第168話 神&四精霊 VS 千術姫
反統合連盟政府組織、革命軍ルーメンの主犯格たるナイル・アーネストと、フリーディア統合連盟軍グランドクロス=ファルラーダ・イル・クリスフォラスの激突は、両陣営にとって勝利を齎す狼煙となるのか、それとも――。
「死ね!!」
特化型魔術武装――空鱏の下部に搭載された筒状の砲身から、容赦の欠片もない破壊の閃光が降り注ぐ。
「シルディ、全力回避だ!」
『ビュビュビュビューーーーン!!』
風精霊シルディの魔法によって、空中であれど自由自在に動くことができる。いくら強大な威力を誇るとはいえ、直線上にしか奔らない魔法砲撃を躱すなど造作もない。
「つか、衝撃が強すぎて死ぬ!」
ナイル本人は、軽やかに躱したつもりだが、ファルラーダの憤怒の魔力と魔法砲撃の衝撃により、ぐるんぐるんと空中を回り、些か不格好な回避だった。
『あははははは!! すっごい、すっごぉぉっーーい!! こんな桁外れな威力の魔法、早々お目にかかれないよ!
グランドクロス=ファルラーダ・イル・クリスフォラス、相手に取って不足なし!』
冷や汗を浮かべるナイルに対し、シルディは好戦的だ。ファルラーダは、空鱏の上で、睥睨しながら語る。
「テロリスト共、貴様らを逃したのは私の人生における最大の失態だ。ミアリーゼ様の歩む正道を穢す愚物には、然るべき死を与えてやる」
ナイル・アーネストの正体が、神であることを彼女はまだ知らない。ファルラーダ自身、得体の知れない奇妙な感覚を覚えているが、そんなもの殺してしまえば関係ないと思っている。
「あー、まさかお前ら、シャーレを餌に俺を釣ったな? あのトラブルメーカーを直ぐに殺さないなんて、おかしいと思ったぜ」
本来であれば危険因子たるシャーレを生かすなど愚の骨頂。何処にいるかも分からないルーメンの主犯格を誘き出すために、ファルラーダとミアリーゼは決断したのだ。
「私と初めて会った時、貴様スリルを楽しんでやがっただろう? 今もそうだ、この状況にも関わらず、ヘラヘラと笑いやがって! 心底気に入らねぇッ!」
「いつ何時も、楽しむことを忘れない――それが俺のアイデンティティってやつさ。
つかよぉ、お前らの判断ミスのせいで、無辜の民が犠牲になっちまったぜ? 正義の味方のやる事じゃねぇ、世間の批判は免ねぇんじゃねぇか?」
「…………」
テロリスト一人を誘き出すために、タリアに住む民間人が犠牲になったこと。ファルラーダもその事は嫌という程分かっている。
ナイル・アーネストと接敵できたのはいいが、シャーレ・ファンデ・ヴァイゼンベルガーの予想外の能力により、治安維持部隊総司令含めた隊員たちを一気に失ったことは大きな損失だ。
今後のことも含めて、ミアリーゼたちに大きな困難が待ち受けることは間違いない。
「咎は背負う。ミアリーゼ様も、私も、綺麗でいようなんて最初から思ってねぇ。シャーレは当然殺すし、市民の非難はいくらでも受け入れるさ。
どれだけ泥に塗れようとも、今を生きる人々が正道を歩めるように道を創っていく――それが私たちの正義だ!!」
再び火を吹く、破滅の業火の一閃だがナイルは不格好に回避する。
「それ、やってて楽しいか?」
純粋に、心底理解できないとナイルは疑問をぶつける。
「なに?」
ファルラーダにとって、聞き捨てならない言葉だったのか、一瞬砲撃の手が止んだ。
『分っかんないかなー? お前たちの正義なんて、つまんないし、誰も興味ないってナイルは言ってんの!』
「シルディの言う通りだ。誰もが皆、光に焦がれるわけじゃねぇ。実際にお前らのやり方に不満を持って、こっちに寝返った名家が大勢いる。その事実を知らないわけじゃねぇだろ?」
「…………」
ファルラーダは、怒気を孕んだまま沈黙する。
ミアリーゼが、統合連盟総帥代行の地位に就いてから一ヶ月弱と、まだ日が浅い。統合連盟政府の中に、ミアリーゼを認めずグレンファルトを総帥にすべきと声を上げる一派が存在し、足を引っ張っているのが現状だ。
それに加えて、違法な手段を用いて他者を不幸へ陥れた名家や資産家、一般市民、スラム住人、少しでも関与の証拠が上がった者たち――その悉くを葬ってきたが、一部からは過激すぎるそのやり方に批難が飛び、生き残りがテロリストに身を落とした事実は把握している。
だからこそ、一丸となって悪を滅相しなければならない。ミアリーゼが演説を行ったのもそのためで、それによって自分だけは関係ないと気取る市民たちへ自覚するよう促したのだ。
「もしかしてあんた、任侠一家で頭張ってた時と同じ感覚でいやしないだろうな? 仁義なんて暑苦しい宿業を背負ってんのは、身も蓋もねぇ純粋な馬鹿だけさ」
「ぐだぐだと勝手な事抜かしやがって」
現在、ミアリーゼを支持している者たちは、直接命を救われた西部戦線の面々と、何も知らない一般市民。
古くから名家として名を残した元貴族や、アンダーグラウンドな世界に住まう者たちが寝首を掻こうと画策している。
「魔術機仕掛けの神の言葉を借りるのは癪だが、光も闇も関係なく全部ごちゃごちゃしてんのが、世界ってやつだろうが。
世の中善悪で二極化できる程、単純にはできてねぇ。あんた、このままだとまた大切なものを失うぜ?」
それを一番よく分かっているナイルは、ファルラーダが辿るであろう末路を一言で予言した。
雲のように掴めない軽薄だった態度は形をひそめ、悠久の時を過ごしてきた超越者然とした雰囲気へと豹変した。
「貴様……以前会った時から思っていたが、ただのテロリストなんかじゃねぇ、一体何者だ?」
怒りのボルテージは最高長に達しているが、ファルラーダの勘が、無策に突っ込むなと警告している。このままナイル・アーネストを殺しても何も終わらないのだと。
『にゅふふ』
シルディが不適な笑みを浮かべ、ナイルの周りを飛び交っている。そう、一番不可解なのは翠が煌めく手のひらサイズの小さな異種族だ。
『前にナイルが言ってたでしょ? お前たちが真実に辿り着くことはないって』
「粋がんじゃねぇぞ、ガキがッ」
胸を張って踏ん反り返るシルディに、苛立ちを募らせたファルラーダは、再び空鱏の砲身に魔力を込めていく。
ガキと呼ばれ、ムカっ腹を立てたシルディは、聞き捨てならないと反論した。
『はぁ!? 三十も生きてない小娘風情にガキ呼ばわりさせたくないんですけどぉ? こっちは三千年以上生きてるんですぅ! お前こそ、年上を敬って敬語使――――』
「「………は?」」
その時、奇しくもファルラーダ・イル・クリスフォラスとナイル・アーネストの声が同時に重なった。
耳を疑うような返答に、二人は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔になる。
『あぁーーーー!?!?!?』
二人の反応を見て、シルディは自分がとんでもない失言をしてしまったと悟り、頭を抱えて絶叫した。
「おまっ、バカか! そんなリアクションしたら、余計に怪しまれるだろうが!!」
『あわわわわわわ! ど、どうしよぉー!? あ、でもこいつユーリと違って全然こっちの事情知らないし、きっと分かん――』
「余計なこと言うなっつってんだろうが!」
目を回して動揺するナイルやシルディを他所に、ファルラーダは己の持つ固定概念全てをかなぐり捨てて、思考を巡らせる。
これまでのナイルの行動パターン、言動、異種族の歴史、旧時代の真実、知識を総動員させ全てを照らし合わせる。
「あぁ、ようやく理解した」
そうして辿り着いた答えは、一つしか思い浮かばなかった。
人類の祖たる魔術機仕掛けの神より、旧時代の史実を教えられたファルラーダだからこそ辿り着けた真実。
「貴様が、あのエルフの小娘が信奉していた神だな。どういう理屈で、人間に成り変わってるのか知らねぇが、大方神遺秘装が関係しているのだろう。
狙いは御前が保有する衛星兵器――旧時代の遺産か? なるほど、私にも見えてきたぜ、貴様の真実がよぉッ!!」
刹那、ナイルの瞳から喜色の色が灯り出す。ユーリやエレミヤと違い、ほぼノーヒントで答えに辿り着いたファルラーダの洞察力に加え、何より旧時代という単語に強く関心を示していた。
「あんた、もしかして旧時代のこと知ってんのか? あははははははは!!! シルディの一言で、あっさり真実に辿り着いちまうとはな、恐れ入ったわ」
無言で破壊の業火を刻むファルラーダだが「危ねっ!?」と、すかさずナイルは回避。このままでは、イタチごっこになりかねない、と互いに視線を交わし合う。
「ちょこまか動きやがって。貴様が神なら、ただ殺しただけじゃ意味がねぇってわけか。なら半殺しにして捕まえて何もかも吐かせてやる!」
この場において真実を確かめるには先ず、ナイルを捕まえなければ始まらない。どんな奇怪な能力を持っているかは知らないが、全力で捩じ伏せる――ファルラーダが吠えた、その瞬間。
『そんなこと、させるわけねーだろ!』
『そんなこと、させるとお思いで?』
『そんなこと、させない……』
ナイル・アーネストを護るように出現した、朱、蒼、橙の軌跡が夜空に描き出した。
そこに翠も加わり、いよいよとなってパレードじみた様相と化した。イルミネーションよりも鮮烈かつ、豪華に、華やかに。精霊たちの遊戯は絢爛たる輝きを放っていた。
『ビュビュビュビューーーーン!!』
『ザザザブーーーーン♪』
『ババババーーーーン!!』
『ドドドドーーーーン……』
風、水、炎、土。四精霊が織りなす遊技場へようこそ。
「魔術武装・展開――魔銃」
ナイル・アーネストは、何の変哲もない汎用型魔術武装を展開し、器用に指に引っ掛け、くるくると回していく。
「…………」
「拍子抜けって面だな。あ、馬鹿にしてるんじゃないぜ? これが正真正銘、俺の武器さ。
魔核の容量は、生まれつき決まってるのは知ってんだろ? どれだけ魔力の総量を高めようと、こればっかりは運だから仕方ねぇよな――っと!」
粗雑に振り回した状態から目にも留まらぬ速さで神速銃撃を放つも、グランドクロス相手には掠りもしない。
『スキル・付与!』
次いで火を司る精霊のサーラマが、固有スキルでナイルの銃に魔力を与えていく。銃口から放たれた魔弾は炎球となり、先程より威力も速度も増大したが。
「ふん」
対するファルラーダは、つまらなさそうに鼻を鳴らし、迫りくる火球を指で弾いただけで掻き消した。
「何だ、それは? これならユーリ・クロイスが使っていた四大魔弾の方が遥かにマシだ。まさか貴様、自分が如何に脆弱かアピールでもしてやがんのか?」
「ま、そういうことだな。さっきも言ったが、俺の力の殆どは、四精霊に依存している。こいつらがいなけりゃ、そこらの雑兵と変わらねぇのさ」
やれやれと自身の実力の無さを嘆いているナイルだが、その態度はどこか余裕に満ちている。
「この戦いは、どう足掻いたって俺に勝ち目なんてねぇ。百人中百人があんたの勝利に全額賭けるするだろうよ」
「諦めている、わけではないな」
大抵の生物は、ファルラーダを前にして恐怖の反応を見せる。中には例外もいるが、その中でもナイルは異端に映る。
「もし、俺がフリーディア最高戦力を有するグランドクロス様相手に華麗に勝利を決め込んだら、最高に格好よく映らねぇか?
あんたの力を信じて疑わないお姫ちゃんは泡吹いて倒れるだろうぜ、きっとよぉ!!」
「ほざくなよ、愚物がッ!!」
ファルラーダの魔法砲撃を退け、四色の軌跡と共に空を奔りながらナイルは反撃する。当然、千術姫は軽くあしらうように魔弾を弾き飛ばす。
遠距離武器を用いた空中戦という状況故か、互いに躱し、迎撃する、殆どこれの繰り返しだ。
ナイルとファルラーダは、一歩も譲らず徐々に徐々に高度を下げていく。眼下を下ろした先には、視界いっぱいに広がる街並みが映し出され、ファルラーダはやむなく離脱し、空鱏の高度を上げていく。
「この位置では、下に被害が及ぶか!」
実力者に天地程の差がありながら、あの千術姫が仕留め損なっている。それもこれも、ナイルは徹底的に高度を意識して位置取りをしていたためだ。
「この間の戦争とは訳が違うぜ? あんたは強すぎるあまり、無限に等しい魔力を制限せざるを得ない。
魔法砲撃を撃つ際、必ず俺と高度を合わせて直線上に放つか、下から上に向けてぶっ放さねぇと街に被害が出ちまう、もどかしくて仕方ねぇよな?」
ナイルを追撃できず、かつ高度を維持しなければならない最大の理由は、他でもない無関係な市民たちを巻き込まぬよう憂慮しているためだ。
治安維持部隊総司令亡き今、臨時指揮官としてミアリーゼが陣頭指揮に立っている。
けたたましく鳴り響く避難警報と、治安維持部隊の指示に従い、避難している市民たちは現在大混乱に陥っている。
そんな中で、ファルラーダの魔法砲撃が当たればどうなるか、結果は火を見るより明らかだ。
「さっきからサイレンもうるせぇし、少し黙らすか。ウェンディ、やっちまえ!」
『はーい、ザザザブーーーーン♪』
待ってましたと言わんばかりに、水精霊のウェンディが、華麗に蒼の奇跡を放ちながら急降下し、街中を縦横無尽に駆け巡っていった。
「魔術武装・展開――自律型千術魔装機兵!」
千術姫専用魔術武装――約千機にも及ぶ人型の千術機兵たちが、機械仕掛けの両翼をはためかせ、飛び回るウェンディへ追撃していく。
その行く手を阻むべく、シルディ、ノインのニ精霊が立ち塞がり。
『ビュビュビューーーーン!! ひー、ふー、みー……あれー? 607機しかないよ?』
『ドドドドーーーーン……。多分、特注品……。壊れたら、二度と治らない』
『そっか、なら全部ぶっ壊しちゃえば楽になりそうだね! ノイン、今回は私に譲ってね!』
『さっさと、やって……』
『もちろん! 嵐法・精奏玉風!』
最強種族と云われるエルフの魔法を、軽々と凌駕する超極大規模の暴風が荒れ狂い、自律型千術魔装機兵たちの動きを阻害していく。
加えて、シルディが巧みに風を操り、千術機兵たちを激突させていき、花火のようにあちこちから爆炎が上がる。
「私が言うのも何だが、魔法の規模が桁外れだなッ! 自律型千術魔装機兵の性能じゃ、コイツらをぶち殺すのは難しいか!」
ファルラーダ自身は、シルディの風魔法の影響下でも無傷だったが、問題は街中に蒼の奇跡を奔らせるウェンディを止める術が無いということ。
ナイル・アーネストはともかく、四精霊の実力は、あのエルフを軽く凌駕している。生半可な魔法では絶対に突破できず、肝心要の自律型千術魔装機兵を用いても殺すことは難しい。
何より動きが速すぎて捉えるのがやっとだ。おかげでウェンディに極大規模の魔法を放つ隙を与えてしまった。
『水法・大水槽幽閉』
ウェンディが超速で奔り抜けた際にできた蒼の奇跡から、洪水のごとく水が溢れ出し、街全体を空ごと呑み込んでいく。
「これは!?」
やがて街全体が一つの巨大な水槽と化し、その中が水で満たされる。囚われた人々が恐怖に顔を歪ませながら、ガボガボッ! と、踠き苦しみ、必死に外の空気を求めていた。
このままでは、全員窒息死してしまう。守るべき民たちを、むざむざと死なせてなるものかと、シルディの風魔法を強引に掻い潜り、巨大水槽の上端部に触れたファルラーダは。
「ありったけの魔力で蒸発させてやる。魔術武装・展開――」
『アタシと、ナイルを無視してんじゃねぇーぞ!! 炎法・爆炎撃!!』
朱の奇跡を描きながら、させまいとサーラマが飛来し、巨大な爆炎を纏わせた拳を振り翳した。
「邪魔すんな、愚物がッ!!」
最早、一刻の猶予もない中で、ファルラーダの苛立ちは最高潮に達し、サーラマの爆炎撃をあろうことか拳だけで迎撃するという暴挙に出た。
『!?』
二つの拳は激突し、ドオォォォォォォンッ!!! と、天地が揺らぐ程の激しい轟音を轟かせる。その壮絶なる威力は、ウェンディの生成した大水槽幽閉ごと巻き込み、爆風の熱だけで蒸発させていく程。
それだけサーラマの魔法の威力が高かったということで、素手で対抗したファルラーダは無事では済まない筈――。
『うがぁッ!? コイツぅ……ッ』
爆炎の中から飛び出してきたサーラマは、右拳が焼け焦げており、決して浅くない負傷を負っていた。
『『『サーラマ!?』』』
この展開は、精霊たちにとって予想外だったようで、同胞の負傷にいたく動揺していた。そして爆炎の中から溢れ出る憤怒の魔力は、未だ千術姫が健在であることを示している。
ブォンッ! と、強引に断ち切るように爆炎を掻き消し、その中から出てきた千術姫は、ダークスーツが煤汚れている程度で依然として無傷だった。
「ふん、貴様の魔法のおかげで蒼い奴のトンチキな魔法も潰せた。おかげで全滅という最悪の事態は免れたが、貴様らを軽んじた私の失態だ。
ナイルは殺せないが、貴様らは違う。異種族如きが調子に乗りやがって、一匹残らず駆逐してやる!!」
憤怒の暴威は、愚行に及んだ彼女たちを絶対に殺すと告げていた。
『『『『…………』』』』
四精霊はまるで化け物を見るような目でファルラーダを見つめ怯えの色を示していた。
「そう怯えなさんな、奴さんが強いのは、最初から分かってたろ?」
『『『『神……』』』』
巻き込まれぬよう、後ろに下がっていたナイルの言葉に、精霊たち悔しそうに顔を俯かせている。
「こっちは、せっかくあんたが本気出せるようお膳立てしようとしたのによ。街のフリーディア全員殺せば、あんたも少しは殺り易くなるだろうに」
蒸気で状況は見えないが、九死に一生を得た市民たちの悲鳴が轟いているのが伝わる。
一種、暴動にも似た混乱により、大人しく避難していた筈の市民たちが視界の悪い中、一目散に逃げ出そうと躍起になっている。
最早、収拾のつかない事態に、同じく溺死しかけた治安維持部隊兵士たちも慌てて逃げ出す始末。
「下衆野郎が」
自軍の愚かさに憤慨しつつ、どうすれば市民を救えるか思案する。ファルラーダの手持ちの魔術武装は、戦略破壊に特化したものばかりで、防衛には向いていない。
サーラマに手傷を負わせたが、残りのウェンディ、シルディ、ノインを相手にしながら街を守るのは至難の業だ。
「あははは、その悔しそうな顔いいねぇ! せっかくのバトルだ、できるだけ長引かせて、そんで派手にいこうぜ!」
今度は、何をするつもりなのか? ファルラーダと違って、ナイルは街の被害に頓着などしない。千術姫を倒すためなら、彼はどんな手段も用いる。
例え、自らの身を滅ぼすことになっても、最後まで遊戯を楽しもう。誰よりも自由な生を謳歌する神は、もう誰にも止められないのだ。