表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武装魔術戦記-フリーディア-  作者: めぐみやひかる
第七章 幼馴染
183/282

第183話 双子のクロイス姉妹

 ユーリ・クロイスは、グレンファルト・レーベンフォルンの説得に失敗した。


 本人は、千載一遇の好機を逃したことに対して酷く落ち込んでいたが、誰も責めることはせず、後悔するよりも、次の行動について考えようと皆で諭した。


 そして、彼らの運命の邂逅から数日――。


 元グランドクロスであるシャーレ・クロイスは、自分にできる精一杯を(こな)そうと、アージア治安維持部隊本部の地下へと(おもむ)いていた。


 クロイス家に(かくま)われたシャーレたちは、外に出ることはできず、地下での生活を余儀なくされている。


 クロイス本家と、治安維持部隊本部の地下が地続きで繋がっているとはいえ、シャーレたちの行動範囲は限りなく狭い。


 事情が事情のため誰も文句を言うことなく、寧ろ異種族の滞在を認めてくれたことに感謝しているくらいだ。


 アージア都市長を務めるウィリアム・クロイスと、ユーリへの信頼がよほど厚いのだろう。中には納得いっていない者もいたが、少数意見より、多数の意見が尊重されるのは、いつの世も同じである。


 そして、地下に入ることのできる者は、ユーリや異種族のことを決して口外しないと契約書にサインした者たちに限り、来たる共存共栄の未来に向けて各々交流を深めている真っ最中。


 一つ誤算があるとすれば、エレミヤたちの容姿があまりにも優れており、アージア治安維持部隊兵士たちの男女比率が(かたよ)ってしまったことくらいか。


「ここも、随分と様変わりしましたね……」


 昔は、アージア生物学研究所として使われていた施設。


 シャーレの生まれた場所であり、ユーリと出会った思い出深い場所が今では見る影もない。


 恐らく、シャーレが住んでいた部屋も無くなっている筈だ。


 構造もより複雑化しており、事前に把握していなければ迷子になっていただろう。ドワーフが根城にしていたアルギーラ鉱山の内部も相当広かったが、ここも負けず劣らずの広さを誇っていた。


 そうしてシャーレは、目的地である訓練場の射撃エリアへと足を踏み入れる。

 

 広大な空間の中には、二十程にズラリと並べられた銃撃用の台が置かれた射撃ブースがある。誤射した際に周りに被害を与えないよう堅牢に造られており、その先には人形の動く的が配置されている。


 そのブースの外に、何故か治安維持部隊兵士たちの人集りができており、シャーレが足を踏み入れても誰も気付きもしない。


 理由は単純で、ブースの中で射撃訓練を行なっている異種族の美少女に、見惚れているからである。


「ぜ、全然当たんなーーい!? 銃ってこんなに扱いが難しいの!?」


 声で誰かは一目瞭然だが、現在射撃訓練を行なっているのは、エルフの姫巫女――エレミヤだった。


 兵士たちが邪魔で、シャーレからは見えていないが、どうやら銃の扱いに難儀しているようだ。


 そんな姫巫女に、手取り足取り教えようと、男性兵士が我先にと群がっていく。


「エレミヤさん、よろしければ俺がお教えしますよ!」

「あ、抜け駆けするなんて狡いぞ! エレミヤさん、こいつより俺の方が射撃上手いんで教わるなら是非俺に!!」

「エレミヤさん! 教官免許を持っている私にお任せください!」

「エレミヤさん!」

「エレミヤさん、是非僕に!」


 姫巫女に気に入られようと、躍起(やっき)になっている男たちが哀れでならない。


 エレミヤは恐らく非常に困っている。そもそもシャーレが足を運んだ理由が、エレミヤに銃の撃ち方を教えるためであり、既に先約がいるにも関わらず、この有り様とは如何(いか)程か。


 これでは、エレミヤに近づけない。魔力を放出して驚かせてみようか? だがここの面々には、シャーレが元グランドクロスであることは伏せている。


 彼女の存在は、異種族以上に繊細に取り扱わなければならないため、勝手なことは許されない。


「――あ、シャーレ! 来てくれたのね!」


 と、ここでエレミヤは、シャーレの気配に気付いたようで、助けてと声音から滲み出ていた。


 治安維持部隊兵士たちもようやくシャーレが登場したことに気付き、慌ただしくブースから出て、道を譲っていった。


「ありがとうございます」


 ニコリと、淑女然とした笑みを浮かべ、お礼を述べるシャーレ。


 その笑みにやられたのか、何人かの男性兵士たちが頬を朱に染めていた。


 何というか……男性って本当に単純なんだなぁと思いながら、ついつい大好きな兄と比べて見てしまう。


 ブースの中に入ったシャーレは、非常に困った様子のエレミヤへ向けて。


「遅くなってしまってごめんなさい、エレミヤさん」


「全然いいのよ! (むし)ろ、無理言ってお願いしたのは私なんだし、シャーレこそよかったの?」


「えぇ。私は現状、お手伝いくらいしかできることはありませんので、誘ってくれて嬉しかったです」


 シャーレとしては、やる事を探していたくらいなので、エレミヤが頼ってくれたことが何よりも嬉しかった。


 男性兵士たちの視線が集まる中、気にした様子もなく続ける。


「しかし驚きました。まさかエレミヤさんが、魔術武装(マギアウェポン)を使おうとしてるなんて」


「あくまで万が一の時のための護身用よ。私の扱える魔法は補助に限定されるし、今更攻撃魔法を特訓しても時間が圧倒的に足りないもの。

 だけど、この魔術武装(マギアウェポン)はその足りない時間を簡単に埋めてくれる優れ物だわ。

 色々複雑だし、思うことがないわけじゃないけど、今は……今だけは戦う力が必要だから――」


 魔術武装(マギアウェポン)の製造には、異種族の魔核(コア)や魔石が材料として用いられている。


 内心思うところがあるだろうに、それでも銃を手に取ったのは、足手纏いになりたくないから。


 いつかは分からないが、都市アージアが戦場になるかもしれない。


 ユーリが、グレンファルトの説得に失敗した以上、悠々と時間を潰している暇はシャーレたちにない。

 

 他の面々も、思い思いに特訓を開始し、万が一の事態に備えている。


 だからシャーレも、皆を守るために尽くそう。そう思った時だった。


「――そんな奴に教わらなくても、ウチらが教えてあげるって、エレミヤさん」

 

「そうだよ。お兄ちゃんも、ヒナたちに教わる方が絶対良いって、言うと思うよ?」


 シャーレに対する嫌悪感を包隠すことなく、突如として現れた二人の少女の声音が、訓練場内に響いた。

 

「「!?」」


 シャーレとエレミヤだけでなく、男性兵士たちも現れた二人組の少女に驚き、ザワザワと騒ぎ出す。


 周囲の響めきを無視してブースの中に足を踏み入れる二人組の少女の内、一人のボーイッシュな印象を受ける黒髪の短髪美少女が、エレミヤへ向けて言う。


「エレミヤさんって、常に目を閉じてなくちゃいけないんでしょ? ウチらがアシストしてあげる」


「…………」


 エレミヤは何と答えたものか、非常に困っている様子だ。そこへすかさず、もう一人の黒髪を二つに結った、愛嬌さを感じさせる美少女が言葉を繋ぐ。


「知ってる、エレミヤさん? アイリちゃん、目瞑ったまま全弾的中できるんだよ!? ヒナもアイリちゃん程じゃないけど、ここにいる人たちより遥かに上手なんだから!」


「へ、へぇ〜。流石ね、二人とも」


 エレミヤは二人の少女に対してどこか気を遣ったような態度を取っている。それもその筈で、彼女たちはユーリ・クロイスにとって家族も同然の存在――。


「ヒナミさん、アイリさん。申し訳ないんですけど、先約がいますので、今日のところはお引き取り願えませんか?」


「「ッ」」


 優しく諭したシャーレを、親の仇のような眼差しで強く睨み付ける二人の美少女。


 彼女たちこそ、ユーリ・クロイスの従兄妹(いとこ)にあたるヒナミ・クロイスとアイリ・クロイスである。


 兄の叔父であるウィリアムの双子の娘であり、可愛らしげで愛嬌がある方が姉のヒナミで、勝ち気なボーイッシュな方が妹のアイリということになる。


 双子でありながら、見た目の印象は全く違う。顔立ちがよく似ているのもあってか、差別化する意味で分かりやすく髪型を変えているのだとか。


 要するに、彼女たちは正真正銘クロイス家のお嬢様であり、普段はアージアウッドストック学院に通う学生として生活している。


 年齢はシャーレと同じ十五歳で、去年までユーリの後輩だった彼女たちだ。シャーレ含めた異種族の誰よりも長い時間を共にしてきた双子の姉妹は、ユーリを本当の兄のように慕っている。


 だからユーリの目指す異種族との共存共栄にも理解を示してくれたし、エレミヤにも偏見の目を向けず、こうして親切で尋ねてきてくれた。


 だというのに――。


「お前、いつまでここにいんの? ヴァイゼンベルガー家のお嬢様なら、さっさと都市カーラに帰りなよ」


「お兄ちゃんの前だから大人しくしてたけど、ヒナたちはシャーレちゃんがクロイス姓を名乗っていいって認めてないから」


 そう、アイリとヒナミにとってシャーレ・クロイスという存在は、降って湧いた災いの種でしかない。


 突然やってきた怪しい女が、ユーリと血の繋がった妹です、と名乗って素直に納得するわけがない。


 それ以前に、シャーレはクロイスの血を引いているわけではなく、婿養子として嫁いだヨーハン・ローレンスと、ヴァンパイヤ王の娘であるアリシアとの間に産まれた子供であるため、彼女たちの発言は至極真っ当なものなのだ。


「…………」


 それに、彼女たちにとって叔母にあたるセリナ・クロイスを殺した仇こそがシャーレだ。


 彼女たちには知る権利があると、初めて対面した際に、ユーリやウィリアム立ち合いのもと、己の罪業を洗いざらい全て話したのだ。


 だからヒナミとアイリが向ける辛辣な言葉や、憎悪は至極真っ当なものだ。


 ユーリや、エレミヤたちが優しいからつい忘れがちになるが、シャーレは都市タリアを壊滅させ、これまで多くの人々の命を奪ってきた大罪人。


 罪を償うために、彼女たちの憎しみを受け入れる権利がシャーレにはある。


 異種族とのハーフであることを治安維持部隊兵士たちに言い触らさず、ヴァイゼンベルガー家のことだけ告げているのも、彼女たちがユーリには迷惑をかけたくないという想いの表れでもある。


 とはいえ、ヴァイゼンベルガーという姓は既に棄てている。シャーレにとって、クロイス姓であることは何よりも特別な意味を持つので、つい感情的になって反論してしまう。


「あなたたちが何と言おうと、私が兄さんの妹であることに変わりありません。

 恨まれてもいい、憎まれてもいい、殺されてもいい、けれど大切なユーリ兄さんに与えられた、シャーレ・クロイスという名前だけは譲れません」


「「ッ」」


 ヒナミとアイリの登場によって、場が剣呑な雰囲気に包まれ、治安維持部隊兵士たちが不安そうな表情でおろおろしている。


 それはエレミヤも同じで、非常に居た堪れなさそうにしている。


「さ、三人ともその辺にした方がいいんじゃ――」


 シャーレもシャーレで、ついヒートアップしてしまったため、エレミヤの仲裁の声が聞こえていない。


「それに、あなたたちこそ、ウィリアム叔父様から奥様の実家に避難するよう言われていた筈ですよ?

 それにここは、民間人の立ち入りは禁止されています。クロイス家の令嬢だからといって、軍施設に勝手に出入りするのは危険ですので、止めてください」


 シャーレの言う通り、ヒナミとアイリはまだ中等部の学生であり、守られるべき民間人も同然だ。


 クロイス家とはいえ、我が物顔で軍の施設を闊歩(かっぽ)していることはおかしいし、何より父親(ウィリアム)の許可を得ず、勝手気儘に彷徨(うろつ)いている彼女たちに、しっかりと注意する必要がある。


「そう言うシャーレちゃんだって、軍人じゃないのに勝手に彷徨(うろつ)いてるでしょ!」


 痛いところを突かれたヒナミが、狼狽(うろた)えながら反論するも。


「私は、叔父様からきちんと許可をいただいていますよ? 実戦経験も豊富ですし、民間人であるあなたたちが教えるよりも、私が教えた方が何倍も効率がいいと思います」


「ちッ、そう言うなら、先にウチの実力を見てからにしろよ」


 シャーレが放つ嘘偽りない事実に、男勝りなアイリが、エレミヤから訓練用の銃を引ったくって射撃台の前を陣取っていく。


 言葉にせずとも皆、アイリが実力を示すために見せつけようとしていると理解できた。


「ヒナ。的の速さ、通常の四倍に設定しておいて」


「うん、分かった!」


 これは所謂(いわゆる)次々に現れる動く的を魔弾で当てていくゲームだ。


 難易度も自由に設定可能で、難しくすればするほど的の動きが速くなり、()つ銃に込めなければならない魔力の負荷が大きくなる仕様だ。


 訓練を受けた一般兵用に調整された的を、まだ中等部の学生であるアイリが、四倍の速度と負荷をかけることは無謀にも等しいが……。


「…………」


 アイリ・クロイスは、目を瞑って深呼吸する。


 目を閉じた状態のまま、両手で訓練用の銃を握りしめ、左手を右手にしっかりと補強させる。


 引き金に指をかけ、アイリの準備が整ったところで、ヒナミがスタートを切る。


開始(スタート)!」


「――行けぇッ!!」


 魔力を込め、アイリが解き放った魔弾は発砲音と共に人型の的目掛けて一直線に軌跡を描いて奔っていく。


 瞬く間に的の腹部に命中し、すかさず次の的が現れるも、既にアイリは次弾を発射済み。


 標的に動く暇すら与えず、現れたと同時に着弾させるアイリの技量に、兵士たちは感嘆の声を上げていた。


 しかも、目を瞑ったままピンポイントで命中させているため、驚きは尚更だろう。


 スコアは全弾命中、文句なしのオール百点。


「ふん、どうよ? ウチがそこらの兵士より遥かに凄いって分かっただろ?」


 通常の四倍の速度で現れる的を目視せずに全弾命中させたアイリは、勝ち誇ったようにシャーレを見下す。


「ほら、次はヒナの番。こいつに力の差を見せつけてやれ」


 射撃台から離れたアイリは、訓練用の銃を双子の姉であるヒナミに手渡す。


「うん。でも、私はアイリちゃん程上手じゃないから、三倍くらいに設定しておくね」


 アイリとは違い謙虚(けんきょ)さが垣間見えるが、通常の三倍の時点で色々とおかしい。


 ヒナミは、目を開けたままではあるが、何なくトリプルスコアを叩き出し、遠巻きに見ていた兵士たちは、異端の天才児二人に畏怖の感情を懐いていた。


 射撃訓練を終えたヒナミが、つかつかとシャーレのもとまで歩み寄り。


「はい、じゃあ次は、シャーレちゃんにお手本を見せてもらおっかな!」


 笑顔で銃を手渡すヒナミからは、いい知れぬ圧が込められている。


 もし自分たちよりスコアが低かったら、どうなるか分かってるよね? と、言われずとも心の声が聞こえてしまい、シャーレは言われるがままに受け取り、小さく溜め息を吐いた。


 いつの間にかヒナミ&アイリ VS シャーレという構図が出来上がっており、エレミヤが完全に蚊帳(かや)の外へと追いやられてしまうのも束の間。


「エレミヤさんに教えれるなら、シャーレちゃんも私たちに匹敵するくらい凄い筈だよね? 楽しみだなぁ!」


 嫌味と皮肉を笑顔で放つヒナミは、シャーレに対して最低でも通常の四倍以上の速度と負荷での射撃訓練を求めている。


 続いてアイリも、挑発するようにシャーレへ向けて。


「ほら、早く位置に付けよ。まさかできないとか言わないよな? カーラ女子学院中等部三年のシャーレ・ファンデ・ヴァイゼンベルガーさん?」


 彼女たちはシャーレの犯した大罪や出生の経緯について理解しているが、元グランドクロスであることは預かり知らない。


 その理由は単純で、以前までと違い神遺秘装(アルスマグナ)――血霊液(イーコール)を失った今のシャーレの戦力が、半減してしまっているためだ。


 だからわざわざ言うこともないと黙っていたのだが、ここまで言われてしまっては、引き下がれない。


「………分かりました」


 (らち)があかないと判断したシャーレは、双子のクロイス姉妹の挑発に乗ることにした。


「それと訂正しておきますが、私の名前はシャーレ・クロイスですので、お忘れなきようお願いします」


「ッ」


 どれだけ恨み言を吐かれ、罵られてもクロイスという名だけは譲れない。それはユーリの妹であることの証明であり、シャーレの存在意義そのものであるからだ。


「エレミヤさん、申し訳ないですが設定を十倍に変更していただけますか?」


「「「「十倍!?」」」」


 先程四倍の速度を経験したアイリ、ヒナミは勿論、エレミヤ含めた治安維持部隊兵士たちが目を剥いて驚愕している。


 十倍など無茶を通り越して無謀もいいところだ。だというのに、シャーレ本人は何でもないことのように銃に魔力を込めて出力を調整していた。


「お前、バカじゃねーの? ひょっとして、ウチらをビビらせるために()えて十倍に設定したのか?」


 残念ながら、アイリの発言は的外れといえる。


 シャーレは実力で示すつもりなのか、無視して、その場でエレミヤへ「初めてください」と、エレミヤに告げる。


「ちょ、ちょっと、そこから撃つつもり!?」


 射撃台から離れた位置に立つシャーレに対して、ヒナミが正気かと述べるも。


「危ないので離れていてください」


 シャーレがそう告げた瞬間、開始の合図が鳴る。それと同時に瞬時に片手で銃を構えてトリガーを引いていった。


「「「「「!?」」」」」


 目に留まらぬ速度で放たれた神速銃撃(クイックドロウ)。光の点滅並みの速度で現れる人型の的を次々に射抜いていく様は圧巻としか言えない。


 標的への距離が遠ければ遠い程、次弾発射のインターバルが短ければ短い程、魔力は比例して消耗していく。


 にも関わらず、顔色一つ変えることなく、呼吸すら乱れることないシャーレは、本当に同じ人間(フリーディア)か? こちらの事情を知らぬ男性兵士たちから畏怖の視線が突き刺さる。


 かつて神遺秘装(アルスマグナ)――血霊液(イーコール)を完全に支配し、意のままに操っていたシャーレの魔力操作技術は、頭ひとつ抜けている。


 まさに機関銃並みの速度で魔弾を連射するシャーレに対して、ヒナミとアイリは呆然と口を開けて目に映る光景をあり得ないと否定することしかできなかった。そして――。


「――あぁ、すみません。銃の方が耐えきれなかったみたいですね」


 シャーレの魔力放出速度に追いつけず、過負荷が生じ、銃の方が先にオーバーヒートしてしまう。


 ぷしゅぅぅぅーー! と、音を立てて魔力に反応すら示さなくなる。その結果、スコアは八十点代に留まってしまった。


「「「「………………」」」」


 点数だけで言うなら、ヒナミとアイリの勝利だが、エレミヤに銃を教えるに相応しいのが誰かは一目瞭然。


 顔を真っ赤にして悔しそうに俯く双子の姉妹を見て、シャーレはこんなことで張り合った己が馬鹿らしく思えてしまい。


「ふぅ……ヒナミさん、アイリさん。私は用事を思い出しましたので、これで失礼します。エレミヤさんのこと、よろしくお願いしますね」


「え、シャーレ!?」


 エレミヤの制止を無視して、ヒナミとアイリ、治安維持部隊兵士たちの視線に背を向けてシャーレは射撃訓練場を後に

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ