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加藤好洋ヒストリー  作者: 亀の子たわし
19/21

『どうぶつのおうち』七つの大罪〈怠惰〉………… 労働を否定し、自堕落かつ、無感動な生活を求めること。 〈嫉妬〉……他人の美点や成功をうらやみ、相手の不幸を願う事。

 加藤の予言通り、スタッフが次々と憑依されていくことになった。


 最初に憑依されたのは土田だった。彼には「他人を巻き込む」という性質があり、それは良いことに使えば、周りの人達を引っ張っていくことが出来るのだが、悪い方にも影響を及ぼしやすい。


 彼自身の罪は『怠惰』であるために、客が来れば忙しくなってしまうのが面倒くさいからと、店全体に〈シールド〉を貼って認識を阻害させてしまったのだ……。


 加藤と廣瀬だけが『どうぶつのおうち』にいる時は、お客様が入ってくるし、「タダでも良いから働かせてください!」などとお願いされるのに、土田がいると客入りがゼロになる。


 憑依された土田はブログを更新することさえもサボっており、体調を崩して自宅に引きこもるという状態。加藤や廣瀬が何度も連絡したが、逃げ回っているようだった。


 もう一方のスタッフ髙田も『怠惰』を抱えているが、こちらは憑依されると、鍵や飼育ケージを開きっぱなしにするなど、注意力が散漫になることがあった。餌や水が入った皿がひっくり返ったままで、翌朝、別のスタッフから苦情が入る。


 そして、態度や言葉遣いが荒っぽくなる。髙田は加藤のことを慕っているし、仕事を辞めてまで、こちらに引っ越してくる程だったのであり得ないはず。


 憑依された場合、ヒステリックに目が吊り上がるか、表情全体が弛緩するかのどちらかが多く、観察していると表情だけで見抜ける。


 加藤は悪魔を祓った後、ファミレスで二人に事情を聴いてみることにした。


「君達、二人とも、自分が憑依されていることに、気付いていなかったでしょ?」


「……全然、気付かなかったです」


 この日も動物の飼育を巡って、二人が喧嘩を始めたのだ。もし加藤が介入しなかったら、激しく罵りあっていただろう。二人ともプライドが高いので、どちらかが潰れるまでやり続けたはず。


 髙田の怠慢を、土田が怒っていたようなのだが、本人も気が付かないうちに、感情が()()()()()()のだろう。悪魔は土田の中にある『嫉妬』の罪までもを的確に刺激しているようだった。


 この『嫉妬』はコーチングセッションで加藤が指摘したこともある心理的な弱点だったのだが、土田は気が付かないままに、天才肌で能力が高く、家柄も裕福な髙田に感情をぶつけてしまったのだ。


 加藤も悪魔も同じ弱点を見抜いていたことになる。一つ違うとしたら、正しい者に導かれるのか、いかがわしいモノに堕落させられていくのかだけなのだろう。


「君達は俺のことを『敵』だと言って、メッセージも全部無視して逃げ回っていたんだよ。あのままだったらどうなっていたと思う? 俺がいて良かっただろ?」


「…………」


 二人はバツの悪さから、黙り込んでしまっていた。


 まさか、こんなに簡単に憑依されるとは思わなかったのだろう。


 加藤はスタッフ達に関しては、すぐに『祓う』ことはせず、敢えて体験させてみることにした。


 もしかしたら、自分で脱することができるのではないかと考えたからだった。危険になってきたタイミングで『祓う』というトライアンドエラーを繰り返してみたが、そもそも憑依されていることにすら気が付かないので、自力での解決は完全に不可能だと判断した。


 悪魔に憑依された者は、加藤から逃げることが多い。明らかに悪魔側が祓われないようにと、()()を操って避けようとしている。


 憑依中の記憶は曖昧で、あのままだったら、「自分でも気付かないまま事件を起こしていた」なんてこともあったはずだ……。


 加藤が『祓い』を行うと一瞬で終わるが、普通の霊能力者なら対処しきれず命を落としたことだろう。


 悪魔はそれだけ強力な瘴気を発しており、普通の人間が吸っただけで、死に至るほどに強烈なのだから……。


 *


 日に日に、憑依現象が増えている……。


 街中を見回してみると、明らかに、性欲や、暴力衝動をコントロールできなくなっている者が大勢いる。そして、()()()()()()()()()()()()()もいた。


 意志の無い者、心が弱い者、欲望に振り回されやすい者、攻撃性の強い者、罪悪感の無い者、そういった人間達を狙って、悪魔達があちこちをうろついている。


 情緒不安定になってスマホに向けて怒鳴り散らすOL。死んだような目をした中年男性は心が虚無で覆われており「もう、何もしたくない……」と石化状態。塾帰りと思われる少年は陰湿な笑みを浮かべている、動物を虐待しているのかもしれない。


 電車内では悪魔に憑依されたサラリーマンと遭遇。目玉だけをギョロギョロさせて、獲物を求めて探している。性衝動と残虐性が結びついてしまっており、すでに誰かを手に掛けてしまっていることが分かった。


 加藤はこのサラリーマンのことをこっそりとスマホで撮影したのだが、目の向きだけが毎日変わる心霊写真と化したのだ。写真フォルダから画像情報を確認したがキロバイト数には何の変化も見られなかった。物理次元では説明することの出来ない現象。あまりにも出来過ぎていてヤラセだと思われるかもしれない。


 この頃、マスメディアでは相〇原障害者施設殺傷事件が報道されたり、メキシコでは治安が悪化して、ギャングによる虐殺映像が出回るようになったが、これもまた悪魔が関与しているのだろう。加害者本人達は、そこに他者の意図が働いていることに全く気が付いていない……。


 この時期の加藤は、既存の脳科学では限界があると感じ、講演会の内容も「能力開発セミナー」から「悪魔に憑りつかれない方法」にシフト。


『どうぶつのおうち』で起きた、悪魔絡みの事件を題材にしたが、脳科学分野から一転、霊的世界(スピリチュアル)に傾するようになった加藤を避け始めたのだ。彼らは、裏で「怪しい」と噂しており、加藤との関係を隠すようになってしまったという。


 講演会の応募者も、ほとんどが新規の者に移り変わるようになり、先程のセミナーに至っては、既存の知り合いは誰もいなかった。人間が簡単に裏切るのは知っていたが、やはりショックを受ける。


 加藤から離れていった者達に廣瀬がため息を付いた。


「私達のやってることは『怪しい』だとか、『陰謀論者』あるいは『カルト』だと思われているようですね。でも、まさか、一般の人達はコンビニにある『ムー』に書かれていることが真実だなんて思わないでしょうし……」


「大抵の日本人が宗教に過剰な拒絶反応示すのも、()()からしたら都合が良いからだよ。講演会でも話したけど、『陰謀論者』という言葉を作ったのもCIAなんだよ。天才的なネーミングセンスだよね。みんなそれにまんまと嵌っているんだから」


 海外の名門大学出身の苫〇地英〇会長でさえ、科学的根拠に基づいた脳科学セミナーを開催したのに「怪しい」だとか「胡散臭い」と言われてきたことを思い出す。まして、自分達は目に見えない世界を扱っているので、当然なのかもしれない。


「皆が悪魔の存在を知らないことには、そもそも、防ぎようが無いからやっているんだけどね。俺は人を救おうとしているけど、その人にとって一番大切なのが『世間体』だとしたら、救えないよね」


「それにしても、今回のキャンセル率は凄まじいですよね……」


 参加者の12人中、5人がキャンセルするという異常事態が起きた。こんなことは経験上あり得ない。


 幸い、参加者の一人が知り合い達に声を掛けるという機転により、欠席者の穴を埋めることが出来たのだが、やはり、悪魔が参加させないように誘導しているのが分かった。


『どうぶつのおうち』スタッフにも〈妨害〉が来ており、土田は引き留めようとしてくる、母親からの過干渉に耐えながら、こっちにやって来たのだという。


 あるいは加藤の元に行こうとすると、地元の友人が邪魔してくるために、着信拒否にしてまでこちらにやってきた生徒もいたのだ。


 悪魔が無意識に働き掛けていることで、変化・成長させないように妨害しているのだろう。それに引っ掛かり、流されてしまう者が4割程もいる。せっかく救ってあげようとしているのに、もしかしたら、二度と会うことさえ無いのかもしれない。残念だが仕方のないことだろう……。


「今更、キャンセルした理由をメッセージで送って来た人がいるんですけど、『キャリーバッグのタイヤが壊れてしまったから』だったそうなんですよ。確かにカバンは重たいのだろうけど、こんなことでドタキャンするなんて……」


 その理由に廣瀬は驚いているようだった。


「君たちだって同じだよ、悪魔の誘いには、みんな驚くほど素直に従うからね」


 講演会を行う中でも、憑依現象が絶えず起こっていたのだ。


 今朝も『どうぶつのおうち』でスタッフが憑依されてしまい、休憩室で仮眠を取った別のスタッフが幽体離脱するという報告を受けた。異変を感じた別のスタッフは最寄りの駅に着いた瞬間、異変を察知、Uターンして帰ろうか迷う程だったという。


 すぐに対処して事なきを得たが、もし自分がいなかったら、最悪死者が出ていたかもしれない。生徒達に何かあったらと思うとゾッとする。


 スタッフ達が次々と憑依される中、唯一、悪魔に憑依されなかったのは、野田だった。


 みんなから「のび太さん」と言われるほどに『怠惰』の罪を抱えているものの、他人へ直接攻撃することは無く、何よりも「寝ることが好き」というタイプ。


 そのために悪魔からは「コイツに憑依しても、本人がサボるだけで、店側には大したダメージを与えることが出来ない」と判断されたのだろう。


 このことからも、悪魔は「いかに少ない労力で、効率良く、最大のダメージを与えられるか?」という、合理的観点から憑依する相手を選んでいることが伺えた。老獪さ、狡猾さこそが、悪魔の真骨頂。悪魔は優秀な臨床心理士でもあり、策士家でもあるのだ。


 加藤の生徒達に起こる出来事は、『雛形』として世界全体に当て嵌まることが多い。『どうぶつのおうち』に現れた憑依者達も、今後の日本の行く末を示唆していたのだろう。


 この世界で唯一、悪魔に対処できるのは自分だけしかいないと確信。この頃から『悪魔祓い師』として本格的な活動を始めることとなる……。

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