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加藤好洋ヒストリー  作者: 亀の子たわし
21/22

『どうぶつのおうち』〈丁稚制度〉の導入

 2017年4月。


 加藤はアルバイトの正式募集を打ち切りボランティアのみを採用。給料の代わりにエネルギーとの物々交換で『丁稚制度』を導入することになった。


 昔の日本では「15歳までに一人前にする。どこへ行っても一人で生きて行ける様な人にする」教育、徒弟制度がごく当たり前に行われていたのだが、これを採用することで人手不足が解消されて、店内に余裕が生まれることになる。


 加藤の講演会に参加して興味を持った者や、高額なコーチングセッション代を支払うことが出来ない者が『どうぶつのおうち』で働きだすことになった。


 丁稚制度では様々な人間が集まり、お店で学んだことで変化があったことなどをSNSで報告するようになるのだが、どれも奇跡だとしか言いようが無い現象ばかりだった。


 特に変化が顕著だったのは、精神安定剤漬けにされてしまいボロボロだった20代前半の男性だった。


 加藤の『電話カウンセリング』を受けた後、毎週日曜日に入ってきたのだが、クスリの影響で痩せすぎて体力が無いために最初のうちは3時間も立っていられなかったのだが、丁稚を繰り返すうちに、一週間、二週間、と経つうちに慣れてきたのか、二ヶ月もすると別人のような動きになっていたのだ。これには誰もが驚かされる。スタッフ達が鶏の世話を教えていたようだが、すっかり慣れたものだった。


 彼はニワトリを捕まえると、太ももと胴体の間にあるツボを指で刺激してリラックスさせる。こうすることで、血行を良くして体調が安定する。このリラックス状態を『ヘブン状態』と呼んでいた。相手の呼吸に合わせて、こちらがさらに深い呼吸をして落ち着いた精神状態を同調させる、『パッシブ・ハーモナイゼーション』というテクニックまでも使いこなした。


 ニワトリは体調を崩すとトサカが硬くなり傾いてしまったり、青紫色になることがある。血行状態が悪化しているサインであり、病気を防ぐためにもマッサージを行う必要があるので定期的に行っていた。最初の頃は「暴れるから怖い」と触ることも出来なかったが、いつの間にか自分から可愛がるようになっていたのだ。


 そして、スタッフ達の心にも少しずつではあるのだが「動物を思いやる」という意識が芽生え始める。


 憑依現象に振り回されて、「心の成長」がおざなりになっていたのだが、ようやく落ち着いて動物達を可愛がるようになったのだ。


 そして黒いロップイヤーのウサギが貰われていくことになった。


 どんな飼い主になるのだろうかと心配だったが、優しそうな雰囲気の女性だったので安心する。


 購入手続きをしていたのだが、突然、それを見ていたスタッフ達が涙を流し始める。


 手塩に掛けて育てて来た動物が自分の手元から離れていくのが寂しいのだろう。


 ここ最近は動物が貰われていくと涙ながらに送り出すことが増えた。


 事情を分かっておらず、困惑している丁稚に伝えてみる。


「あの子はシンデレラストーリーだったんだよ。最初ここに来たときは毛むくじゃらで、浮浪者みたいだったからね」


 加藤の言葉で丁稚の彼は微笑んだ。


 加藤の動物に対する想いが伝わった瞬間だった。


 *


 閉店後の打ち上げで、ファミレスで加藤が行ったのは、コップの中の炭酸水が情報を書き換えることによって、味が変わるというものだった。


「うわっ、甘いです!」


 コップの水を飲んだ野木が驚いた声を上げていた。


 加藤はイメージの世界で水の中にガムシロップを入れたのだ。やろうと、思えば、メロン味や、コーラ味、カルピス味、果てはオロナミンC味にすることも出来た。コップに手を添えて念じただけで、ただの(H2O)の味が変わる。


 その超能力から、加藤は周囲から『書き換え職人』と呼ばれていたこともある。


 どんな生徒も一番目を輝かせるのが超能力についてだった。そもそも日本人はみんな超能力者だったのだから惹かれるのも当然なのだろう。自分自身のエネルギーを分け与えることで病気を癒すことも出来ることを教えていた。髙田や土田にも指導したのだが、加藤ほどでは無いにせよ、似たようなことが出来るようになったのだ。


 丁稚制度を採用してから、『どうぶつのおうち』に関わった生徒達が次から次へと奇跡体験をするようになる。


 そして、それをSNSで報告してくれるのが何よりも嬉しかった。


 土田の場合、共感覚によって対象者の感情や状態を図形として捉えることが出来るようになった。


 ニートだった野田はコーチングセッションと丁稚での経験から介護施設に就労。高額なセッション料、ファミレス代までも受け持つようになり、加藤はその成長を父親のような目線で見守っていた。


 髙田はパワーストーンに興味を持ち始めて、それを発売するためイベントに出向いているらしく、閉店後もビジネスの勉強を続けているようだった。


 あるいは『どうぶつのおうち』の公式サイトを立ち上げる者が現れる。その男性は髙田のパワーストーン事業を手伝うため、カメラ撮影・動画編集までもを修行し始めた。


 ある女性生徒は引きこもりがちだったにもかかわらず、毎週末に九州からこちらに通うようになり、寝泊まりしながら作業を手伝うようになった。さらには芸術的な才能があったために、店内のPOPを担当することになった。彼女の絵を見ただけで涙を流すようになるほどだった。


 ある者に関しては、当初、漢字の読み書きが出来なかったのだが、コーチングセッションを受け続けるうちに、徐々に文章を書けるようになり、部分的に『どうぶつのおうちブログ』を手伝うようになった。


 九州地方で働いている生徒が、加藤のコーチングセッションを受けた結果、職場の5段階中の評価で『6()』を出すという快挙をやり遂げる。生まれてから一度も県外に出たことも無い引きこもり状態だったのだが、一人で新幹線に乗って都心に遊びに来れるようになったらしく、加藤に憧れて京都へ引っ越すことを検討しているようだった。


 あるいは、精神安定剤によるクスリ漬けでボロボロになっていた生徒が『どうぶつのおうち』に丁稚として通うことになってから禁断症状が起きることも無く断薬に成功。彼もまた、京都へ引っ越すべく、準備を着々と進めているようだった。本来ならば津波で流されて死ぬ場所に住んでいたが、『神の家』があるうちなら大丈夫だと確信する。


 ある女性は加藤のことを応援したいからと、関西地方で自ら講演会を開き、世間一般では『陰謀論』として片付けられてしまうことを発信することで、多くの人間に『加藤好洋』を宣伝することに成功。結果的に多くの人間を救うことになった。


 それぞれが、自分の才能を発揮していくことになる。


 あるいは、出来なかったことが出来るようになっていく。


 地震・津波で死ぬはずだった者が命を救われることになる。


 加藤のことを宣伝することで他者の命を救うようになる。


 それに伴い、人生そのものが変化していく。


 生徒達は超能力を身に着けただけではなく、地に足の着いた、社会生活を送れるようになっていた。


 更にはボランティアに来た丁稚の者達がUFOや、ゾロ目だらけのナンバープレートを目撃するようになったりと、様々な奇跡体験をするようになっており、自分達で鍋料理を作る楽しそうな姿や、カラオケで盛り上がっている様子がSNSに投稿されている。


『どうぶつのおうち』が閉店した後、近所のファミレスに集まった生徒達が、今後の日本や、加藤が伝えてきたことを話し合っているようだった。


 加藤も知らない間に、あれだけコミュニケーションが苦手だったはずの生徒達が笑顔で過ごしている。


 これだけ絶望的な未来が待っているのに、和気あいあいとした雰囲気に嬉しくなる。


 今この瞬間だけは幸せだった。


 加藤は『悪魔』『神』『オカルト』を題材にしたことで、脳科学セミナー時代の人間とは疎遠になってしまったが、新しい仲間達に恵まれることになった。自分のやってきたことが正しかったのだと報われたような気持ちになる。


 そして廣瀬から送られてきた写真に驚くことになる。土田がミーアキャットを抱きしめている写真だったのだ。この子だけは絶対に懐かないと諦めていたので、これには驚かされた。


 加藤自身がエネルギーを込めて創ったお店なので、コーチングセッションと同じくらいの結果も出るはずだと予想してたが、生徒達は完全にそれを上回ってきたのだ。


 ここ数カ月は店の経営があまりにも苦しく、「生きることが面倒だ」とさえ思う程だった。


 もう無理だと、諦めそうになったことが何度もあった。


 次々と死んでいく動物達。犯罪行為をやらかす『七つの大罪』エージェント。憑依現象に苦しむスタッフ達。体力的にも、精神的にも、金銭的にも、絶望的な状況に追い込まれていたのだが、彼らの喜ぶ姿を見ていると、「もう少しだけ、この店を続けて行きたい」という想いが生まれる。


 そんな好転の兆しを見せる中、新たなサイコパスが派遣されてくるのだった……。


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