでいるし、スピリチュアリズムに傾倒しているのも事実だが、それを言うなら会長自身も霊的世界には深い造詣があるし、本人からも直接「相手が変わればそれで良い」と、加藤のやることを肯定している。


そんな自分の足を引っ張るのは、間接的には、会長のことを否定することに繋がるのだが、そこまで深く考えてはいないのだろう。()()()()()()()()()()を持った人間なら、人気のある加藤を使って集客することを選んだのだろうが、アイツは自分の利益しか考えられなかったのだ。


「D木」は「自分たちのやっていることは『正統派』であり、加藤のやっていることは『亜流』である」と線引きをすることで、自分達の客を取られないように守ろうとしているようだった。そして、それに釣られて多くの者達が加藤の元から去っていくことになる。


この時点で「兄貴」と慕ってくれていた者までが離れていってしまい、孤立することになってしまったのだ。ここでは洗脳を用いて指導しているので、お上には逆らえず従ってしまったのだろう。


加藤も頭では「こんな奴らは放っておいて、自分のやるべきことに専念するべきだ」と考えていたのだが、やはり怒りは抑えられなかった。ただ純粋に他者を救いたいだけの自分が、どうして、こんな欲望に塗れた薄汚い連中に足を引っ張られなくてはならないのだ?


加藤は様子見程度にとどめていたが、だんだんと感情を抑えられなくなっていた。


ついには我慢の限界を迎えて、扉を開くと、会場の中に入っていってしまったのだ。


中では勉強会をやっていたようだが、加藤がジッとその背中を睨みつけていると、振り返った数人が怯えたように後ずさっていた。


「……うわっ」


一人が悲鳴に近い声を上げて、飛びのく。加藤が現れたと、その場の空気が凍り付いていた。


「あっ……!」


いつだったか、加藤のことを「兄貴」と呼んで慕っており、いずれはコーチングセッションを受けたいとまで話していた、彼は背を向けると、そのまま逃げるように会場を抜け出してしまった。


「……てめえら、良い度胸してるよな」


加藤が小声でぼそりと呟いただけで青ざめた顔をしている。直接関わっていない者達も、自分に飛び火しないかと動揺しているようだった。空気がマグマのように赤く燃え滾っていた。全員をまとめて叩きのめしたいという暴力衝動が湧き出て来る。


しかし、この怒りを直接ぶつけてしまったら、本当に死なせてしまいかねないからと、制御するのが大変だった。そもそもやろうと思えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだ。ほんの少し悪意と憎悪を吹き込んでやればそれで済むのだから。


そして、壇上にいた会長と目が合ったのだが、その瞬間、心臓に激しい痛みが走った。


加藤が『■■■■■■』というNGワードを講演会で喋っていたという、嘘まで言いふらされてしまったことを思い出していた。


「えっ、私たちだけ……?」


「うっ、苦しい……」


そしてそれは騒ぎに駆け付けた仲間達にまで被害が及んでいるようだった。


加藤は心臓を鷲掴みにされるような激痛で、呼吸も出来なくなってしまっていた。


狙われているのは、あくまでも加藤一人であり、他の者達は、単にとばっちりを受けているだけのようだった。


加藤は泡を吹いて倒れそうになるのを懸命に堪えていた。このままでは死んでしまうからと、その場を離れざるを得なかった。この時点で心拍数は軽く300は超えているだろう。空手の試合でさえもここまで苦しくなったことはない。


会場から抜け出すと、携帯電話を取り出して、震える指でボタンを操作してN先生に発信していた。


〈もしもし、加藤君? どうしたの?〉


加藤は説明をしようにも、声を出すことさえ出来なくなっていた。しかし荒い息遣いだけでも、すぐに異変に気が付いたようだった。


〈……ちょっと待ってて、今すぐに治してあげるから〉


空から清らかな気が降り注いでくるのを感じていた。心臓の痛みが和らいでいき、すぐに回復してくるのを感じていた。


〈加藤君、あなた大丈夫だったの? 凄まじい怒りで、心臓が潰されそうになっていたわよ〉


冷や汗が止まらない。遠隔気功で治してもらわなければ、もう少しで死んでいたことだろう。


「超能力では人を殺すことなど出来ない」という、識者もいたのだが、実際に自分が体験してみて、超能力でも人は殺すことが出来るというのもハッキリと分かった。


この時点で会長との復縁も絶望的だと分かってしまった。


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