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加藤好洋ヒストリー  作者: 亀の子たわし
11/22

『どうぶつのおうち』神の家……開店前

2016年1月頃。


「動物との触れ合いをコンセプトにしたペットショップを創る」という計画は、衝動的に思い浮かんだものだった。


コーチングセッションを受けた生徒達も、加藤がペットショップを開設して、スタッフを募集しているということで、かなりの注目や期待を受けているらしい。


スタッフとして加入したばかりの廣瀬も動物好きであるために、子供のようにはしゃいでいるようだった。


「裏世界の連中は、日本人を根絶やしにするために、まずは若い世代の者から徴兵制度で死なせたいはず。それを防ぐためには、生徒達を一般社会人として通用するレベルにまで持っていくこと。支配者層にとっての優秀な奴隷になるしかない。俺の生徒には社会経験が少ない者が多いし、仕事を学べる場所を創りたいと思っていたんだ」


「でも、どうして、ペットショップなんですか?」


「動物相手なら『心』や『責任感』が育つからだよ。安全地帯に引っ越しすれば、大震災、津波、ホットスポットによる被爆からは逃げ切れるし、偽装結婚すれば徴兵制度からは逃れられるのだろうけど、もう一つ考えていたのは『空中携挙』だった」


「……空中携挙って?」


聞きなれない言葉に、廣瀬は首を傾げていた。


「医療暴露本や、『買ってはいけないシリーズ』を書いた、船〇俊〇さんは、企業から派遣された殺し屋に命を狙われてしまったことがあるんだけど、別の次元に隠されていたから、殺し屋が来たことにさえ気が付かなかったんだ。あの人は俺と同じように、実の娘をワ〇〇ン接種によって、亡くしているという過去がある。その活動を本気でやっていたから天からの守護が入ったんだよ。つまりは()()()されたからなんだ」


「……つまり、動物のお世話をすることで、他人を想いやれる心が育てば、救われるということですか?」


「その通り。『空中携挙』される条件は、心の成長を遂げること。ようするに()()()()()()()()()()()()()なんだ。人間って可愛くないけど、動物なら可愛がれるだろ? 人間の脳内では、他者に優しくしたり、優しくされた時に『ベータエンドルフィン』を分泌するんだけど、これはドーパミンの数百倍の快楽を伴うと呼ばれており『神の物質』とさえ呼ばれているんだ。そういった状態になれれば『上』から見つけてもらいやすくなるはずなんだよ」


「まさか、天変地異から逃れる方法が、神隠しだなんて、驚きです……」


「物理的な次元では解決出来るはずがないからね。機会があれば、俺が直接気功の使い方をレクチャーしようとも思っていたんだ。今後『癒す力』が必ず必要になってくる。これからお店を開店するために、廣瀬には『第一種動物取扱業』を取得して欲しいんだ。動物を取り扱う店舗には必須資格だからね」


「ええと、その資格試験を私が受けるということですか? 今から勉強して? もし落ちてしまったら?」


彼女は今にもプレッシャーに押し潰されそうになっている。


「大丈夫、俺がやれというからには、()()()()()ということでもあるんだよ」


加藤のその言葉を受けても、やはり、緊張は解けなかったようだ。


しかし、加藤には絶対的な確信があったし、お店が開店するのは決まっていることなのだ。



それぞれが開店へ向けて動き出していた。


加藤は出店場所をあちこち探し回ってみたのだが、国道沿いに、好条件の空テナントがあった。立地も良いし、視界にも入りやすい。不動産屋にも相談してみたが、経営に関してOKを貰うことが出来た。ここでなら十分やっていくことができるし、同ビルの202号室を借りれば、スタッフ達が寝泊まりしたり、物資を置くことができそうだ。


店を経営するのに必要な従業員スタッフだが、これに関しては生徒達の中で、やる気がある者を採用することにしていた。コーチングセッションを通して、信頼関係も結ばれているから安心していた。


髙田という20代半ばの生徒に関しては「今のつまらない会社を辞めたかったし、丁度いい口実が出来た」という、()()もあるのだろうが、加藤への信頼は人一倍大きく、能力も高いので安定している。お店でも活躍してくれることだろう。


この頃の加藤は、一般的なマンションの一室を事務所として使っていたが、動物まみれになっていた。


ニワトリだけでも、冬場に強いポーリッシュ、絶滅危惧種の天草大王(あまくさだいおう)、高級卵で有名な烏骨鶏(うこっけい)、水色の卵を生み出すアローカナなど、数多くの種類を揃えるつもりだった。


「でも、ニワトリをこんなに沢山仕入れても、作業が大変になると思うんですけど……」


廣瀬をはじめとしたスタッフ達は、苦言を呈していた。おそらく彼らは、犬猫などの、可愛い動物だけを考えていたのだろう。


「お前ら、極限状態になった時、この子たちがどんな恩恵を与えてくれるのか、分かっているのか?」


最終的な移住先予定である京都は、その昔、内陸の地であるために、魚類が得られず、深刻なタンパク質不足に悩まされていたのだという。だからこそ、ニワトリを育てることで、玉子を得ることが出来れば、飢餓感も凌ぐことが出来ると考えていたのだ。だからこそ「ペットとして普及させたい」という想いがあったのだ。


ちなみに、海外には『プレッパー』と呼ばれる人達がいるらしく、これは「prepare(準備する、備える)」に由来しており、自然災害や経済恐慌などに対処するため、生存術や物資の備蓄、避難訓練などに日常的に取り組んでいるらしい。政府や自治体の支援を当てにせず、自力で生き延びることを信条としているようだが、彼らはニワトリをペットとして飼育することが多いのだと言う。


この時点で、加藤は時代を先取りしていたことになるのだが、「鶏たちの鳴き声がうるさい」と近所からは苦情が来るし、クチバシで突かれたり、蹴られたりするから、あまり評判は良くなかった。


夜遅くまで、加藤と廣瀬が今後のことを話し合っていると、激しい物音が聞こえてくる。てっきり強盗でも入ってきたのかという騒がしさだった。次いで、金網が倒れるような音が鳴り響いた。明らかに動物が暴れ回っている様子だった。


壁越しから、鳥達の甲高い悲鳴が聞こえてくる。それも、だんだんと大きく、騒がしくなってくるので、廣瀬が青い顔をしていた。


「何かあったんでしょうか?」


嫌な予感がする。


加藤がドアを開けた瞬間、錆びた血の匂いが立ち込めていた。そして糞尿の臭い。アンモニアと臓器の混じった不快な臭気。


白い羽毛が赤い血で染まっている。


まゆみの身体には血の斑点が付いていたが、本人のものではなく、返り血を浴びたようだった。


非現実的な光景に、最初はクッションでも破かれたのかと思った。あるいはダウンジャケットの綿が飛び出しただけだろうとも。でも、あちこちに散乱した羽、内臓、引きちぎれた足などが飛び散っていた。食らいついてから、首をぶんぶんと振り回したのかもしれない。


小さなインコの体に、グレートデンの巨体が襲い掛かったのだから、ひとたまりもなかったのだろう。床には、肉球でできた血の足跡が続いており、目で追っていくと、それはまゆみへと到達する。首輪に繋げて、柵に入れていたのだが、ケージを飛び出してしまったらしい。


まゆみは加藤に対して、姿勢を低くして飛びかかろうとする臨戦態勢を取っていた、歯を剥き出しにして唸りながら、こちらを威嚇してくる。そして、普段、あれだけ懐いているはずの加藤にまで襲い掛かかってきたのだ。


「まゆみっ!」


とても素手ではまゆみが暴れるのを止めることができなかった。なにしろ、下手な成人男性よりも大きな犬が大暴れしているのだ。一瞬、頭の中に、ケージを担いで、殴り倒す映像が浮かんでくる。そうでもしないと止めることなど出来ないだろう。


「落ち着けっ!」


加藤はまゆみが店外へ逃げそうになるのを防ぐためにドアを閉めていた。これによって、加藤自身も完全な袋小路に追い込まれてしまうし、暴れ狂っているまゆみと対峙することになるが、まゆみが逃げ出してしまった場合、通りすがりの人間を襲う可能性さえあるから、それだけは防がないといけない。


加藤は、牙を防ぐために大判のタオルを被せると、全体重を乗せて押さえつけていた。



まゆみは暴れ疲れて眠ってしまっているようだった。その寝顔は穏やかなものではなく、悪夢にうなされているのかもしれない。


加藤は何とかして縛り付けたのだが、ひとたび拘束が切れれば、また激しく暴れ出すだろう。


加藤はせっかく可愛がっていたインコ達を殺されたショックで床を転げ回るほどだった。まゆみに対して、何でお前はこんなことをしたんだと、怒りから責めたくなったが、全ては自分のミスだと、自分を責めることにした。


廣瀬もまた、目の前で起きた惨状に、ショックを隠せないようだった。さっきまで血塗れになったインコ達の死骸を放心状態で搔き集めていた。


「加藤さん、まゆみのこと、どうすれば……?」


加藤はまゆみのことを見つめていた。普段はおとなしい方だし、他の動物達には敵対心を抱いてはいなかったはず。なぜ、このような凶行に出たのか理由が分からなかった。


まゆみは他の動物達を襲う前、タンスから衣服類を引き摺り出して、めちゃくちゃに荒らし回ったらしい。その赤い革のジャケットは世界に四つしかない、非常に高価なものなのだが、糞尿に塗れてぐちゃぐちゃになっていた。


今まで犬達の世話をして来たけど、こんなことは一度も無かった。だからこそ、何らかの意味があるのかもしれないとは思うのだが、心当たりが見つからない。


加藤は携帯を取り出すと、気功の師匠に助けを求めることにした。彼は突然の電話で驚いたようだが、それでも心良く引き受けてくれた。遠隔で霊視をしてもらうことになった。遠く離れているが、意識をこちらに向けただけで、内部にある問題点を見つけ出せるのだ。


〈……今、観てみたんですけど、まゆみちゃんは、加藤さんの中にある、幼少期の寂しさ、それと共鳴してしまったのかもしれないですよね〉


里親募集から引き取った際、聞かされた、まゆみの生い立ちを思い出していた。


生まれて間もなく、母親から引き離されてしまったのだという。加藤に引き取られるまで、ずっと寂しい思いをしてきたのだろう。そういえば最初の頃は、常に怯えたような表情をしていたし、寂しそうな雰囲気をまとっていた。


………ああ、そういう理由だったのか。


加藤が納得したその瞬間、まゆみの中にあった敵対心が消えていくのを感じていた。そのまま、目を瞑るように息を引き取ったのだ。


「え?」


廣瀬が驚いた声をあげていた。


加藤も胸に手を当てて確認してみたが、やはり、心臓の鼓動も止まっている。


加藤は動物達からメッセージを受け取ることが多いが、これが全ての始まりだったのかもしれない。


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