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武装魔術戦記-フリーディア-  作者: めぐみやひかる
第五章 終焉の光
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第119話 宿敵

 ユーリ・クロイスとダリル・アーキマン。当初は西部戦線の司令官と新兵という関係でしかなかった二人だが、巡り巡って最大の因縁を持つ相手となっていた。


「「うぉぉぉぉおぉぉッーーー!!!」」


 両者の咆哮ほうこうが炸裂し、激突する。ユーリの放った魔弾と、ダリルの放つ空気砲の威力は全くの互角だった。


「「ッ」」


 互いに魔術武装(マギアウェポン)を展開した状態。その威力は言語を絶するほどで、凄まじい衝撃が大気を揺らし、荒んだ大地ごと吹き飛ばし、世界に悲鳴を上げさせた。


暴風籠手(ヴィートガンドレッド)!!」


変幻機装(トランスフォルマ)!」


 見て分かるように、ダリルの魔術武装(マギアウェポン)は超接近型の籠手ガントレット。独特な緩急かんきゅうをつけて、ファイティングポーズの構えを取る相手と同じ土俵に立ってやる道理はない。


 ユーリは変幻機装(トランスフォルマ)を銃形態に維持したまま、動きを牽制する目的で魔弾を解き放つ。

 

「あはははははは! そう怯えることはない。せっかく立ち上げた大舞台だ、どうか存分に楽しもうじゃないかね!!」


 誰にも邪魔されず、うれうことなく死闘(デスマッチ)を堪能しているダリルが放つ渾身のストレートが、ユーリの魔弾ごと言葉を打ち払った。それと同時に一気に踏み込み、負傷も気にせず間合いに入る。


「なに!?」


 自殺行為に等しいダリルの行動に動揺しつつ、間合いから逃れようとするユーリだが。


「逃さん、ここは私の距離だ」


「くそっ」


 見たこともない独特の足捌きで呼吸をずらされ、行動がワンテンポ遅れてしまう。直撃こそ避けられたが、脇腹に一撃もらい苦痛に顔を歪ませる。


「よくかわした! いいぞ、先程の魔弾といいクレナの時より更に強くなっているようだな!

 素晴らしい、流石は(シン)となるべく生み出されたフリーディアだ!!」


「何で、あんたがそのことを知ってるんだ!?」


 記憶遡行で知ったユーリの出生の秘密を、一介の基地司令が言い当てた事実に動揺が隠せない。


「その反応……やはり私の推測は正しかったようだな!!」


「カマをかけたのか、ふざけやがって!!」


 ダリルから放たれる右フックを上体を逸らして紙一重でかわし、一気に飛び退いて魔弾で応戦する。


 一ヶ月以上眠りについていたというのに、驚く程身体が軽い。歴戦の猛者であるダリル相手に善戦している。本来なら喜ぶべきことの筈なのに、今は不可解さの方が勝っている。


「はは、成長速度が早すぎて君自身戸惑いが隠せないようだな。

 クロイス家について色々と調べさせてもらったよ。異生物学者である君の父が推進していたジェネラル計画について――(シン)人間(フリーディア)の手で生み出す禁忌について君はどう思う?」


「くっ」


 分かってる。クロイス家が人としての道理に反する行いをしてきたこと。だけど、それとは別にユーリ個人は家族が大好きなのだ。それは過去を知った今も変わらない。

 

「ジェネラル計画だとか、俺が(シン)だとか、そんなものに興味はない!!」


「本当か? もし君が定められた運命に抗いたいというのなら、私の手を取るといい。すぐに戦いを中断して君に力を貸そう。

 共に理想の世界を築き上げようじゃないか!!」

 

「誰が! 例え嘘でも、あんたの言葉に頷くことはできない! 自分に嘘を付いて、騙していくやり方で得られる平和なんて偽りだ! それだと嘘だらけの今の世界と変わらない!

 そんな世界にさせないために、俺たちは戦うって決めたんだよ!!」


 脳裏に浮かんだ仲間たち、そして大切な家族を想いながらユーリは腹の底から声を絞り出し叫ぶ。


「はは、君は本当に純粋で真っ直ぐな性格だな。綺麗すぎるよ、君の理想は。簡単なようでいて、一番困難な道だ。

 失望を通り越して清々しいよ。どんな状況に陥ろうと君の精神は揺るがない、ブレない。けれどね、ユーリ・クロイス――そんなものは普通の人間(フリーディア)が考えることではないのだよ」


「何を……」


「君の思考は神の視点から物事を見ているということさ。だから他の皆は君の理想に触発されていく――いや、信仰……かな?

 神が存在しないこの世界で、人は新たに誕生した神に魅入られていく。君は自分を普通の人間(フリーディア)だと思い込んでいるのかもしれないが、それは大きな間違いさ。改めて言おう――君は普通じゃない。

 自分がもっと選ばれた有能者であることを誇るべきだ」


 ユーリは一度も自分を特別な存在だと思ったことはない。どこにでもいる、ちょっと家が裕福などこにでもいるただの名家の跡取り息子。


「……俺はあんたと違って自分が特別であることに何ら誇りを感じない。心底どうでもいいと思っている。

 知ってるか? ダリル・アーキマン。異種族の話だと神は己が特別な存在であることを嘆いて自殺したんだぜ?」


「自殺……?」


 ダリル・アーキマンはシンの存在は知っていても、異種族の歴史までは把握していない。だからユーリが語った意外なシンの結末に目を剝いて驚いている。


「あんたが求める優生思想ユージェニクスの復活。有能だから、完璧な世界が生まれるんじゃない。そもそも完璧な世界って何だ? 潔癖症にも程があるんだよあんたの目指す世界は。

 俺の目には、あんたがシンになろうと必死に足掻あがいている道化に映る。自分が特別だと思い込んで、届かぬ領域に手を伸ばそうとしているんだ。

 俺から言わせれば、あんたは典型的なただの普通の人間(フリーディア)だ!」

 

「…………」


 ユーリの言葉に、ダリルは何を思うのだろう? 静寂が訪れ、戦闘中であるにも関わらず、時が止まったかのような錯覚に陥る。やがてしばらくすると、乾いたダリルの笑い声が響き。


「は、ははは! 流石、シンの口からつむがれる言葉は違うな。特別であるがゆえに普通であろうとする君と、普通であるがゆえに特別であろうとする私。

 初めから交わることは無かったということか」


「訂正するけど、俺は普通でありたいとは思ってない。特別とか普通とか劣等とかそんな枠組みなんてどうでもいいって思ってるだけだ」 


「私からすればどっちも大差ない、些事さじにすぎんよ」


 ユーリ・クロイスとダリル・アーキマン、お互い絶対に交わることのない敵同士だと分かっただけで充分だと言いたげな口調であった。


「私は君を屈服させる、その意志は微塵も変わっていない。必ず負けを認めさせる。それこそ、私の人生の全てを賭けてな!!」


「くッ」


 ダリル・アーキマンから放たれる塵旋風じんせんぷう蹴りが盛大に土砂を巻き上げ、視界を覆い尽くす。


「勝負はフェアにいこうじゃないか。私の知る現在の戦況を君に教えよう。その代わり君が知るジェネラル計画について詳しく教えてくれないかな?

 自分に嘘を付くのが嫌いな君は当然親切に教えてくれるんだろうね?」


「大人は狡猾こうかつ姑息こそくだから子供に嫌われるんだよ」


「狡猾で姑息だからこそ、世の中を生き抜いていけるのさ!」


 巻き上がる多量の土砂を突き抜け、ダリルの拳が再びユーリのもとへと迫った。


換装(シフト)剣形態(ブレードフォーム)


 兵装の換装。魔術武装(マギアウェポン)以外の単調な武器であればコンマ一秒以下で展開できる。ダリルのスピードはナギより遅い。目で追える。

 

 ボクサースタイルから繰り出される拳を剣で受け流し、弾き返す。風圧により、ブワリと髪が巻き上がり凄まじい衝撃がユーリとダリルを襲うが、両者は一歩も引かずに追撃に移る。


 互いに大技を放つ隙をうかがい、なおも息つく暇すら与えない。ユーリには分かる。ダリルにとって一連の攻防はウォーミングアップにすぎないこと。自身も本気を出しているわけでないが、正直喰らいつくので精一杯だ。


「ふっ、どうした? 君の実力はこんなものではあるまい? もっと全力を絞り出せ!!」


「ッ」


 フリーディアと異種族の大戦。開戦してから暫く経つが、戦況に呼応するように天候はみるみる内に悪化し、雷鳴が轟き嵐と化す。

 

「気に入らんな」


 幾多いくたの攻防の果てに、ダリルは不快げに顔を歪ませる。


「君の本命である戦争を止めるために魔力を温存する気でいるのもそうだが、一番は本気も出さずにこの私に勝つつもりだというのがな!

 目論見が甘すぎる、私も安く見られたものだ!!」


 ダリルが気に入らないのは、ユーリが全力で挑んでおらず、真剣に己に向き合っていないこと。自身を全く見ていない神に激しく感情が揺さぶられたのだ。


「――ま、それが狙いなんだけどな」


 ユーリの呟きと同時に、先程までの打ち合いとは比較にならない程の膂力りょりょくで剣を振り抜き、暴風籠手(ヴィートガンドレッド)を弾き飛ばし、ダリル・アーキマンの体勢を崩す。


「!?」


 感情の乱れはほころびを生みやすい。クレナとの戦闘で嫌ほど学んだユーリは、あえて手加減することでダリルの感情を激しく揺さぶったのだ。本気をぶつけ合うのではなく、相手に本気を出させずに決着をつける。


「あんたを討つ!」


 ナギやクレナの時のような手心は加えない。徹頭徹尾てっとうてつび容赦無く殺すつもりで、変幻機装(トランスフォルマ)を振るう。


 綺麗事じゃ、戦争を終わらせることなんてできないから。自分だけ誰も殺さずにいようだなんて、虫の良い話だ。だからユーリは殺す、ダリル・アーキマンを。


 恨んでくれていい、呪ってくれていい。ユーリはもう自分の幸せを求めない。使命に生きると誓ったのだ。だから――。


「ふんッ!!」


「ッッッ!?!?」


 ずらされた。呼吸を、勢いを。コンマ一に満たない刹那をカウンターで合わされた。空間がじ曲がるような渾身のストレートを受けたユーリは、衝撃と共に螺旋状にぐるぐると回り、弾丸のごとく吹き飛ばされていく。


 剣を地面へ突き刺し、勢いを殺す。追撃さらないよう、変幻機装(トランスフォルマ)を銃形態へ換装させ、応戦する。


「カハッ」


 致命傷は避けたが、内臓をやられたのか激しく咽せ返り吐血する。


「隙ありぃッ!!」

 

 その僅かの隙を突いたダリルは、ユーリが呼吸を整える前に素早く風魔法を行使し、またたくく間にユーリとの距離を詰めていく。


「あがっ! くそ、何で!?」


 二撃目をもらい、ユーリは苦悶の声を上げる。続いて三撃目、四撃目と続き、いよいよとなって形勢がダリルへと傾いた。


 一気に追い詰められたユーリだが、ことごとく呼吸が合わず、思った方向と必ず逆の動きをしてくるダリルに焦らさせれる。まるで後出しじゃんけんでもされている気分だ。


「一つ、アドバイスをしてやろう。君の成長速度は素晴らしい。今の君は確かに凡夫共を遥かに凌ぐ力を持つ――が、私から言わせれば動きがまだ若い。

 一言でいえば熟練度が足りん。挙動の駆け引きが致命的に下手なのさ」


「ッ」


 熟練度。それは生まれ持った才能だけでは得られない、年季を重ねることで得られる技能。


 ユーリも、アリカやクレナといった実力者もダリルからしてみればまだ若い。なまじ力のゴリ押しでどうにかなってしまうため、こうして同じ土俵に立たされれば否応なく差が生まれてしまう。


 ダリル・アーキマンはたゆまぬ鍛錬の末、達人の域にまで武術を極めているのだろう。一つ一つの動作に無駄がなく、かつ最良の結果を齎している。


魔道古武術(マジシャルアーツ)……確か授業で少しだけ体験した覚えがある」


 ユーリが教育で受けた知識の中に、魔法と拳法を組み合わせた戦闘術が存在したことを思い出す。現代の銃火器を主体とした戦法とはかけ離れた、時代遅れの産物。リーズシュタット流剣術同様、今では一部のマニアにしか認知されていないが、それを愚直に鍛錬し達人の域にまで極めた者がいる。


「なんだ知っていたのかね。銃に頼ってばかりの今の世代には魔道古武術(マジシャルアーツ)は古臭い芸に映っているのかもしれんがね、極めれば(シン)にも届きうる必殺の武器となる!」


 ダリル・アーキマンはユーリのような特異体質とは違う、特別な才能などないただの人間(フリーディア)。ただ愚直に何十年もかけて一点のみを極め続けたおかげか、その分野においてのみいえば最強格に君臨していた。


「あぐぅぅッ!?」


 変幻機装(トランスフォルマ)は粉砕、かつ身体のいたる部位が破壊されたことで、思考がミキサーに掻き混ぜられたかのようにぐちゃぐちゃになる。暴風籠手(ヴィートガンドレッド)の風魔法も合わさって、このままではちりすら残らなくなってしまうだろう。


「打つ手なしか、ユーリ・クロイス? 私はこのまま君が塵となるまで殴り続けるぞ!」


 こんなところで負けるわけにはいかない。今も必死に戦っている仲間たちを助けるためにも、ユーリはこんなところで。


「俺は、俺はもう絶対にッ」


 戦争を終わらせる。フリーディアと異種族が共存共栄していく世界にする。今となっては無茶振りもいいところだが、大切なみんなが幸せになってほしいから。


(そのためだったら何だってやってやる! だから俺に(シン)の力を使わせろ!!)


 内なる深淵に眠るシンの因子を、今度はこっちが引きり出してやる。


 絶望なんか吹き飛ばせ、ご都合主義全開の大円団(ハッピーエンド)を迎えるために。かけがえのない日常の一ページをめくり、みんなで物語を紡いでいこう。

 

 

「む!?」


 刹那、防戦一方だったユーリがあろうことか魔術武装(マギアウェポン)を解除したのだ。その後も再展開する気配がない。諦めた? いや、違う。彼の闘志は微塵も衰えてはいない。


「いくぞ――」


 何を思ったのか、あろうことかユーリ・クロイスは素手で暴風籠手(ヴィートガンドレッド)に触れようとしてくる。いいしれぬ悪寒を感じたダリルは、すぐさま攻撃を中断し、回避行動に移る。


「これは……」


 ユーリ・クロイスの掌に集まる不可視の魔力。大気中の魔素を収束させた小さな台風のようにも見えた。彼は一体何をするつもりなのか?


「逃げるなよ、ダリル・アーキマン」


 まさかユーリ・クロイスは、今の一瞬で魔道古武術(マジシャルアーツ)の極意を掴んだというのか? これまで防戦一方だったにも関わらず、彼の表情はどこか落ち着き払っている。


「わざわざあんたの暴風籠手(ヴィートガンドレッド)換装(シフト)する必要なんてない。(シン)の因子を宿した俺は、相手が強ければ強いほど際限なく強くなれる」


「…………」


 ユーリの掌に収束する圧倒的魔力……凡人が数十年以上かけて積み重ねた努力の結晶を、一瞬にして無にしてしまうほどの圧倒的な才能。


「さっきまでの威勢はどうしたんた? ひょっとして――俺が怖いのか?」


「抜かせ、嵐法(ランホウ)風大砲(エアリアルキャノン)!!」


 挑発と分かっていても乗るしかないダリルは、拳と共に渾身の風魔法をユーリへ叩き込む。暴風籠手(ヴィートガンドレッド)からキィィィィンッ! と、激しき駆動音が轟く中、あろうことか彼は真っ向から掌で受け止めた。


「――な、がぁッッ!?!?」


 次の瞬間、突如として暴風籠手(ヴィートガンドレッド)が爆散し、ダリルは苦悶の表情を上げる。幸いにも腕は無事だったが、肉はただれ焼け落ちてしまっている。


「ま、俺の魔力注ぎ込んで暴風籠手(ヴィートガンドレッド)噴出孔ふんしゅつこう塞いだんだから当然そうなるよな。

 こうなった理由は明白で、単に俺の魔力があんたの魔力を上回っただけのことだ」


「う、ぐぐ……」


 激痛で右腕を庇い、大きく距離を取るダリルへ悠然と歩を進めるユーリ。


「なるほど、力の差を見誤った私の落ち度というわけか。この傷は授業料として受け取っておこう」


 だらりと右腕をぶら下げながら不敵に笑うダリル。彼はまだ諦めていない、むしろここからが本番だと戦意を昂らせている。


変幻機装(トランスフォルマ)――換装(シフト)剣形態(ブレードフォーム)


 再び剣形態へ移行したユーリは、ダリル・アーキマン目掛けて疾走する。


「私はこんなところで負けるわけにはいかんのだ! これは私に課せられた最大の試練、ここを乗り切らねば今までの努力が全て無為に帰す!」


 ユーリが振り抜いた一刀を、魔道古武術(マジシャルアーツ)による独特な歩法で回避すると同時に、ダリルは渾身の塵旋風蹴じんせんぷうげりを放った。


 しかし、傷の影響か、先程よりも格段に威力が落ちているため、難なくユーリに対処されてしまう。


「クレナさんの人生をもてあそんで、大勢の人を不幸に陥れておいて、何が試練だ! 結局あんたは、最後まで自分に酔いしれてるだけだろうが!!」


「クレナ……? あぁ、あの使えんゴミのことか。奴なら戦場へ駆り出した。君ほどの人物が気にかけることはない、今頃とうに死んでいるだろうさ」


 風魔法を駆使しつつ、残された左腕のみで抗うダリルの言葉に、プツンとユーリの中の何かが切れた。


「ふざけるな! 人の価値をあんたの価値観で勝手に測るな!! 命はゴミなんかじゃない、俺はあんたのその考えを絶対に認めない!」


「今の君と気持ちを、私はミアリーゼ様や無能な政府高官連中に対して懐いているよ。分かるだろう、ユーリ・クロイス?

 その感情こそが人の本質だ。普通の人間(フリーディア)で在りたいのならば大切にすることだ」


「そうかよ」


 心底どうでもいいと、ユーリは吐き捨てるようにダリルへ剣を振り下ろす。咄嗟とっさ暴風籠手(ヴィートガンドレッド)を盾代わりにし、ガキィィィン!! という甲高い金属音が響き渡る中、二人の男は視線をぶつけ合う。


「今、かわさなかったな? 俺があんたの動きに慣れてきたのか、それともあんたが疲弊しているのが原因かどっちなんだろうな」


「ふ、ふふふ……誇りたまえ。君の動きにキレが増している。初見の筈の私の魔道古武術(マジシャルアーツ)を不完全ながら見切って対処してしまうとは――本当にとんでもない存在だよ、君は」


 ユーリはダリルが半生をかけて磨き上げてきた魔道古武術(マジシャルアーツ)の極意を、僅か数瞬で見切ってみせた。


「私が魔道古武術(マジシャルアーツ)を会得したのに何十年かかったと思っている? 極意を極めし者だけが掴み取る頂の景色を、君はこの僅かの間で拝んでみせた!

 何という才能、これがシンと呼ばれし者の力か! 無能共では決して得ることのできない力――そんな君を打ち砕くことができれば、私は!!」


 これが、生まれ持った天賦の才を持つ者と、そうでない者の差。その羨望せんぼうにも似た眼差しを見て、ユーリはようやく理解した。


 何故ダリル・アーキマンが軍務を放棄し、全てをかけてまでユーリに挑むのか疑問だった。何十年もかけて入念に準備したにも関わらず、彼の瞳にはユーリを打倒することしか映っていない。


 ダリル・アーキマンの野望とは別の、個人の内から湧き上がる欲望が垣間見える。ただ満足を得たいがために戦っているこの男は、度し難い小物であることを悟ったのだ。

  

 そう、ダリル・アーキマンという人間フリーディアの本質は――。


「あぁ、ようやく分かった。あんた、自分が無能だって自覚してるんだろ? それがコンプレックスで、必死に努力してようやく今の立場を得られたのに全然評価されていないのが気に食わない。

 要は基地司令の地位が不満なんだ。自分を認めない奴らを無能だって決めつけて、自己陶酔じことうすいひたってないとやってられないんだろ?」


「……なに?」


 それは、ダリルにとって決して聞き逃してはならない一言だった。


「ミアリーゼ様が嫌いなのも、何の力も持ってない癖に特別な地位にいるから。色々とご高説垂れてたけど、単に特別がねたましいだけなんだろ?

 あんたが……あんたこそが、大物の皮を被った欲望を抑えきれない小物、すなわち無能ってやつだ!!」


 ダリル・アーキマンを本当の意味で倒すことができる唯一の方法。言葉という最強の魔法が、彼の心をえぐり抜いたのだった。

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