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武装魔術戦記-フリーディア-  作者: めぐみやひかる
第四章 種族会談
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第109話 種族会談

 ついに開かれた種族会談。人類(フリーディア)、異種族の両陣営が、様々な想いを抱え行く末を見守っている。


 十万を超えるフリーディア前衛部隊で直立不動で行く末を見守るオリヴァー・カイエスと、未起動の薔薇輝械ロードナイトエリキシルを握り、愚痴愚痴と文句を垂れているランディ・カイエス。


 アリカ・リーズシュタットと、ダニエル・ゴーンは、いつ何が起きてもいいよう臨戦態勢を整え、後方部隊とともに待機中。


 ミグレットと、シオンは、議会堂(カウンシル・ホール)から離れた駐屯地の中、エルフに守られる形で会談が上手くいくようお互い手を握り合い祈っている。


 サラは、オリヴァーたちの様子が気になり、ドワーフ兵とエルフ兵の間を「ごめんなさい」と謝りながらき分け、境界線ギリギリのラインまで行こうとしている。


 ユーリ・クロイスは、記憶遡行中にシンの因子に囚われ、深海の奥深くまで引きり込まれ、今も抜け出そうと必死に藻掻もがいている。


 議会堂(カウンシル・ホール)内にいるナギ、イリスはフリーディア統合連盟政府首脳陣の後ろに控えるダリル・アーキマンとクレナ・フォーウッドを警戒し、万が一に備えて神経を研ぎ澄ませている。


「フリーディア統合連盟総帥――エルヴィス・レーベンフォルンです。過去前列のない異種族との会談。双方にとって有意義なものとなることを願っています」


 エルヴィス・レーベンフォルンと名乗った五十代前半と思しき男性が差し出す手を握り返し、エレミヤは言う。


「それでは早速ですが、まずはお互いの見識を深めるところから初めませんか? どうぞ、お掛けになってください」


 エレミヤにうながされるまま、統合連盟首脳陣は着席する。続いて異種族たちも着席し、エルヴィスとエレミヤが向かい合う形となる。


「見識、ですか。なるほど、まずは我々人類(フリーディア)とあなた方異種族との差にある認識を改めようというわけですね」


 エルヴィスの言葉を受け、エレミヤは頷く。


「はい。我々とあなた方の間には歴史や文化、価値観に大きな差異さいが見受けられます。しかしそれは対立を意味するものではなく、互いの理解と尊重をもってすれば、共存の道も開けると信じております」


「共存……ですか?」


 エルヴィス含めた首脳陣が、驚いた様子で異種族たちを見つめる。


「はい。単刀直入に申しますと、我々はあなた方フリーディアと共存共栄の提案をするために、この種族会談を開いたのです。

 あなた方が我々を魔石なる物質へと変換させ、エネルギー資源として運用している事実は存じ上げております。それを踏まえて、きちんと話し合うべきかと」


「……分かりました。ではず、本題の前にあなた方が歩んできた歴史、文化を簡潔に説明願えますか? この会談に応じた以上、我々には聞く権利があるかと」


「もちろん、そのつもりです。

 まず初めに我々は今の元号を法歴3023年と認識しています。これは世界が最初に生み出した不変不滅の生命体――(シン)が自らの命を絶ったことから始まりました。

 シンは、己が不老不死であることに嘆いていた。だから世界は有限の命を持つ我々を創造したのです」


 エレミヤの言葉に、会議室は静寂に包まれる。シンが命を絶ったというその言葉は、人類フリーディアの知識とは異なる視点から世界を語るものだった。


「我々は様々な種族として生まれ、世界より異能術スキル、魔法という恩恵を与えられました。

 我々種族は、様々な価値観を持つがゆえに争い、滅び、発展を繰り返してきた。

 そう言った意味では、あなた方とは変わりありません」


「そうでしょうな。知的生命体として生まれた以上、自らの似姿と大きくかけ離れた存在をうとましく思うのは必然です。それは我々人類(フリーディア)も、あなた方エルフ、ドワーフも変わりありません」


「はい。事実エルフ国は、かつてドワーフ国と戦争を行っていました。

 ですが今では同盟関係を結ぶことで互いに価値観を擦り合わせ、共に切磋琢磨せっさたくまし成長していく間柄となりました」


 隣に座るファガール王も同意するように頷く。エレミヤと顔を合わせ、改めてエルヴィスに向き直る。


「なるほど、初めの世界と(シン)については、我々が辿った歴史と随分違うので驚きましたが、それ以降の話は通ずる部分もありました」


 エルヴィスと呼ばれる御人は、フリーディアで一番立場が上ということもあって、しっかりとエレミヤの話を聞いている。


 異種族だからと無碍むげにせず、きちんとフリーディアの現状と照らし合わせて物事を考えている。エレミヤもエルヴィスに関しては大きく警戒する必要はないと考える。


 満をして開かれた種族会談に確かな手応えを感じた。


「あなた方の文化について、もう少し詳しく教えていただけますか?

 それから世界と(シン)についてもより詳細なお話をおうかがいしたい」


 エルヴィスは異種族の文化に興味を懐いてくれた様子で、エレミヤも勿論もちろんうなずき応える。


「エルフは、古くから自然と調和し、世界とシンとうとぶ精神を大切にしてきました。

 わたくしエレミヤも、生まれながらにして姫巫女の立場をになっております」


「その姫巫女というのは、どういった役割があるのですか?」


妖精人族(エルフ)の姫巫女は、シンよりたまわれた神遺秘装(アルスマグナ)――千里眼(アインハクラ)を持つ者が担います。主に国を挙げた行事や儀式に出席し、祝詞しゅくじを唱えたりとやることは様々です。

 ですが、姫巫女の真価は千里眼(アインハクラ)を通し、世界の景色と、亡きシンの御声を届けることにあります」


「声? 先程、(シン)は亡くなられたとおっしゃられていませんでしたか?」


(シン)の肉体は滅びましたが、精神まで滅んだわけではありません。今も世界より我らを見守ってくださっております」


「なるほど。つまりあなたは亡きシンの意志を伝える代弁者ということですか?

 この会談も、シンの意志によって開催されたと?」


「いいえ、代弁者という意味は間違っておりませんが、この種族会談は我々の意思によって開催されたもの。そこに(シン)の意思は介在しておりません」


シンの操り人形というわけではないのですね?」


「その通りです」


 エレミヤが同意すると、エルヴィス含めた首脳陣が考え込むような素振りを見せる。その中でも気になったのは、彼らの背後に立つダリル・アーキマンだ。


 この場に立つものの中で、ダリルに対してだけ奇妙な違和感を覚える。以前ユーリを助けた際に一瞬しか邂逅していなかったため、人伝ひとづてでしか彼について把握できていない。


 ざわざわと小声で話し合う統合連盟首脳陣を待ちながら、エレミヤはダリル・アーキマンに対する警戒の色を濃くしていく。


 やがて話し終わったのか、エルヴィスが改めてエレミヤに向き直り、口を開く。


「エレミヤ殿。我々人類(フリーディア)が考える世界についての見解を述べてもよろしいですか?」


「えぇ、構いませんよ」


 エレミヤはニコリと笑みを浮かべ応えた。


「まず初めに、千里眼(アインハクラ)が世界の景色と亡きシンの声を届けるという事実、それはあなた方の勘違いではないかと我々は考えています」


「……え?」


 エルヴィスから放たれた予想だにしない言葉に、平静を保てなくなり動揺の声を上げるエレミヤ。それと同時にエルフ、ドワーフの諸侯しょこうたちから、「どういうことだ!?」と声が上がる。


「落ち着きなさい! この場は互いの見識を確かめ合う場です! 頭ごなしに否定することは許しません。先ずはエルヴィス様の話を聞いてからです!」


 何とか威厳を保ち、場を収めるエレミヤだが、自身も上手く呑み込めていない。それに今の言葉はエルフの歩んだ三千年の歴史を否定するのと同意だ。


 先ほど、エレミヤの口からエルフについて聞いたにも関わらず、えてそれを口に出すということは、エルヴィスにとってこの会話が和平交渉のきもになると考えているからだ。


 思想の違いは争いを生み出す。このままではいけないと思いながらも、エルヴィスの言葉を止めることはできなかった。


「ありがとうございます、エレミヤ殿。続けても?」


「えぇ、もちろん。私の持つ千里眼(アインハクラ)の能力が勘違いというのは非常に興味深い考察ですので、是非ぜひともフリーディアの見解をお聞かせください」


 表面上は平静を取りつくろい、エレミヤは話を続けるようにうながす。


「では改めて問いますが、何を根拠に千里眼(アインハクラ)の見せる景色が(シン)の意志と受け止めているのですか?」


「それは……私の持つ千里眼(アインハクラ)を与えることができる者は、シンしかいないととらえているからです」


「では世界に意思があるとは何ですか? 亡きシンの姿を見た者はエレミヤ殿以外にいるのですか? 何故、他の種族はあなたの言葉をシンの言葉と信用しているのですか?

 私からすれば、エルフが種族の頂点として優位に立つための方便に聞こえて仕方ないのですが」


「「「「…………」」」」


 矢継やつばやに飛び交う質問に、理論的根拠を持って説明できる者は誰もいない。ただ生まれた時に当たり前にある常識としか認識できず、何故世界がそういうものだと分からないのだ? とむしろ疑問が浮かんだ。


「科学的に証明できず、理屈で答えられない事象を頭ごなしに信じることを――我々は《《宗教》》と呼んでいます」


「しゅう、きょう?」


「聞き慣れない言葉でしょうが、ようは一つの絶対者が世界を創造したと信じ込み、崇拝すうはいする団体のことを指す言葉なのです。

 我々フリーディアは、この宗教と呼ばれる概念を忌避しています」


 エルヴィスの放った言葉はエレミヤ――ひいては全ての種族の考えを否定するものだった。


「この世界がどういったものか、我々は既に科学的に解明しております。

 それは一般にも認知されており、我々にとって常識となっているのです」


「ど、どういうこと……なの?」


 エレミヤも和平交渉のことなど頭から吹き飛び、エルヴィスに問い掛ける。


 世界を解明した? 科学的に? 一体何を言っているのか分からず、姫巫女としての仮面(ペルソナ)が剥がれていく。


「言葉通りの意味です。あなた方は空を超えた先には何があるのか分かっていますか?」


「空の、向こう……側? 世界の外側という意味においてなら、何もない虚無の空間が広がるだけと認知しておりますが……」


 見識を深めるところから初めると口にしたはいいが、まさかここまで複雑な話になるとは誰も思わない。


 エレミヤも価値観の違いなど簡単に埋まるものだと思っていた。ドワーフと同盟関係を結べた事実から、上手く紐解けばフリーディアとも手を取り合えると。


 けれど、それは大きな間違いで……。


「世界の外側、……中々面白い表現ですな。

 ですが我々は科学的に解明し、世界の外側がどういった場所なのか理解しております。無限に広がる虚無の空間を、我々は()()と表現しています」

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