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加藤好洋ヒストリー  作者: 亀の子たわし
17/22

『どうぶつのおうち』七つの大罪〈憤怒〉…………怒りに身を任せて行動すること。前編

 2017年1月頃。


 体調を崩して、辞退した廣瀬の代わりにやってきたのは、苫〇地派である中田という40代の女。どちらかといえば痩せ型でヒステリック。男性性が強いタイプであり、ほんのちょっとしたことでマウントを取ろうとする悪癖もある。


 しかし、生徒達の中では、唯一、管理職を経験しており、店長をやることへの適性があるはずだった。


 加藤はスタッフ達に紹介させるために、『どうぶつのおうち』店内に案内したが、不愛想なまま。


「……」


 先輩である髙田や土田にも、ロクに挨拶する様子も無かった。初対面からこの調子では、どう指導したら良いのか迷ってしまう。


 そして、彼女が『どうぶつのおうち』店内に足を踏み入れた瞬間、鳥達が一斉に騒ぎ立て、ケージが揺れるほど暴れ出す。すべてのインコ達がパニックを起こしており、それにつられて、動物達が騒ぎ出し、店内全体が騒めく。


「うわっ」


 土田が驚きの声を上げた。水鳥コーナーの方から激しい物音。カピバラが走り回って大暴れしているのだ。普段のカピバラは人懐っこく、人を怖がることが無いのだが、中田を見た瞬間から、凄まじい形相で逃げ出そうとして、強引に冊を乗り越えようとしているのだ。


 すぐに原因を察知した加藤は、中田のことを店の外に出すように誘導する。荒立った動物達を宥めるのに、優しい気を送るが、それでも収まることは無かった。


 カピバラは柵を無理に登ろうとした結果、爪が捲れてしまうという怪我までしたのだ。


 髙田と土田の二人は「本当にこの人が店長で大丈夫なのか?」という表情をしていた。


 ✳︎


「この前の課題やってきた? 自分の中にある、『善意の言葉』と『悪意の言葉』を確かめるというワーク」


「……うーん、やってきたんですけど、悪意の方は大体90%くらいですかね?」


「90%、ね……」


 これはコーチング中の会話だったのだが、この発言だけでも、彼女がどういう存在なのか分かってしまう。


 本人は90%だけと話しているが、それは自己申告であり、実際にはほぼ100%他人への悪意と憎悪、そして『憤怒』のみで埋め尽くされている。


 勤務中はスマホでSNSを眺めている始末。作業はほとんどやらなかったし、お願いしていた店の宣伝さえ、ロクにやってくれなかった。


 中田が来てから、『どうぶつのおうち』では、店内にいる動物が大量に死んでしまう現象が続いていた。彼女の中にある瘴気に触れてしまい、生命力を失ったのだろう。


 中田は他のスタッフ達が忙しそうにしていても、無関心を決め込んでいる。これを見かねた加藤が促すと、仕方なくといった感じで、鶏の死骸を片付け始めるのだが、その目付きはゴミを見るかのように冷め切っている。


 スタッフ達は、何もしてくれない中田を相手に距離を置いているだけだった……。


 *


 2017年2月末頃。


 オカルト界隈では知らないものはいないほど有名なムック本があるのだが、公式サイトでは『竹〇睦〇』という人物の専門チャンネルが開催されている。


 加藤自身も、スピリチュアル系の知識を求めているので繰り返し見ていた。この竹〇睦〇氏を主催としたバスツアーが開催されており、参加者を募集しているのを発見。


『どうぶつのおうち』で忙しかったのだが、加藤と廣瀬はバスツアーに参加することになった。


 当日は茨城県へのバスツアーとなった。


 バスの中では、竹〇睦〇氏による『正統竹〇文書』の講義が始まる。


『竹〇文書』とは「日本の天皇の祖先が地球に降り立ってからの世界最古の歴史を記した」と言われている文章である。


 竹〇巨麿が1910年代ごろ公開した、『茨城系竹〇文書』は、当時の時代背景もあり、偽書認定されてしまっており、著者本人も投獄されてしまっている。


 竹〇睦〇氏は自らを『第73代武〇宿禰』だと自称しており、「竹〇巨麿は正統な竹〇家の人間ではなく、竹〇家で交わされていた雑談をまとめたものを『茨城系竹〇文書』として公開されただけで、正式な『竹〇文書』では無い」と主張。


『茨城系竹〇文書』が偽書認定されてしまっていること、世間に間違った情報が広まってしまったことに、憤りを感じたために、周囲の猛反対を押し切ってまで、『正統竹〇文書』を公表することにしたのだという。


 日本の神話である『古事記』は、それだけではわかりにくい部分が多いが、『正統竹〇文書』と照らし合わせることによって解明できるようになった。それまでの常識を根底から覆すような内容が満載。


『古事記』では『イザナミ』や『イザナギ』あるいは『アマテラス』などの神々が登場するが、これは神そのものではなく、役職・組織のことを指しており、科学的視点で見ても、納得のいく説明が多い。


 主祭神である『武〇宿禰』もまた、第十二代・景行天皇から第十六代・仁徳天皇まで五代にわたり政務を補佐したと伝えられる忠臣・大臣であり、 300歳を超える人物だと言われているが、実際には、代々竹〇家の人間が、知識・性格などを口伝によって受け継ぎ、さも同一人物であるかのように演じてきたのだという。竹〇睦〇氏が『73代目』を自称しているのも彼自身がリレーをつなげてきたから。


 また、竹〇睦〇氏によると、世間に『正統竹〇文書』を公開するという役目を果たしたために、これから先、後継者が現れることは無いのだという。


 その解説に、誰もが驚いたような声を出していた。


 これらの情報は歴史的に見ても、大変価値のあるものなのだが、竹〇氏は酒で酔っ払うと、公の場では明かせないような秘密情報をポロッと話してしまうために、隣にいる秘書から怒られることが多いのだという。そればかりか、酔った勢いで動画配信まで行うことさえあったのだ。


 そして、それは、今回の食事会でも同じことだった。


 食事会では、多くの参加者と楽しく話している。


 竹〇睦〇氏は好物の酒が入ったからと、上機嫌で参加者達に話し回っており、話しかけられた人達はみんな自然と笑顔になっていた。


 竹〇睦〇氏の情に厚く、義理堅い、こういった人柄に加藤自身も、惹かれているのも事実だった。


 そんな彼が、突然、加藤の隣に座ってきた。これは千載一遇のチャンスだと思い、加藤は『どうぶつのおうち』で起きた殺戮事件を説明することにした。


「ああ、それはルシファーだよ!」


「ルシファーって、あの悪魔のことですか?」


 予想外の返答に驚いてしまう。


 悪魔というのは、西洋思想であるという認識だったので、生粋の日本人であるはずの、竹〇氏からそんなキーワードが出て来るとは思わなかった。


「魔界とこの世には、結界が張ってあって、強い悪魔は潜り抜けることが出来ず、弱い悪魔しか入ってこれないようになっているんだけど、その封印が、平成の年号が切り替わる瞬間に解かれるんだよ。そして悪魔の親玉であるルシファーが完全に復活するんだ」


 加藤自身も講演会で、悪魔崇拝者達の存在やルーツを語ってきたが、()()()()()()が、本当に存在するとは考えていなかった。


 にわかには信じがたい話ではあるが、『どうぶつのおうち』に現れたのは、地縛霊や残留思念とは比べ物にならない程の瘴気を放つ得体の知れないモノなので「悪魔の仕業である」という回答にはむしろ納得してしまう。


「でも、これから良くなる気がするよ!」


 その一言で加藤の中で不安感が落ち着いていくのを感じていた。


 きっと彼の言葉通り、安定していくのだろう。


 席の隅っこにいる廣瀬に、加藤は「せっかくだし、聞きたいことがあったら、質問してみたら?」とアドバイスしてみた。


 廣瀬はおそるおそる近寄ると、意を決したように、話し始めた。


「キリスト教などでは占いは悪魔と繋がる、ということで禁止されていたようなのですが、どう思いますか? 人のためとはいえ、占いをすることは良いことなのでしょうか?」


 加藤とのセッション中にも話していたが、占い師としての在り方に迷いがあるようだった。


「人に喜ばれる事ならどんどんやってイイと思いますよ! そういう僕も射手座なんだよね!」


 その言葉に廣瀬の顔が晴れやかになる。『どうぶつのおうち』での惨劇で気が滅入っていたので、彼のアドバイスは心強かったようだった。迷いも吹っ切れたのだろう。


 廣瀬によって、加藤と竹〇睦〇氏はツーショットの写真を撮ることになった。


 竹〇睦〇氏とは、本当はもっと話してみたかったのだが、他の参加者達とも楽しそうに話していたので、遠目から眺めることにする。


「お店のことも忙しいし、このタイミングでバスツアーに行くなんて……と思ってたけど、まさか、こんな収穫があるだなんて……」


「今回、バスツアーに参加したいと思った衝動も、きっと偶然などではなく、この情報を受け取るためだったんだよ」


 *


 バスツアー参加後、加藤は、悪魔の姿を視認するようになった。


 最初は黒いモヤ程度だったが、次第にハッキリとした輪郭が視えるようになる。悪魔達は黒色を基調に、コウモリや、爬虫類、昆虫を混ぜ合わせたような不気味な容貌。


 一度見えるようになると、逆に何故それが見えなかったのだろうと疑問になるほど、強烈な負のエネルギーを放っており、それが明らかな悪意を持って、能動的に動き回っているのだ。


『どうぶつのおうち』では、新店長である中田にバフォメットのようなバケモノが憑りついており、彼女の中にある、怒りや憎悪といったネガティブな感情を強化するように働き掛けているようだ。


 この世界には「霊的な存在が現れた場合、その人の中にあるイメージが反映された姿として現れる」というルールがある。以前、気功の師匠達が、江ノ島の神社で「龍が見える」と空を指さしていたことがあるが、師匠達全員が同じ姿形の龍を見ていた訳ではなく、文化や環境の違いから、全く違う姿に見えていたはずだ。


 今、目の前にいる、悪魔のグロテスクな造形も、加藤自身が幼い頃から見てきた『デビルマン』の影響があるようだった。きっと、「ゲルマー」や「ジンメン」あるいは「サイコジェニー」などのデザインが反映されているのだろう。


 ただ姿形が見えるようになっただけではなく、悪魔達が「何をしようとしているのか?」までも予想が付くようになってきた。


 悪魔は動物を一思いには殺さず怪我や病気程度に留めておくパターンも多い。加藤が高額な治療費やエネルギーを注ぎ込んで、回復しそうになった頃合いを見計らって死なせるので、「あれだけ頑張ったのに、命を落としてしまった」と、激しく落ち込む羽目になる。


 ただ殺されるよりも、「救えるかもしれない」と、一度希望を見せられてから命を奪われた方が精神的ダメージが大きい。人間はどんな場合においても「感情を上下に揺さぶられる」ということに弱く、加藤とて例外では無いのだ。


 あるいは動物達の看病によって、スタッフ同士が責任を押し付け合い、争いを誘発させることも狙っているようだった。以前の土田と髙田は、二人でドライブに行くほど仲が良かったのだが、今ではすっかり仲違いしている。


 脳科学セミナー、ルー・〇イス、『TPIE』の時もそうだったが、組織に入って、内側から破壊するという手口は、悪魔の常套手段である。『どうぶつのおうち』で言えば『色欲』と『強欲』をつかさどるサイコパスがその役割を担っているのだ。


 今まで、不可思議な心霊現象に悩まされてきたが、奇しくも、それは、加藤が脳科学セミナーで学んできた心理テクニックに酷似している。そして、それを見破ることが出来る自分自身もまた同じ『闇』を抱えているのだろう。この頃には「刑事の勘」のようなものさえ働くようになった。


 そして、店の中で動物に乗り移ろうとしている悪魔に向けて、試しに手をかざして祓ってみると、悪魔が逃げ出していくのが分かった。


 そして、あの()()()()()()()()()()()()がするのだ。いつだったか、除霊の現場で嗅いだことがある臭気。硫黄の臭いは古くから「地獄」を表すと言われているが、あながち間違いでもないのだろう。


 かつて師匠から「あなたは闇の住人なのよ」と言われたこと。


 今までの人生で体験してきたことの全てが繋がっていく……。


 ()()()()()()()()()()という確信を抱くようになった。


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