第150話 観光
オリヴァー・カイエスの故郷――都市タリア。通称白の街と呼ばれ、中世と現代が同化した独特の雰囲気を漂わせた街並みは、見るもの全てを魅了させる。
白を基調とした特徴的な外観の建物が、様々な形を帯びてズラリと建ち並んでおり、まるで一つの絵画を見ているかのよう。路地にある純白の石炭で作られた時計塔の近くのパン屋から漂う芳醇な香りに誘われ、人々が列を成している。更に街角では、中世の衣装に身を包んだパフォーマーが現れ、現代の音楽と古代の楽器が奏でる調べが街中を満たす。
ロマンス溢れる街灯りは、古き良き時代の情緒を残しつつ、現代の暮らしを彩っていた。そして、ワルツを刻むテンポの良い雰囲気を纏う停留所に、一台のバスが停車した。
バスの扉から、ぞろぞろと多くの人々が降りていく。テロリストの動きが活発化した厳しい情勢下の中でも、比較的影響が少ない都市タリアは、今日も観光客で賑わっている。
「わぁーーー!!! ここが、オリヴァーくんの故郷……」
人混みに紛れるようにバスから降りたサラも、夢にまで見たフリーディアの街並みに感動していた。
「サラ、あんまり燥ぎすぎると転んでしまうぞ!」
後から続くオリヴァー・カイエスは、懐かしの故郷の空気を感じながら、サラへ注意を促している。
続いてアリカ・リーズシュタットと、何故か彼女に抱っこされているミグレット、更に後ろへ続いてナギ、エレミヤ、ユーリ・クロイスと、彼の手をギュッと握っているシオンが地表へと降り立った。
一見すれば、仲睦まじい観光客の様相だが、事実は異なる。ここにいる人々は思いもしないだろう――まさか異種族が人類の地に降り立ったなど。
陽の当たる場所で堂々と姿を晒しているエレミヤ、ナギ、サラ、シオン、ミグレットだが、タリアにいるフリーディアたちの目には、彼女たちが異種族として移っていない。
何故なら、現在彼女たちには特徴的な長い耳や獣耳、尻尾といった異種族を象徴する部位が存在していないからだ。普段の彼女たちを見慣れてるユーリたちからすれば、違和感この上ないが、本人たちはあまり気にしていない様子。
「ミグレットせんせーのおかげだね、ユーリおにーちゃん! シオンたち、ぜんぜん何にも言われない!」
「あぁ。正直もっと手間取るかと思ってたけど、こんなに堂々と往来を歩けるのは、ミグレットのマジックアイテムのおかげだな」
手を繋ぐシオン、ナギ、エレミヤ、ミグレット、サラの首にはミグレットが発明した首飾り型のマジックアイムがかけられており――正直原理はさっぱり分からないが――本人曰く、目の錯覚を利用して局所的な部分を見えなくするという優れ物らしい。
実際なくなったわけではないので、触れば感触は伝わるし、魔力を瞳に集中させ注意深く観察しないと気付かないため、ユーリたちは観光客に紛れて堂々と街中を練り歩ける。
「アリカ、オメェいつまで自分のこと抱っこしてるですか! いい加減降ろせです、こんちくしょう!」
「ミグレットちゃんは、タリアに来るの初めてでしょ? 迷子になるといけないからこうして私が運んであげてるのよ、良い子だから我慢してなさいねー」
アリカの腕の中で暴れるミグレットの抵抗虚しく、さらには頬ズリを決め込まれる始末。どれだけ暴れても、ミグレットの腕力ではアリカから逃れることは不可能だ。
観光客たちも、遠巻きにアリカとミグレットを微笑ましげに見つめている。
「ねぇねぇ、オリヴァーくん。あれは何のお店なの!?」
「あれは、タリアのお土産が売っている店だな。この都市にしかない特産品を買って帰る観光客が多いんだよ。
僕は、地元民だからあまり訪れることはないけどね」
一つの店が目に入る度に、サラはオリヴァーに質問している。ナギ曰く、他の種族の国はドワーフ国しか見たことがないそうで、外の世界を知らないサラからすれば、全てが新鮮なものに映って見えるそうだ。
それを言うなら、ナギやシオンも同じだが、逼迫した今の状況を慮って自制している。サラのように割り切ることができない二人へ、ユーリは言う。
「時間もあるし、見たいところがあるなら遠慮せず言ってくれ」
「「いいの?」」
そわそわと落ち着きない様子で、ナギとシオンは問う。もし尻尾が見えていたら、ブンブンと激しく回っていたに違いない。
「寧ろ、オリヴァーやサラみたいに、自然に観光客に溶け込んだ方が人目につかずに済む。エレミィも、遠慮とかしなくていいからな」
「でも……」
捕らわれの身であるイリスの安否を気にしているのか、躊躇しているエレミヤ。
「母さんとは既に連絡がついてるし、総司令権限でイリスの身柄を保護してくれるとも言っていた。安心……とまではいかないけど、合流するまでは気を楽にしていいんじゃないか?」
「「「うん!!」」」
今後、目を覆いたくなるような惨状に晒されるとしても、今を後悔したくないから。ナギ、シオン、エレミヤは笑顔で頷き、共にタリアの街を散策していく。
ドワーフ国を経ってから、驚くほどスムーズに状況を運べている。ナイル・アーネストは、言葉通りにユーリたちをフリーディアの領地へ手引きしてくれた。
ルーメンと思しきフリーディア隊員には、こちらが同志だと思われていたため、やけに親切に接してくれたのだ。それもこれも、ミグレットが開発したマジックアイテムのおかげ。もし、異種族として姿を現していたら余計に話が拗れていたに違いない。
加えて、幸運だったのが万が一の時のために用意されたクロイス家の秘匿回線で、母――セリナと連絡が取れたこと。こちらの事情を詳しく説明し、母は二つ返事で頷き、了承してくれたのだ。
更に加えて多少の危険は伴うが、イリスを連れ出して都市タリアまで赴くとのこと。母と合流できれば、後はユーリの故郷である都市アージアへ帰還するだけ。
そこで、ナイルに提示したもう一つの要求であるグレンファルト・レーベンフォルンとの面会が果たされるわけだ。彼の真意を問い、その回答如何で、本当の戦いが待ち受ける事となる。
だから今は、今だけは束の間の平和を満喫してほしい。エレミヤ、ナギ、サラ、シオン、ミグレット。五人の異種族が人間の文化に興味と関心を示してくれているからこそ、共存共栄の道が現実となって見えてくる。
「ユーリ、こっちこっち!」
ナギとシオンに手を引かれ、エレミヤに背中を押されながらユーリは「分かったよ」と、頷いた。
◇
エレミヤ、ナギ、サラ、アリカ、ミグレット、シオンの美少女軍団は、想像以上に人目を惹いていた。まるでタリアの街を彩る花々のような容姿を連れ歩くユーリは、目立たないよう観光客に紛れることができず、結果として大誤算。
幸いだったのが、ユーリたちに指名手配がかかっておらず、見つかっても治安維持部隊に捕まることはないため、安心して街を回れるという事。
とはいえ、この状況は非常にマズい。彼女たちの容姿もそうだが、冷静に見てみると、エレミヤたちの服装が周囲の景色に溶け込んでいない。ユーリ、オリヴァー、アリカは、見慣れすぎていたため、完全に失念していたのだ。
おかげでコスプレか何かだと勘違いされ、随所で写真を一枚撮らせてほしいとの声がかかった。ナンパ目的の男たちからも声がかかり、ユーリとオリヴァーは、何度も仲裁に入るはめになり、おかげで息も絶え絶えの状態である。
そしてユーリたち一行は、替えの服を購入するために、有名なアパレルブランドを取り扱っているショップへ入店する。
「「「「「「わぁ!」」」」」」
店内の様相を目にした女性陣一同(アリカとミグレットを除く)は、目を輝かせながら感嘆の声を上げる。色とりどりの衣服が所狭しと陳列されており、どれを買おうか迷ってしまう。
「オリヴァーくん、好きな服選んでいいんだよね?」
「あぁ、勿論だ。値段は気にせずにサラが良いと思う服を選んでくれ」
オリヴァー・カイエスとサラは、以前一緒に服を買いに行こうと約束事をしていたらしい。本当は、戦争を終わらせてから行くつもりが、事情が重なり今こうして叶えられた。
「ねぇ、オリヴァー。ここ値段えげつないんだけど、本当にいいの?」
ミグレットを抱っこしたまま手を伸ばし値札を取ったアリカが、顔を引き攣らせていた。
「誰が、君の分まで奢ると言った! 自分の服くらい自分で買え!」
「はぁ!? こんな高い服買えるわけないでしょうが! こちとら一般庶民やってんのよ!?」
「軍で貰った給料があるだろう!? 僕だって無限に貯金があるわけじゃないんだ!」
「給料全部親の口座振り込みで、私の懐には鐚一文も入ってないっての!」
店内でやんのかんの騒ぐオリヴァーとアリカを、店員と客が遠巻きに見つめており。
「お前ら、少しは静かにしろって! アリカの分は俺が出すから、これ以上目立つな頼むから!」
「「……あ」」
ユーリが仲裁に入ったことで、ようやく二人は大人しくなった。もしダニエルが生きていたら、そこに軽口を添えていたんだろうな……なんて思ってしまったのは内緒だ。
非常に居た堪れないが、優先すべきはエレミヤたちの服を購入すること。ついでにユーリも自身の着替えを買っておこうと、恥ずかしそうに俯くオリヴァーを連れて、メンズコーナーを物色し始める。
「あぁ……僕としたことが公衆の面前で、何て恥晒しな真似を」
げんなりと落ち込むオリヴァーへ、ユーリは笑いながら告げる。
「俺としては、元の関係に戻って良かったって感じだけどな。俺がいない間、ギクシャクしてたみたいだし」
「あぁ、僕が情けないばかりに、アリカとダニエルには迷惑をかけてしまった。今でも思うよ。あの時きちんと兄上と向き合えていたら結果は違ったものになったんじゃないかって。それこそ、アーキマン司令の謀反に気付けたかもしれない」
「俺だって、同じだよ。今でもこうしておけばよかったんじゃないかって後悔ばっかりだ。テロの片棒を担いで、利用して利用され、自分のしていることが本当に正しいのか今も迷ってる」
「ユーリ……」
ユーリたちがやろうとしていることはテロ行為と同義だ。勝つ為に手段を選ばず、世界を滅ぼそうとしている相手と協力するなど、ミアリーゼ・レーベンフォルン側から見れば悪以外の何者でもない。
多分、きっと、いや、間違いなく後悔する。あの時、あぁしておけばよかった、こうしていればよかった。けれど後悔に怯えて立ち止まったら何も果たせなくなる。
「未来がどうなるかなんて誰にも分からない。どんな結末が待ち受けるとしても、俺たちは進み続けるしかないんだ」
「そうだね。例えこの身が悪に堕ちようとも、サラを守るって誓ったんだ。僕は正義の味方になりたいわけじゃない、ただ彼女の――サラの味方でありたいんだ」
遠目で楽しそうにナギたちと服を物色しているサラへ視線を向ける。この光景を当たり前に過ごせる世界にする。ユーリとオリヴァーは、亡きダニエルにそう誓った。
◇
その後、ユーリとオリヴァーは手早く買い物を済ませ、エレミヤたちと合流する。彼女たちはどんな服を買うか未だに迷ってる様子で、う〜んと唸っている。
「そこで悩んでても仕方ないし、とりあえず気になるやつ全部着てみたらどうだ?」
「え、着てもいいの!?」
ナギが意外な反応を示し、ユーリは思い出したように「あっ」と、しまったと言いたげな声を上げる。
「あぁ。向こうに試着室あるし、店員に言えば――って、そっか。最初に教えておけばよかった……」
人間の常識と、異種族の常識は違う。ユーリは散々思い知った筈なのに、事前に説明していなかったことを後悔した。
「アリカ、君が一緒にいたのなら教えてやればよかったじゃないか」
「あ、そっか」
オリヴァーの発言に、ユーリもそういえばそうだと思い至ったが、当のアリカ本人は気まずそうに顔を逸らしただけ。
「おい、まさか知らなかったとは言わないよな? ひょっとしなくてもこういった店は初めてだったりするのか?」
オリヴァーが、信じられないと若干引きながらアリカへ問いかける。
「し、仕方ないでしょ。実家は剣道場だし、田舎暮らしで殆ど街に出たことなかったんだから。服はお母さんが街に買い出しに行く時に頼んでたの」
アリカの故郷は、首都から離れたヒノミと呼ばれる地区にある。そのヒノミの中心街から更に外れにある田舎に、アパレルショップなどという高尚なものは存在しないのだ。加えてアリカは、剣以外のことは無頓着だったため、些か常識に欠けている。
「「…………」」
意外すぎる庶民事情に、絶句するユーリとオリヴァ。冷静に考えると、トリオン基地にいた際も度々《たびたび》非常識な行動を起こしていたなと思い出す。
「こら、オリヴァーくん! アリカを困らせちゃダメだよ? ほら、せっかくだし皆で一緒に着替えに行こ!」
サラが、場の空気を断ち切るように強引にオリヴァーの手を引きながら試着室へ連れて行き、残るメンバーも顔を見合わせ後に続いた。
幸いにも試着室は空いており、エレミヤ、ナギ、サラ、アリカ、シオン、ミグレットの六名はそれぞれ気になる衣服を何着か持って中へ入っていく。
ちなみにアリカとミグレットは、ファッションに興味がないのか適当に服を選んでいたのだが、おしゃれ好きのサラは容赦なく却下し、強制的に参加させられた。
試着室の外で待つユーリとオリヴァーは、審査員として誰の服が一番似合うかジャッジする役割を課され、現在責任の重さがのしかかり潰れかけている。
「お待たせ、ユーリ、オリヴァー」
先ずは一巡目。颯爽と試着室から出てきたエレミヤは、白を基調としたニットドレス姿をお披露目する。ウールの素材感漂う綿密な模様や刺繍がエルフの姫巫女の品格と、華やかさを際立たせていた。
「「…………」」
クルリと華麗にターンしてみせたエレミヤの優雅さと美しさに、ユーリとオリヴァーは声も上げられず見惚れてしまう。
「あら? ひょっとして似合ってなかったかしら?」
何の反応も見せないユーリとオリヴァーに、不安を覚えたエレミヤが自信なさげに問いかけるも。
「に、似合いすぎてる……ごめん、感想まともに出てこないかも……」
「ユーリに同意だ。僕は今、奇跡を目の当たりにしている」
言葉に尽くせない程の感動を味わっている二人に「そ、そうかしら?」と、エレミヤは頬を紅潮させ、照れ臭そうに顔を伏せる。
その瞬間、勢いよく隣の試着室のカーテンが開き、若干の不服そうな様子でナギが出てきた。
「「おぉ!」」
そんなナギの服装は、カジュアルなコーデのピッグスウェットと丈の短いスカートといった出立ちであった。シンプルでありながら、ナギの美貌をより際立たせており、こちらもエレミヤに負けずとも劣らないくらい似合っていた。
「ナギ、凄くよく似合ってる。変にゴテゴテした服より断然そっちの方がいい!」
「確かに。無理に着させられている感じがしない。ありのまま自然体を表現できていて素晴らしいな」
「ほ、ほんと!?」
予想に反し、好評価を下すユーリとオリヴァーに、エレミヤに対する嫉妬心が霧散し、素直に喜ぶナギ。見えない尻尾のせいでスカートが若干不自然な動きをしているが、見て見ぬフリをした。
「ユーリは、エレミヤと私、どっちの格好が好き?」
「え?」
「そうね、それはハッキリさせておきたいところね。当然私を選ぶわよね、ユーリ?」
「…………」
エレミヤとナギ。本人が預かり知らないところで、どちらがユーリに相応しいか多くの勝負を繰り広げてきた彼女たちは、ついに直接攻戦に出た。
ギギギと顔を向け、オリヴァーへ助けてと合図を送るも、ふっと目を逸らされてしまう。
「「ユーリ!」」
互いに譲れない戦いのようで、急かすようにユーリへ詰め寄っていく。果たしてこの修羅場を乗り切るにはどうするのが正解か? 何を言えば角が立たず平和に解決できるのか思考を急速に回転させる。その時――。
"ユーリ様!"
ふと、頭に過ってしまった。もしこの場にミアリーゼがいたら、それはもう楽しかったに違いない、と。どうして彼女は、この輪の中にいないのか? 会うことすらできず、すれ違ってしまった幼馴染は手の届かない遠くへ行ってしまったことを改めて思い出す。
「………ミアリーゼ様」
「「え?」」
「――あ!」
この場にいる筈のない第三者の名前を出したことに、ユーリ本人が一番慌てていた。どうして姫の名を口にしてしまったのだろう……と、呆然としてしまう。
「「「「…………」」」」
おかげで微妙な空気が流れてしまい、サラが試着室から顔を覗かせ「えっと出ても大丈夫?」と、恐る恐る伺っていた。
「あぁ、勿論! ほら、エレミィもナギもどっちも凄く似合ってるんだから、困るような質問するなって」
ユーリは、必死に誤魔化して、サラの登場を促した。気を取り直して、今度はサラのファッションに集中する。
「えへへ。どう、オリヴァーくん? 似合うかな?」
「……う……あ」
照れ臭そうな笑みを浮かべ登場したサラを見て、オリヴァーは顔を真っ赤にして狼狽してしまう。そして、あろうことにユーリの視界を手で覆い塞ぐという奇行に走ってしまっていた。
ユーリが「おい、急にどうした!?」と、驚愕するが、オリヴァー本人にもよく分かっていない。
「す、すまないユーリ! 何故か君に見せたらダメだと思ってしまったんだ!」
「え!? 俺に見せられないくらい変な格好してたのか!?」
一体どんな格好をしているのか逆に興味がそそられるが、サラは「そんなわけないでしょ!!」と、抗議の声を上げ否定する。
「もしかしてオリヴァーくん、他の男の子に見せたくないって思っちゃった?」
「ッ」
もう、と困ったように笑うサラに、オリヴァーの心臓がこれでもかというほどバクバクと激しく早鐘を打つ。肩口の開いたロングドレス姿の彼女――特段奇抜な格好をしているわけではないのに、他の誰よりも綺麗だと思った。
そう……サラの言ったことは図星で、他の誰にも彼女を見せたくない。自分だけのものにしたいという独占欲が湧き出してしまう。
「服、他にもあるからちゃんと選んでね?」
満更でもなさそうに問いかけてくるサラに、オリヴァーは溢れ出るこの気持ちを必死に抑えつけようと踏ん張る。
今は非常事態であり、こんな浮ついた気持ちでいたら目的なんて果たせない。そんなこと分かっているのに……。
オリヴァーには分かってしまった。この気持ちはそんな簡単に割り切れるものではないと。それこそ、これまで培ってきた常識を変えてしまうような、そんな破壊力を持った恐ろしいものなのだと。
自覚したのなら、もう後戻りはできない。恋という名の迷宮から脱出するには、この想いを告げなければならない。それがどれほど恐ろしい行為か、思春期の少年はようやく理解したのだった。