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武装魔術戦記-フリーディア-  作者: めぐみやひかる
第四章 種族会談
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第105話 終わらせるために

 エヴェスティシアへ帰還し、再び訪れた擬似宇宙空間(プラネタリウム)。初めはただ圧倒されるばかりだった宇宙空間も、二度目となると別の感慨が生まれてくる。


 神の孤独を映し取った情景に見えてしまうのは、ミアリーゼの錯覚だろうか?


『顔付きが変わりましたね、ミアリーゼ。あなたからは世界に対する強い怒りの念を感じます』


 プラネタリウム内に、一際強い恒星の輝きと共に出現した光源体こそ、人類フリーディアの祖たるデウス・イクス・マギア。


 ミアリーゼとファルラーダは、共に膝をつきこうべを垂れる。


「デウス・イクス・マギア様。折り入ってお願いがございます、(わたくし)に西部戦線へおもむく許可をいただきたいのです」


 前置きはせず、単刀直入に自らの要求を伝えるミアリーゼ。そこにはもう戸惑うばかりだった世間知らずの小娘の姿はない。囚われたかごおりを、自らの意志で破壊して巣立った姫に恐れるものは何もない。


『西部戦線は現在、エルフ、ドワーフとの会談へ向けてエルヴィスが対応し、向かっています。あなたが出向かずとも、政府が戦争の決着をつけることでしょう』


「かもしれません……。ですが、このまま指をくわえて見ていることもできません。

 もしも敵の罠だった場合、西部戦線が壊滅する恐れがある……異種族へフリーディアの本当の恐ろしさを思い知らせ、改めて兵たちに(わたくし)の意志を示すために、そして大切な友人をこの手で守る機会をお与えください」


 異種族相手に不利な状況で会談にいどめば、必ず付け込まれる。エルフが一人で統合連盟軍の部隊を壊滅させたことからも、西部戦線にグランドクロスは必須。だから――。


『……分かりました。そこまでの覚悟があるというのなら、もう何も言いません。

 ミアリーゼ、あなたはあなたの想うがままに行動しなさい』


「デウス様……」


『私は決して万能ではない。未来など誰にも分かりませんし、あなたの行動を制限する資格も本来ありません。

 我らはただあるがままの事象を見届け、受け入れる。

 グレンファルト、ファルラーダ、シャーレ、テスタロッサ、そしてミアリーゼ。そして全ての子供(フリーディア)たち……皆等しく私は愛しています』


 知っている。神とはそういう存在だ。在るべき象徴として人の上に立ち、平等に愛を注ぐ。だから積極的に人々を導くことはしない。精々《せいぜい》が助言程度。


 もしテロリスト――ルーメンに首都を制圧されたとしても、デウスは受け入れるのだろう。善も悪も、全てを内包する器たれ。


 人の身を捨て、心すらも変質してまった(デウス)に対し、ミアリーゼは激情を抱えながら深く感謝をささげる。


『ミアリーゼ、あなたに戦う魔術武装(ちから)を授けましょう。

 これはフリーディアにとって象徴とも言える特別な代物です。今のあなたなら十二分に使い熟せる筈です』

 

「これは……」


 ミアリーゼは、疑似宇宙より降臨する純白と金の装飾が施された超巨大魔術機械を目に焼き付ける。全長100メートルは優に超え、まるで要塞を思わせる造形。


 これまでの常識を覆す代物であることは間違いない。神々しく、凛々しく、美々しく、華々しい、最早武装の枠すら超えた姫専用の魔術武装(マギアウェポン)


『昔とは違い、現代において重要視されるのは個人の実力ではなく、資質。銃の引き金を引けば赤子でも簡単に大人を殺せるのと同じように、実力など性能差でいくらでも覆せるというのが、今のフリーディアが目指す到達点といえます』


 そう、それこそが魔術武装(マギアウェポン)本来のコンセプト。技術者たちが試行錯誤を繰り返し続けた果てに辿り着いた理想。


魔術武装(マギアウェポン)起動(アクティブ)

 

 ミアリーゼはゆっくりと歩み寄り、柔肌やわはだを撫でるように、降臨した超巨大魔術武装(マギアウェポン)に触れる。刹那に微粒子と化し、姫の魔核(コア)に溶け込んでいく。


 胸の内が焼けるように熱い。質量が大きすぎて、内側から破裂してしまいそうだ。


「……ふふ」


 ミアリーゼは笑う。世界を変える圧倒的な力を手に入れた。ようやくここまで辿り着いた。否、正確にいうならば一歩踏み出す資格を得たのだ。


 誰かに決められたレールの上を歩かず、自らの意志で未来を創る。婚約者? 政略結婚? そんな誰とも知らぬ男と生涯を共にする気など更々ない。


 鳥籠から巣立ったミアリーゼ・レーベンフォルンは今や自由だ。父や兄に何と言われようとも、己の道を進み続ける。


 そして殺す。ユーリを傷つけた異種族を。革命軍ルーメンと名乗るテロリスト、ナイル・アーネストという謎の男を含めて全ての悪を淘汰とうたする。先ずはエルフ、ドワーフとの会談の行く末を見届けよう。その結果如何(いかん)によっては――。


「終わらせるために、行きましょうファルラーダ。西部方面最前線へ――(わたくし)に付いてきなさい!!」


「はッ、仰せのままに! 我が主、ミアリーゼ・レーベンフォルン様」


 ミアリーゼ・レーベンフォルンとファルラーダ・イル・クリスフォラスが最前線に立つ。人類(フリーディア)の歴史は今、大きな転換期を迎えている。


 戦争を終結させ、フリーディアと異種族の共存を望む第一勢力、現統合連盟政府の転覆を目論む第二勢力、そして――人を悲しみへと陥れる悪を滅相することを決然した第三勢力。


 それぞれの思惑が交差し、新たな戦いの火蓋が切って落とされた。



 北西部最前線に位置する丘稜きゅうりょう地帯。ビル群を思わせる巨大な岩々がそびえ立つ非自然的な情景だった世界が、壮絶なる破壊痕に刻まれていた。


 まるで隕石群でも降り注いだ後のように、大地のあらゆる場所にクレーターが出来上がり、えぐれた地面が見るも無残に消失している。


 大地から溢れ出る黒き瘴気しょうきは、周囲一帯を汚染し、草木の一本すら生えぬ死地へと変貌へんぼうさせていた。漂う濃厚な魔力残滓、匂い立つ毒々しさの中に命を焦がすほどの力強さを覚える。


 まさに地獄絵図と化した大地の上に、千を超える死体の山ができていた。全長はゆうに十メートルを超え、人ならば道端にいる虫ケラのように踏み潰されてしまうであろう巨大な異種族だった。


 彼らは巨人族(ギガント)と呼ばれ、(パワー)だけならビーストやエルフすら凌駕りょうがする種族。しかし、そんなギガントたちの姿は見る影もなく、全身太陽に焼かれたかのように炭化し、四肢ししがバラバラとなって散らばっている。


 そんな死の山の中に、威風堂々《いふどうどう》たる佇まいの一人のフリーディアが存在した。


「…………」


 彼は極光の英雄の異名を司るグランドクロス=グレンファルト・レーベンフォルン。彼はたった一人でギガントをほふり、死骸に囲われた状態で悠然と佇んでいる。


 彼の瞳には一体何が映っているのか? 先程まで相対していたギガントに微塵も関心を持たず、明後日の空を見つめていた。


「――よっ!」


 そして、鈍色にびいろの空から、グレンファルトの耳に状況に似合わぬ酷く軽快な声が届く。


「ナイル……」


 スタンッ、と文字通り空から降ってきたナイルは華麗に着地し、辺りの惨状を引きった顔で見渡している。


「相変わらず派手にやってんなー。流石、極光の英雄様。容赦のないことで」


「お前こそ、相変わらず神出鬼没しんしゅつきぼつだな。兵に見つかったらどうするつもりだ?」


「大丈夫大丈夫! 軍の奴らまだ手こずってるみたいで、あっちでドンパチやってるよ」


 そう言ってナイルが示した方向からは、激しい戦闘音が轟いており、兵士たちはギガント相手に奮戦している様子だった。


 グレンファルトだけが先行して敵の中枢へ乗り込み、全滅させた。今の状況を端的に述べればそうなる。


「それより情報持ってきてやったぜ。お前の自慢の妹ちゃん、千術姫せんじゅつきちゃん連れて西部戦線に乗り込んで派手にドンパチ決め込む腹積もりらしい。

 もし計画に支障をきたすなら、こっちで何とかしとくけど?」


「必要ない。寧ろ、ファルラーダが首都を離れた今が絶好の機会だ。治安維持部隊も総帥自ら出向いた以上、警備を手薄にせざるを得ない。この機を逃せば、恐らく次はない」


「りょうかーい。なら後はこっちで適当にやっとくわ。ダリルの旦那と最終手筈整えなくちゃいけねぇしよ。

 後はお前お気に入りの後輩くんだけだが……」


「ユーリ・クロイスか……」


「へへ、後輩くんは今、エルフの姫巫女ちゃんと一緒にいる。アイツのおかげで前代未聞ぜんだいみもんの種族会談が開かれることになったんだ、感謝しねぇとな」


「そうか」


「心配か? 奴を戦場に送った張本人だってのに、珍しくシケた面してんじゃん。甘さが抜けねぇのは相変わらずだな。お前、お姫ちゃんにちゃんと婚約者のこと話してやったのか?」


「いや」


「言ってやればいいのに。わざわざ隠す必要あんのかね。もしかするとこっちに付いてくれるかもしんねぇぜ?」


「…………」


 二人の会話は、余人が入り込む余地すらなく進んでいく。その意味も意義も何一つ定かでない状況の中で、刻々と事態だけが進行していく。


「逃げんなよ、グレンファルト。俺と誓った筈だぜ? これまで世界が培ってきた数多の歴史を全て終わらせるってな。

 だから殺すぞ。フリーディアも異種族も、この世界の全てを。

 そうすることで、ようやく俺は終わり(エンディング)を迎えられるんだからな!」


 真のエンディングを求めて。テロリスト――革命軍ルーメンの主犯格であるナイル・アーネストは世界の滅びを祝福する。


「無論だ。俺は、俺たちは、そのために歩んで来たのだから」


 そんなナイルを横目にグレンファルト・レーベンフォルンは、何を思うのか? 同意の言葉を告げた後、ただ静かに死の空を見上げたのだった。

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