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武装魔術戦記-フリーディア-  作者: めぐみやひかる
第五章 終焉の光
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第130話 千術 VS 終滅 後編

「技術でフリーディアに勝てる種族はいない。シン玩具おもちゃか何だか知らねぇが、力尽くでじ伏せてやるよ!」


「玩具……だとッ」


 イリスの矜持きょうじを、誇りを、玩具などという安っぽいいみなを口にするファルラーダに激怒する。


「私は(シン)の存在を……世界に意思が宿っていることを信じています。神遺秘装(アルスマグナ)へ至りし存在は、亡き御神に見初められた高貴な魂を持つ者のみ。

 それは、私とエレミィの絆そのものなんです!」


 世界に愛された二人しか持たない絆の象徴。イリスはそう思っているし、今でも信じている。


「知るかそんなもの。いくら兵器に愛着があろうと(おれ)には何ら関係のない話。

 そんなに我を通したければ、この(おれ)に勝てばいい。強者が弱者を制す。いつの世も、そうやって物事を決めてきたんだからな!!」


 例え間違っていても、強者の言葉は絶対。弱者がいくら吠えようとも、ただの遠吠えにしかならない。


 ファルラーダの戦意に呼応するように、空鱏(バトイデア)の砲身から超巨大魔法砲撃が再び火を吹いた。


 イリスの視界を覆うほどに強大な魔法砲撃だが、例えどれ程の威力を誇ろうと、世界に祝福され、シンより賜りし神遺秘装(アルスマグナ)の前では無意味。


終滅剣(エクスディウス)!!」 


 全てを終わらせる終滅ついめつつるぎもって、イリスは迫りくる巨大な閃光を両断した。今さらどれだけ威力を上げたところで、無意味なことはファルラーダも分かっている筈。


 手数の多い千術魔銃(サウザンドライフル)ではなく、何故今このタイミングで空鱏(バトイデア)から巨大魔法砲撃を放ったのか?


「な!?」


 その答えは、イリスの目の前にあった。


「死ねッ!」


 気が付けば、ファルラーダが空鱏(バトイデア)から飛び降り、拳をイリス目掛けて振りかぶっていた。


「ッ」


 終滅剣(エクスディウス)を前に、接近は無いと完全に油断していた。剣を大きく振り抜いた後の体勢からでは、間に合わない。終滅するより早くイリスが死ぬ。


 一種の未来予知的直感のおかげで、身をひねったまま強引に足場を崩し、回避する。ファルラーダの剛拳が、イリスの長い耳をかすめると同時に、空気が爆発したかのごとき衝撃音が木霊する。


 空中で落下するイリスは、岩石を足元に転移させ、着地。ファルラーダは、バトイデアを再展開し、足場を得た。


「うっ」


 ファルラーダの剛拳を何とか回避したイリスだが、三半規管が乱れ平衡感覚を失う。今の衝撃音で鼓膜こまくが破裂したようで耳から血が垂れ落ちる。


「はん、どうやらさっきの一撃で鼓膜が破けたみたいだな。耳が長ぇからそうなるんだよ。

 貴様の未来予知じみた直感力には驚いたが、音が防げねぇようじゃ意味ねぇな」


 ファルラーダは本気で当てようとしてかわされたことに驚いた様子だったが、結果としてイリスにダメージを与えることができたので良しとしている。


「貴様の手の内も知れたし、いい加減カタつけるか?」


 いつまでもたわむれるのは性に合わないと、ファルラーダは正々堂々正面から魔力をぶつけ合い、どちらの想いが強いのか決着を望んでいる。


 ミアリーゼ・レーベンフォルンの忠義が勝るか、エレミヤへの親愛が勝るのか? どちらの主人が世界の覇者に相応しいか、勝負と行こうぜ――と、千術姫は目で語っていた。


「くっ」


 この状況で、迂闊うかつ終滅剣(エクスディウス)を用いた究極魔法を使えば、地の利を得ているファルラーダは、簡単にかわしてのけるだろう。


 範囲を広めれば話は別だが、肝心の足場となる岩石にも影響を及ぼしてしまうため、重力に従いイリスが落下する形となってしまう。


 そうなればどうなるか、それは火を見るよりも明らか。肝心要の味方陣形をイリスが崩壊させるわけにはいかない。だがしかし――。


千術魔銃(サウザンドライフル)解除(リリース)

 魔術武装(マギアウェポン)展開(エクスメント)――千術収束爆弾サウザンドクラスターボム


 そんなイリスの逡巡しゅんじゅん他所よそに、ファルラーダの背後から現れた超巨大爆弾の数々。まるで孵化うか前の卵を思わせるような円形で、その表面には無数の細かい突起が散りばめられていた。それは一つ一つが銀色に輝くように磨かれ、遠くから見れば星屑が無数に集まったかのようにも見えた。 


「おら、貴様もさっさと使えよ切り札(まほう)をよ。剣一本じゃ戦略兵器には勝てねぇぞ?」


 ファルラーダは、今なお味方を案じ、切り札を解き放つことができないイリスを挑発する。 


(おれ)の力は戦略破壊に特化している。今は赤子でも指先一つで命を奪える時代、戦士として個人が武勇を示す戦り方は時代遅れなのさ。ま、それはそれで風情ふぜいがあっていいと思うがな」


 ファルラーダは武術や剣術に長けているわけではない。もしこれが両者剣を用いた戦いだったならば、イリスが圧勝していただろう。


 しかし、これは尋常なる決闘ではなく単なる殺し合い。生きるか、死ぬか、互いの存亡を賭けた戦争なのだ。


終法(ツイホウ)――」


 イリスは、この戦争に勝つために戦っている。多少の味方が犠牲となっても、それは仕方のないことで。どの道、ファルラーダ・イル・クリスフォラスを倒さねば皆殺される。だから――。


「――終滅地鳴(エクスディウステラー)!!」


 出し惜しみなどしていられないと、イリスは全力全開最大規模で究極魔法を解き放った。


 コントロールなどしている余裕はない。ファルラーダを殺すためだけに放たれた終滅地鳴(エクスディウステラー)は、イリスを中心に球体状となって広がっていく。


 空中に浮かぶデブリ帯が軒並のきなちりと化し、そのまま落下しながら、地表へと終わりを運んでいく。


 これが、イリスの切り札。終滅地鳴(エクスディウステラー)に触れたものは、生物無機物問わず、全てを終滅させることができる。


 あの巨大爆弾群が、どれ程の破壊力をともなおうと、触れれば全てが無為に帰す。いくらグランドクロスといえど、どうすることもできない筈だ。


「貴様、アホだろ。何敵の言葉に惑わされてんだ?」


「!?」


 自軍を巻き込み終滅していく中で、ファルラーダが呆れたような口調でそう言うと、問答無用に千術収束爆弾サウザンドクラスターボムを一斉に地表へ向け解き放つ。


 しかし、これは意味のないことだ。イリスの終滅地鳴(エクスディウステラー)の前では全てが無に帰す。先程も説明したように、終滅の特性を得た衝撃波はどんな魔法を用いたとて防ぐことはできない。しかし――。


「猿以下の低能が。学習というものを知らんらしいな」


「……え?」 


 その瞬間、イリスは信じ難い光景を目にして固まった。


「そんな!?」


 終わらない。終滅地鳴(エクスディウステラー)を受けた筈のファルラーダの魔術武装(マギアウェポン)が健在しているのだ。


 驚愕するイリスの頭上へ、降り注ぐ千術収束爆弾サウザンドクラスターボム。パカリと二つに割れたその中から、無数の爆弾が煌々と光を放ちながら散らばった。


「貴様の持つ剣の能力は、先ほど(おれ)の口から語って聞かせただろ? 散々見たし解析の時間も充分あった。

 そいつは都合良く何でも量子分解しているわけじゃない。本当に全てを終わらせることができるのなら、貴様の周囲は真空となる筈。

 だが観測した結果、空気中に散らばる微粒子は依然として存在したままだ。つまり――」


 自律型千術魔装機兵オートメーションヴァスティオンたちが爆風を回避するために、ファルラーダのもとへ群がってくる。


 それらが無事である理由は、終滅剣(エクスディウス)による究極魔法が、完全に無効化されたからに他ならない。


「貴様が認識できない微粒子――馬鹿に分かりやすく言うなら、見えない対象は終わらせることができない。ならやることは簡単だ。魔力を操作し、まくおおうように魔術武装(マギアウェポン)をコーティングしてやればいい。

 更に加え、物質の量子の状態を常に安定化させれば、分解されずに済む。貴様の魔力によって終滅が行われている性質上、その魔力質量を上回れば簡単に防げるのさ」


 無限の魔力を持つファルラーダだからこそできる対策。従来であれば、イリスの究極魔法を超える量の魔力を放出するなど自殺行為に等しいが、例外は常に存在するというわけだ。


「う、そ……」


 散りばめられた千術収束爆弾サウザンドクラスターボムが、次々に地表へ投下され周囲を火の海に沈めていく。当然重力に従い落下していたイリスは為す術なく巻き込まれる。まさに破壊の化身に相応しき圧倒的火力に、個人が対抗する術などある筈もなく――。


 やがて、爆炎によって吹き荒ぶ荒廃した大地の中から、数多の種族連合兵士の遺体と、イリスらしき人影が姿を現す。


「理解したか愚物? その剣は世界が賜った神秘でも何でもない。ただの技術で造られた神紛いの玩具に過ぎないんだよ」


「ゴホッ、ガハッッ」


 砂塵の中から出てくるイリスは、咄嗟とっさに魔法障壁を展開し、即死をまぬがれたのだろう。しかし衝撃までは防げなかった様子で、見るも無惨なボロボロの姿となっており、その瞳には深い絶望の色が宿っている。


 空中に浮遊する自律型千術魔装機兵オートメーションヴァスティオンを従えているファルラーダ・イル・クリスフォラスの姿は、まさしく覇者たる存在そのもの。


「私は……私が信じてきたものは、一体……」


 不変不滅の(シン)すら殺してみせた終滅剣(エクスディウス)の魔法を、一人のフリーディアが防いだという事実。


 今まで信じてきたものが、足元から崩れ去っていく。このままイリスが敗北すれば、種族は滅亡してしまうというのに、奇跡の一つも起こらない。


「無様な姿だな、異種族。見えもしない何かにすがっている奴に(おれ)が負けるかよ。この程度で心が揺れるようじゃ、高が知れる。そんなんでよく最強を名乗っていられたな」


「……あ」


 すがっている。それは、ドワーフ国へ訪れた際に、ミグレットの家でユーリ・クロイスがエレミヤに対して放った言葉と同じ――。

 

"千里眼(アインハクラ)がどこまで見えてるのか知らないが、正面から戦争すればどれだけの被害が出ると思ってる? その自信の根拠はどこからくる?

 今は地の利が勝ってるから迂闊に攻めてこれないだけ。均衡状態なんてすぐに崩れるし、こっちにも最強戦力を誇るグランドクロスがいるんだから尚更だ。

 俺はそのグランドクロスを二人ばかり知っているが、俺たちじゃ歯が立たない正真正銘の化け物たちなんだ"


"俺もあんまし人のこと言えないだろうけど、お前たちよりは現状を分かってるつもりだ。

 千里眼(アインハクラ)という力に依存して、死んだ神様に縋るしかないお前たちがフリーディアに勝てるとは思えない"


「私、は……」


 あの時は、気にも留めなかった。戦争が始まっても、イリスが負けるなどつゆ程にも考えていなかった。何故なら、世界に選ばれたから。


 世界が、(シン)が祝福してくれている。だからエルフは負けない。いや、負ける筈ないのだと……。


「愚物が、貴様は(おれ)が手を下す価値もない。

 やれ、自律型千術魔装機兵オートメーションヴァスティオン


 ファルラーダは、身の程もわきまえないイリスを、心底落胆した様子で侮蔑的視線で見送り、用済みだと切り捨てていく。


(シン)……エレミィッ」


 最後まで誰かにすがるしか無いイリスは、己の無力さに打ちひしがれた。

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