雨が上がる時⑨
「やはり………きみだったんだな、ラム」
床に崩れ落ちて自分の体を抱いて小さくなっている私に降る言葉。
「どうして何も言わずに帰ったんだ。どうして何も無かった様に……おれに接するんだ…」
私に合わせて身を屈めたレザファさんが私の両肩に手を置いて揺さぶる。
「ラム!何か、何か言ってくれ……」
此方を見つめるその真剣な瞳を見ていると堪らなくなって、途端に涙が溢れた。
「……………だから……」
「え、」
「レザファさんが…好きだから…………」
私の呟きに驚く彼ににっこりと微笑んで涙を拭った。そして立ち上がり、彼に向かって告げる。
「あの、レザファさん。貴方に好きな人がいる事は知っています───ですのであの日の出来事は夢だった事にして下さって構いません」
(それが、私が出来る精一杯の優しさ)
もうこれ以上彼の部屋に彼と二人でいるのが、とてもじゃないが堪えられなくて身を翻した。
「お、邪魔しました…」
「待ってくれっ」
扉に手を伸ばした私は後から引っ張られて体制を崩した、と思ったら彼の腕の中にいる。
「えっ、あの…や、止めて。離して下さい」
「待ってくれ。手荒な事をしてすまないが話をさせてくれ」
そのレザファさんの言葉が酷く切実だったので黙って頷いた。すると安堵の息と共にゆっくりと腕を解いてくれる。
そして私の背中に向かって話し出した。
「先日の事は…酔っていたとは言え、その…」
「止めて下さい。そんな事なら聞きたくない。私は謝罪が欲しいんじゃないっ」
「す、すまない。分かった。……それで、その」
(煮え切らない言葉がもどかしい。大体にしてあんなに切実に私を引き留めた理由はなんなの)
「………あの日、おれは久しぶりに街に戻ってきて気が緩んでいた。元より分かっていた事だったんだが、遠征中に……その、失恋が明らかになり…部屋に戻りたくなかったんだ……」
声が、レザファさんの声が震えている。
「それで……暫く眠れずにいたからつい深酒を…だが中々、酔う事も眠る事も出来なくて酒が更に深くなってしまったんだ。そんな時にきみが…」
「す、すみません。付け込むな事をしてしまって」
「いや、あの時は普段から避けていた様な事におれは救われたんだ」
彼の声が優しいものに変わった。無性に顔が見たくなって体を動かすとそのまま抱き締められた。
「あ、あの…」
「すまない…だが…あぁやはり、きみだ。とても落ち着く…」
(一体何が起きているの?私に身体を預けている彼は心地良さそうに瞳を閉じている)
「我ながら現金だとは思うんだが………実はあの夜以来、謎の女性の事が頭から離れなくて。また眠れない日々を過ごしていたんだ」
「え、それは……えっと…」
「きみさえ良ければなんだか、こんなおれで良ければ側にいてくれないか」
(─────────っ、な、な、な、な、)
わなわなと奮えて言葉が出ない。
(今なんて言ったの?聞き間違い?ほんとに?)
「だ、だって…レザファさん…好きな人………」
言いたい事や聞きたい事は沢山あるのに言葉を選ぶ余裕もなくて、なんとか紡いだのはよりにもよって一番聞きたくない事柄だった。
「それは…その、ムシの良い話だがきみと…#ナマエ#がいてくれるなら忘れられる、と思うから…」
「本当に?」
「すぐには無理でも……何より…おれはこの温もりを離したくないんだ」
「ずるい……」
(ずるい人。でもその言葉を私はきっとずっと欲しかった。この人が欲しかった)
「浮気は許しませんからね」
「し、しないしない。絶対するものか」
「ふふっ、じゃあ良いですよ。レザファさんと付き合ってあげます」
「#ナマエ#…ありがとう。本当にありがとう」
にっこりと微笑んで喜んだレザファさんは私を持ち上げてくるくると回る。
(え、あぶな…じゃなくて有り得ないからー!)
「ちょっと止めて下さいっ!!」
手を精一杯伸ばしても彼に届かないから暴れてみると、そのまま二人で寝台へと倒れ込んだ。
「もー…痛い…」
レザファさんと目を合わせてくすっと笑えば彼も笑ってくれて、くすぐったい様なキスを交わす。
(貴方は私が幸せにしてあげる)
そう、強く誓った。
Fin(15/11/28→24/03/11)
お読み下さりありがとうございました。
此方のお話が小説家になろうのサイドで二作目の投稿になります。まだまだ右も左も分かりませんが、執筆中の物は置いといても何も作品が無いのはつまらないと思い、過去に別サイトで執筆した物を投稿させて頂きました。
短編を持ってきたのですが、これまた似た様な話になってすみません。企画イベントに参加したくて選んだものなので似ているのはその為もあると思います。こう言うお話、主人公の系統も勿論嫌いじゃないから書いてますが、そういうのが大好きでそれしか書かない訳ではないです。ではではこの度はありがとうございました。
ご感想など頂けたら幸いです。お気軽にどうぞです。貴重なお時間ありがとうございました。
24/03/11 伽羅